花で見送る

花で見送る といじま

気が付いたベッドの上で明朝のごみの始末を言い置く母は

ドラマより告知の部屋は窮屈で主治医の胸のペンがかわいい

Sick mom laughs, between the clouds in June comes out the brightness of the sun.
(病床の母が笑えば六月の雲の隙間にのぞく明るさ)

ひとときを母と語らう花を置くスペースも無い仕切りの中で

絵手紙を伯母に出したい母のため文具店まで妹と行く

平成を越えていくのだ妹も昭和生まれの寝ている母も

病棟で母の裸を見た時にもうえっちだと思わなかった

糸巻は転がっていくホスピスに移ることさえ叶わぬ速さ

花を撮るそんなくだらぬ孝行はないけれどまだ撮り続けている

うっかりと落ちた涙に驚いて拭おうとする母、三日前

アラフィフの二人を迸る語彙がお疲れ様とありがとうだけ

有休も足したらどうと丸々の五日忌引きをもらう社員に

母たちはそっと収納されており引き出しごとの霊安室に

忘れずに帽子をかぶる人だった遺影にならぬ笑顔のあまた

妹に会いにきたのだ止めるのは忍びないとのいとこの車で

空色の着物の上に花を敷き棺は晴れた花園に似る

この春の土手の桜も入れたくてプリントをしてこれも棺へ

こんなにも毒気のなくて佳い人に産んでもらって不肖の娘

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