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摂食嚥下障害患者に対する歯科衛生士の役割ならびに現行制度改革

 1948年に制定された歯科衛生士法によると、「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなすことのできる医師を含む)の直接の指導の下に、歯牙および口腔の疾患の予防処置と口腔衛生の向上を図ることを目的としている。
 臨床現場における歯科衛生士業務の主要三科は、歯科予防処置・歯科保健指導・歯科診療補助であり、診療の補助業務は実質的に能力に応じた歯科医療の介入が許されている。(公)日本歯科衛生士会は、歯科衛生士の行う専門的口腔ケアの定義を「誤嚥のリスクの軽減、肺炎予防を目的とする口腔衛生管理に加え、安全な摂食を可能にするための食事指導、対象者に残されている口腔機能の維持、向上を目的とするリハビリテーションの実施など、これらを総合的に行うこと」としており、歯科衛生士は口腔機能および口腔衛生管理のプロフェッショナルである。歯科衛生士のフィールドである歯科の性格を確認する意味で、(1)歯科はリハビリテーション医療 (2)口腔疾患の原因は細菌である。この2つのキーワードに焦点をあてながら、摂食・嚥下に関する教育内容について述べる。

(1)歯科医療は歯および口腔器官の器質的崩壊による口腔機能障害に対    し、欠損部の治癒と修復による咀嚼・発音といった口腔の二大機能の回復と保持を目的としており、本質的なリハビリテーションの概念に沿った医療行為である。
(2)咀嚼機能で最も重要な器官は歯である。歯が失われる歯科の二大疾患はう蝕と歯周病で、その原因は口腔内に700~1000種常在している細菌(オーラル・フローラ)であり、誤嚥性肺炎の主な原因である。
 全国の歯科衛生士養成学校157校における摂食・嚥下リハビリテーション教育はどのようにおこなわれているのか、正確なデータがないため実態は把握されていないが、歯科衛生士のための副教本が出版されるなど多くの学校で導入されている。
 宮城高等歯科衛生士学院では、2001年度に全国に先駆け、修業年限を三年制へ移行し、カリキュラムの大幅改正、組み直しに伴い、新たに摂食・嚥下リハビリテーションの教育を導入した。目的として摂食・嚥下障害を有する対象者および高齢者への適切な歯科衛生ケアを行うため、摂食・嚥下指導および専門的口腔ケアの基本的な知識・技術・態度を修得すること。その内容は専門的な講義と機能的口腔ケアに関する実習で構成され、定期的に施設を訪問し、嚥下障害を有する対象者へリハビリテーションを含んだ口腔ケアを実施している。
 我が国は超高齢社会にあり、急増する摂食・嚥下障害クライアントの需要と供給の観点からinterdisciplinary(seeds-oriented)→transdisciplinary(needs-oriented)にならざるを得ないのが実情であり、歯科衛生士の摂食・嚥下障害に対する知識とスキルをどのように高めていくかが教育機関の課題である。しかし、現場における彼らの能力が十分に発揮できる制度になっいない面があり、国による制度改革と環境整備が急務である。

               東邦歯科診療所 院長
               宮城高等歯科衛生士学院 学院長
               全国歯科衛生士教育協議会 参与
                           吉田直人 

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