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偉大なGrossman教授との思い出

 AEE DISCUSSION OPEN FORUM                                                     ~Memories with the great Professor Grossman~

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いただいた反応です。

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 Dr.Grossmanは、歯科界(歯内療法)では神様の様な人物で、ご存命ならば120歳になる。先生の著書(教科書)は、現在13版になっている。

 1983年に私がAAE総会で、active memberになるために参加した時の話です。

 私がGrossman教授に直接お会いしたのは今回が初めてのことで、なんの先入観も持たず接することができ、教授の別な一面を知る機会に恵まれた。ハリウッドの学会中、総会の展示場に設営されたAAE案内場において、たまたま昼食時間のため係員が不在であったのか、周囲に散在したパンフレット類を一枚一枚ていねいに整理していた年配の紳士がいたので、私はたどたどしい英語でAAEに関する質問を二、三したところ、彼はゆっくりした口調で説明してくれ、数枚のパンフレットを私に渡しながら遠い日本から参加したことを感謝すると述べられた。私は「ずい分親切な事務局員であるなあ!」と思いながら、形式的なお礼の言葉を述べ、その場を立ち去った。翌日、ある席で大谷満先生よりGrossman教授を紹介されたとき、昨日の老紳士が偉大なGrossman教授であることを知り、いささか狼狽し恥ずかしい思いをした。偉大なGrossman教授と知り合えた機会に、自分の症例に対する良き指導を得ることを期待し、私が自分の症例のX線写真をおみせしたところ、教授は”わたくしは現在臨床から遠ざかっており、正しいアドバイスを与えることは不可能であるゆえ、貴方にとって参考になるかどうかわからないので、臨床に関する意見を述べることは勘弁してほしい”との内容のことを話され、症例に関する全般的な感想をつけ加えて下さった。このような態度に接し、いかにも学者ならではの考えであり、私のような一介の開業医に対しても奢ることなく、真摯な接し方に深い感銘を受けた。Grossman教授は今年82歳の高齢であるが、側近によると記憶力の衰えは認められず、今でも研究生活に余念がないことを聞かされた。総会終了後、私たち一行はフィラデルフィアのペンシルバニア大学を訪問したが、その際教授自らキャンパスを案内説明し解説と講義をして下さった。大学付属のContinuing education centerでは、40数年前に教授が行った抜髄から根管充填に至る臨床術式の映画の映写があり、Grossman教授による解説が加えられた。これは現在の歯内療法と比較して見劣りするところは全くなく、むしろ歯内療法の基本原則に沿ったものであり、生体の構造を無視したテクニックと、省力化のみに傾向している最近の歯内療法に対する警告であるように印象づけられた。

 最後にGrossman教授はわれわれ一行に対するメッセージとして”自分はペンシルバニア大学を卒業して現在に至るまで、自宅と大学の研究室を往復する毎日でした。美しいフィラデルフィアとペンシルバニア大学をこよなく愛しており、このような環境の下で長年、研究生活に携わることが可能であったことに深く感謝しております。顧みて、わたくしは歯科医師であったことを誇りにしております”と述べられた。表現は平凡だが、重みのあるいつまでも心に残る言葉であった。現在Grossman教授は自家用車は使わず、通常の路線バスと列車を利用して通勤する毎日であるが、高い名声とは対称的にその生活は質素であるように思われた。私たちはバス停に急ぐ教授の後ろ姿を見送りながら、いつまでもお元気でありますことをお祈りした。

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