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歯科医療に求められるEBM(EBD)②

 私自身、大学を卒業して50年になるが、症例によっては患者に自信を持って明確な治療ゴールの提示ができないことがあり、臨床医として情けない思いをすることが多々ある。経験に頼り過ぎて、科学的な根拠に基づいた治療が成されておらず、治療行程が標準化されていないのが原因なのかもしれない。一方、医療は生体を対象にしており、同じ症例でも個人によって病態に違いがあり、全ての症例に標準化するのは無理なのではないかとも言われている。もし、歯科疾患が自然治癒の少ない医療分野であるとすれば、術者の判断・技能によってその結果が左右されるところが大きいと思われる。医科よりも歯科の方が術者の判断・技能のレベルによって治療ゴールの質に差が出るのは明らかである。

 歯科も医療の一分野であるから科学的な論拠に基づくことは当然のことである。しかしながら咬み合せの一つをとっても未だに諸説紛々であり、著名な臨床家の考えが、あたかもエビデンスに基づく学説のごとく論じられてきた経緯がある。過去70年間、世界中の歯学部において科学的な論理で膨大な研究論文が発表され、歯科臨床に応用されてきた。多分に政治的な意図が窺える話であるが、数年前、米国の矯正学会において特別演者として招聘された科学者が歯科で発表された咬合と顎関節症に関する論文を科学的な方法で検証(The Role of Intercuspal Occlusal Relationships in Temporomandibulan Disordres)したところ、大部分の論文がエビデンスに基づいていないとの評価を受け、一時期補綴学会を震撼させた話は周知のところである。ある著名なスウェーデンの補綴学者が国際補綴学会の特別講演で、それまで使用していたフェイスボーを集めて屑箱に捨てるスライドを見せられた時に、今までの補綴学の研究は何だったのか疑問を抱いたのは筆者のみではなかったと思われる。

 Restoration(歯冠修復)の分野においても、窩洞形成の原則にとらわれる必要がない歯質接着性レジンの充填に、100年前にGB.Blackがアマルガムやゴールドインレーを基本に考えた原則を今でも区別なく大学で教え金科玉条として学生に守らせていることには疑問を持つ。

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