暇事
骨が薄れている
我々の骨が薄れている
真っ直ぐに立つ人はもう
いないのだろうか
唯 望光(ただ のぞみつ)
「人人」より「骨」
乾杯しやう
その時分だらう
どうやらこの世の細事を
忘れても良い時が来たのだらう
山路照夫(やまじ てるお)
「明日には天が落ちるだらう」
より「忘虐」
指先を太陽光に透かしてみなさい
どうでしょう、空にもいのちがあるでしょう
私たちは繋がっている、
あなたはそれを、
ずっと昔から知っていたのです。
田島なずな(たじま なずな)
「畦道」より「山といのち」
とろけていく さざなみの貝殻が
流れていく 夏が私の記憶を置いて
波に攫われていく
吉崎長弥(よしざきちょうや)
「漣の追憶」より「水飴」
死というものは
細かく刻んでも
死だらうか
今、赤くもたれる私の指は
ならば死んでいるのだらうか
指の死んでいる私の体は
死人だらうか
伊田禄満(いだ ろくみつ)
「死人と糸」より「指輪と私」
やァやァ、
細かな細かな、
砂金粒を拾おう。
川の中にだってあるのだよ。
土の中にだってあるのだよ。
空の中にだって、ご覧。
夜に幾つも浮かんでいる。
ふふ、それが不思議なんだが、
たった一粒で、
僕らの心を照らすんだなァ。
太陽じゃいけない。
あれはちっとばかり、
眩しすぎていけない。
目が潰れてしまっては、
困るからね。
それに日に弱い人も、
居るのだからな。
砂金粒、不思議なんだが、
皆、温まるんだよ。
それにそこらに溢れていて、
皆がみんな、
手に出来るんだ。
探し方や、見つけ方は
なんでもいいんだ。
ただ皆が持っていることが、
ただそれだけが、
大事だから、さ。
岩尾金次郎(いわお きんじろう)
「砂漠の泉」より「砂金粒」
足枷のごとく、薔薇が咲いている。
私はこの薔薇畑無しには、
足枷こそが、我が生きる喜び、なのだ
田路露観(たじ ろかん)
「真紅、或いは焦燥」より「生きる」
種を撒こう
みすぼらしく、安く、小さく
しかし種、だ
やがて枝を付ける
蓑虫のように。
臥滋辰次(がじ しんじ)
「未熟」より「新芽」
何も考えていない時が好きだ。
何かを考えると
次々と浮かぶいくつもの
まるで自慰のように
詩と命と哀しみが失われて…
ただ失われた、ことだけが
知覚できるから
烏桓天元(うがき てんげん)
「自づから」より「雲」
私の胃にはイラガが
住んでいるのだろうか
葉脈で丁寧に切り開いて
ごつごつした石で撫でてやりたい
大宿深常(おおやど みつね)
「習慣事」より「胃痛」
重なりの延長に
無数にあるはずの連続体
しかし真っ直ぐな道の上、
誰にも知られないままに
人はどれほど生きられるだろう
林野山臣(はやしの やまおみ)
「る、私」より「連続」
星が空を滑つている。
なあ、見なよ。
あすこに、銀河の滑り台が
あるに違いないんだ。
とんでもなく遠くて
俺にや見れやしないんだけども
はは、楽しそうだなあ
星たちもさ。
小嶋山風呂(こじまやま ふろ)
「銀河一丁目」より「公園」
涙を舐めていると
海を確かに見る私がそこにある
もう少し引きずることにした
吉重木八(よししげ きはち)
「羨望に喝」より「延べる」
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