ドラッカーの教え/人の強みを生かす3
ドラッカーは部下の強みを手にいれたいのなら「弱みは我慢しなさい」と教えています。
例えば、大統領や首相になりたいと思わない者は偉大な政治家になることはできず、国が自分を必要とし、その運命が自分の肩にかかっていると信じるほどの自負がないかぎり、せいぜい少し役に立つ政治家になるに過ぎないと述べています。
そんな自負心を持った人には「謙虚さの欠如」が見え隠れしますよね。
自信はあるのかもしれないけど、その尊大さは平時であればその人の弱みになってしまうかも知れません。
でも私の経験上、企業経営にとって「平時」などは存在せず、常に様々な解決困難な課題や程度の差こそあるものの、いつも多くのリスクと隣り合わせです。
もし、そのような危険な状況下において強いリーダーシップが必要とされているのであれば、謙虚さの欠如には目をつぶり彼を受け入れなければならない、そうしなければ彼の強みは生かされないと説いています。
経営トップがそこまで腹をくくって部下の強みを経営に活かそうとできるかどうか、そこが問題になります。
また、優秀な人材を異動させる時もかなり悩みますよね。
ドラッカーはそういう時の判断の基準として、その人が明らかに強みを持っていて、その強みが仕事に関係し、強みによって卓越した成果を上げることができるかと考えたときに、答えが「イエス」であるならば、その人を新しい仕事に即座に任命しなさいと強く主張しています。
そうしないと強みを生かしきれないまま人材と時間を無駄にしてしまい、最悪の場合、その人が失望し会社を去ってしまうこともあり得るからです。
そしてそのような優れた人材を異動させようとするときに、頻繁に耳にするのは「彼を手放すことはできない。いなくては困る。」という現場のマネージャーの声です。
「欠くことができない」「若すぎる」「現場からのたたき上げ以外の者を配置したことがない」などの反論は一蹴しなければなりません。
ドラッカーは、そうした声に断じて耳を貸してはならないと明言し、その理由として実に面白いことを言っています。
「ある人が『欠くことができない』という理由は三つしかありえない。
第一に、その人が実際には無能でありながらかばってやる必要がある場合。
第二に、弱い上司を支えるために、その人の強みを使っている場合。
第三に、重要な問題を隠すためにその人の強みを使っている場合である。
いずれの場合であっても『欠くことができない』と言われる人は、なんとしても直ちに異動させるべきである。さもなければその人の強みを壊してしまう。」
私にも実に同じような経験が何度もありました。
優秀な社員を動かそうとすると、彼の上司が反対し抵抗してくるケースです。
「彼を動かされたら困ります」「彼は欠くことのできない重要なメンバーです」
私はそういう場面ではいつもこう思って、その上司の評価を下げていました。
「自分が育てた部下が高く評価されて次の任務を与えられることに反対する上司は無能だ」
彼のステップアップのために喜ぶよりも、自分のこの先の苦労を避けようとする、なぜ喜んで送り出さないのかと、常にそう思っていました。
上司は部下の仕事に責任を持ち、部下のキャリアを左右します。
従って、強みを生かすことは成果を上げるための必要条件であるだけでなく、上司たる者の「倫理的な至上命令」であり「地位と権力に伴う責任」だと、強調して教えています。
つまり部下の強みを生かすことは、マネージャーが成果を上げるために必要なことだからだけではなく、マネージャーに与えられた「人としての至上命令」なのだということなのです。
「部下の弱みに焦点を合わせることは、間違っているばかりか無責任である。上司たるものは、組織に対して部下一人ひとりの強みを可能な限り生かす責任がある。そして組織は、一人ひとりに対して、彼らの強みを生かして物事を成し遂げられるよう奉仕しなければならない。」
社員が強みを生かして成果が出せるように、会社が社員に奉仕しなさいと言うのです。
実に重い言葉ですね。
この部分は、「経営者の条件」という本のクライマックスのように私は感じています。
ドラッカーが渾身の力を込めて我々に教えを説いている、それが「人の強みを生かす」という章だと思っています。
あなたは社員の強みを生かすことを自身の責任としてどのように捉えていますか?
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