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【140字小説】とある先生とアシスタントの日常♯1~5

♯1(2022/01/22)

「先生、私の事信用してます?」
唐突なアシスタントの問いにむせ込む。
「…僕は信用できない人間を雇ったりしません。」
「では、盗み癖のある人は?」
「…何盗んだの?」
「徹夜明けで寝落ちした先生の唇を何度も盗んでます。」
…ゴクリ
飲み込んだのは、コーヒーと生唾どちらだろう。


♯2(2022/01/25)

「先生、最近私が盗んだ物は何でしょう?」
仕事の手は休めず淡々と問う。
「…最近徹夜はしてません。」
「ついさっきです。」
慌てて見回すが、変わった様子はない。
「…何ですか。」
「先生の目を盗みました。」
アシスタントの手には僕愛用のカップ。
じゃあ、今僕が口を付けたのは…


♯3(2022/01/27)

「先生、奪いましたね?」
「…え?」
毎度の唐突な言葉に筆を止める。
「先生が、私から奪った物…分かりません?」
と、静かに顔を近づけてくる。
「…君、それは…!」
背けた顔に腕時計を突き出される。
「終電過ぎてます。私の帰宅の足が奪われました。」
「…タクシー代出します。」


♯4(2022/01/29)

「先生、スランプですか?」
目の前には真っ白な紙とパソコン。
「…ネタ下さい。」
「素人女子大生を頼らないで下さい。」
「うーん…」
と紙に触れてみる。
「痛っ。」
「大丈夫ですか?」
切れた指にアシスタントの唇が触れる。
……この感触を表現するには…
スランプは脱したようだ。


♯5(2022/01/31)

「先生、返して頂けます?」
「…何を?」
アシスタントが身を乗り出す。
「私の…」
と右手を胸元で止める。
「…ここ…」
「…ちょっと待っ…」
「ここにいつも入れてるペン、姉のプレゼントなので。」
と僕からペンを奪って胸ポケットに差す。
いつもより胸元が開いてるのは気のせいだ…



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