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【エッセイ】天使は天使を夢に見たのか

私が初めて携帯電話を持ったのは短大生の時だ。
最新の機種でもまだカメラも付いてない。
そんな時代。
1人の青年が亡くなった。

私は高校生の時に彼を知った。
とある音楽雑誌でまだ10代の男の子のバンドがメジャーデビューすると知った。
「同い年くらいかな?」
と思ってたら本当に同い年でビックリした。
彼らの音楽に強く惹かれはしたが、当時の私は別のバンドが好きで、彼らは時々聴く程度。
でも、動向はチェックする。
好きなバンドの1つという感じだった。

そんな中、そのバンドのギターの彼は突然死んだ。
まだ19歳だった。

凡人の私から見て彼は天才と言うべき人でカリスマ性もあった。
死因は自殺では無かったけど、明らかに命を縮める行為だったと思う。
でも、死にたかった訳でもないと思う。

涙が止まらなかった。
慌てて大学のOA室のパソコンに向かいそのバンドのホームページにアクセスした。
当時はTwitterなんてない。
公式サイトにファンの交流用の掲示板が設置されていた。
掲示板はまるでチャットの様な速さで流れていた。
ファンが
「彼がいないなら死にます」
「さようなら」
「死なないで」
「死んだら彼が悲しむよ」
掲示板とは思えない速さの言葉の波は死で溢れていた。
後を追って死にたいという人。
それを止めようとする人。
何時間経っても言葉の波は止まらない。
私もどれだけ「死なないで」と文字を打ち続けただろうか。
「彼が死んだのはきっかけに過ぎない。元々死にたかった。」
「彼を言い訳に使うな。」
喧嘩のような諍いも起きた。
気付いたら私は涙と鼻水に塗れてゼイゼイと息を切らしていた。
大学のパソコンの前で息を切らす私は異様に映っていただろう。
予鈴の音で次は講義が入っているのに気付いた。

パソコンの電源を落とし、喫煙所でセーラムピアニッシモに火を付けた。
メンソールの香りがいつもより強く感じてむせ込んだ。
皆さんお気づきであろうが、彼と同い年である私は当時未成年だ。
でも、この短大時代が今まで生きてきた中で1番喫煙していた時期だ。
私が1番好きだったバンドのメンバーと同じ銘柄のタバコを吸っていた。
好きな人と少しでも同じ物を感じたい。
同じになりたい。
そんな憧れ。
この数年前にはXJAPANのhideが亡くなっていた。
後を追った人が沢山いた。
それと重なって怖くなった。
一緒に死んだって1つにはなれない。
同じ所へは行けない。
同じタバコを吸ったり、同じシャンプーを使ったり、好きなお酒を飲んだり。
そんな真似とは違う。
命だけはどんな真似をしたって近づけない。
むしろ遠くなるだけ。
痛いほど分かってた。
だから、むせても吸い続けた。
分かっていても、掲示板を通してでは伝わらない。
無力な自分を吐き出していた。

去年は私の年齢は厄年だったよ。
みんなお祓いしてもらったかな?
天使が集っていたあの掲示板の光景を多分一生忘れることは無い。
だから、あなたは生き続けてる。

なぜ、天使と呼んでいるか分かる人には分かったでしょう。
『Raphael』

私は家族のお弁当の卵焼きを作りながらよく歌を口ずさむ。
あなたの
「eternal wish」
が卵焼きに変わるなんてあの頃は思ってもいなかった。
若かったよね。みんな。

天使を大好きだったあの頃。
天使になりたかったあの頃。
その気持ちがみんな天使だった。

でも、体だけは人でいて欲しかった。

そんな気持ちも青く恥ずかしい。



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