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野原工芸の旧型シャープペンシルを注文したこと

今月、野原工芸のオンラインストアで旧型シャープペンシル(ミネバリ)を注文しました。受注製作で、納品予定は来年の二~三月とのことです。

野原工芸のペンに興味を持ったわけ

私は日々のタスクの記録にシャーペンを使います。B5のノートの半ページ、多くてせいぜい一ページが埋まる程度ですが、ほぼ毎日シャーペンを使っています。二三、好きなシャーペンもできていましたが、今年の六月、評判の高いパイロットS20をとうとう手にしました。二三、パイロットの万年筆を使っており、無意識のバランス感覚が働いたのか、パイロットのシャーペンにはそれまで手を出していなかったのです。

はじめてS20を構えたときのことは忘れられません。文字どおり、体を電気が走りました。慎ましやかな流線形が嵌まったのか、木の触感にやられてしまったのか、恐らくその両方でしょう。私はたちまちその木軸の握り心地の虜になりました。

滑りにくさを比べるなら、ローレットや、ラバーを用いたグリップがより優秀だと思われます。書きやすさを数値化しても、もしかするとそれらのほうが高得点をたたき出すかもしれません。しかし、そんな指標は私にはもう何の意味も持ちませんでした。

言葉にするのは難しいのですが、敢えて云うならその木軸の控えめな温かみが、乾いた私の心をいつもゆっくりと潤わせてくれるようでした。私は0.3mmのS20(最初に購入したのは0.5mmでした)とS30を同じ月に買い足し、今日までかわるがわる使っています。

そうして木軸が好きになってみると、それまで気づいたこともなかった野原工芸のペンについての言説が、しだいに目に留まるようになりました。そのうちには熱心に読んだり、聞いたりすることもあり、明らかにその影響でしょう、これは野原工芸は一本欲しいぞ、と思うようになりました。

では、なぜ私が旧型シャープペンシル(ミネバリ)を選んだかについて、覚え書きとして記しておきます。自分のなかでは論理立てて考えたつもりですが、傍から見れば破綻しているかもしれません。とはいえ、そもそも好みの問題であるので、客観性が期待できる話でもないでしょう。

Platinum #3776 Century Medium nib / Platinum Blue-Black / Tsubame Note W30S

なぜ新型ではなく旧型を選んだか

第一に、けっこうな価格差がありました。私は、野原工芸のペンを購入したのは今回が初めてで、ペンを持ってみたこともありません。実際に使ってみたときに、これは価格以上の価値があるなと感心するのか、価格の割にはさほどでもないなと拍子抜けするのか、現時点で読めるものではありません。ならば安全策をとるべきだと考えました。仮定の話ですが、「この値段でこの程度か」と云われるよりは、「この値段なのにすごい」と思われるほうが、ペンも幸せではないでしょうか。

第二に、レビューを参照すると、旧型と新型の大きな違いは、ガイドパイプのぐらつきにあることがわかりました。旧型ではガイドパイプにぐらつきが見られたのに対して、新型ではそれが大幅に改善され、ほとんど気にならなくなっているとのことでした。

しかし、普段万年筆を使っている者からすると、ペン先がカッチリ極まってブレがないのと、少し遊びがあるのとでは、果たしてどちらが書きやすいだろうかという問題意識もあります。殊によると、少し遊びがあったほうが、紙に接地したときの衝撃がやさしく、書き心地が優るのではないかと疑いました。新型の大きな利点とされるぐらつきのなさは、私にとっては無用の長物となる可能性があります。

最後に、新型の購入は次の機会に回すこともできますが、旧型はそろそろもう買えなくなってしまうのかもしれない。それを恐れました。以上三点の理由が相俟って、私は今回旧型を選びました。

なぜミネバリか

第一に、私はこまめに手入れができるタイプではありません。できればたまに乾拭きをする程度で済ませたいものだと考えてしまいます。そう思うなかで、「粘り」のある樹種であれば、比較的割れに強く、手入れも楽なのではなかろうかと目星をつけました。

第二に、私はペンの見た目を軽視するわけではもちろんありませんが、書き心地の面では、どうしても手触りの優先度が高くなります。調べると、木には年輪に沿って導管が並ぶ環孔材と、満遍なく導管が散らばった散孔材があることがわかりました。木目がはっきりと表れるのは前者であるとのことです。

ざっくりとした理解では、導管の偏在が顕著な環孔材は凹凸が感じられるのに対して、散孔材はそれを感じにくく、もっときめの細かい、すべすべとした手触りであるようです。これは好みですが、私には後者が馴染むのではないかと考えました。

以上の条件で絞りましたが、あとはもう感覚ですね。写真をあれこれ眺めるなかで、ミネバリがいいと思いました。判断が正しかったかは実際に使ってみないことにはわかりませんが、仮に見当外れであったとしても、よくよく考えての選択なので後悔はないでしょう。

原稿に用いたペン

野原工芸のペンはまだ届かないので、原稿を書くのに使った#3776センチュリーをカバー写真にしました。このペンはインクの出に過不足がなく、ペン先が滑り過ぎず、引っ掛かりもしません。そこに緻密さが感じられるところが気に入っています。

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