医療は信じるけど医者は信じない

医者なんてクズかカスかお人好ししかいない。そんなふうに感じる。実のところそうでもない人もいるのかもしれないけれど、でも何となく思われているよりははるかに「悪い」人ばかりというのは確実に思える。


医学部に入るときに大事なのは学力で、その他の認知機能や非認知的能力は二の次だ。あんまりにも向いていなければ面接で落とされるかもしれないけれど、わずかな時間なら誤魔化せる人だってたくさんいる。国家試験に面接はない。
同級生に、医学部に行った人はたくさんいるけれど、その中にこの人を信頼したいとか、命を預けようと思える人はいない。高校三年生と成人した後で、人の性質はどれほど変わっているのだろう。劇的に変わるとは思えない。


とはいえ、医療を信じないのかというとそうではない。いま行われている治療は、世界中の人がエビデンスを集め、経験をまとめ、それを基に効果を判断されている。一人の人間はクズで信用ならなくとも、ルールのもとに行われたこれらの結果は信用できるだろう。信用するというか、この世にこれよりマシなものは存在しないので、頼るしかない。
それなり程度にまともな医者であれば、これらのルールは守られる。だから医者を信用していなくても医療という選択はできる。薬とかを信用しているみたいなものだ。
とはいえ、それなり程度のまともさもない医者も多い。この治療法というのは日々進化しているわけだけれど、それを新しく勉強しない者もいる。それに対する罰があるわけでもないから、そのまま、ということが起こる。だからこちらもある程度の知識は付けなくてはならない。


さて、これらを考慮すると、いちばん信用できない医療は精神科ということになる。エビデンスといっても、他の診療科より確固たるものはない。症状の強さも、治ったかどうかも、今のところ客観的に調べる方法がないからだ。病気によってはそれでも治療法がそれなりに固まっているものがあるが、そもそも概念自体まだ確立し切っていないものもある。
ということは、精神科は医者次第の面が大きい。しかし、その医者の大半は信用できない。これは精神科医だからではなく、一般に医者、というか人間、があまり信用できない存在で、それを科学で補強していたのに、その科学がそれほど強くない精神科という領域だから問題になる。精神科は信用できない、となるのも仕方がないことだ。研究者が悪いわけでもない。精神は複雑だし、他の分野より研究そのものの誕生も遅いし、これから良くなるということだ。


とにかく、こうなると精神科は一般的に信用できない。もちろん、「良い」医者であれば信用できるし、もしいま通っている主治医が信用できるなら、それは素晴らしいことだと思う。しかしそこに辿り着くためにはかなりの苦労が必要だ。「ガチャ」的なものかもしれない。


医者は人間だし、当たり前だけれど聖人君子ではない。だから完璧なわけないのだけれど、何となく考える理想にすら全然達していないと考えた方がいい。医療倫理を守ろうとか、患者の尊厳に気を配ろうとか、信頼関係を構築しようとか、そういうことは全然やってないと思っておいたほうがいい。こういうことは医学部で勉強してはいるだろうけど、なにぶん科学ではないし、試験でもそんなに大事ではないし、場合によってはこれが必要と教えてくれる人はいないまま、ということがあるだろう。教えてくれたとしても、処方だとか手術みたいに目には見えないから、大事だと忘れる人もいるだろう。医者が思っているより信用できないというのは、その点についてだ。多くの医者は患者を救いたいと考えているし、治療そのものについて熱心に学ぶ人もかなりの数存在するはずだ。しかし、それで手一杯とか、そもそもそれ以外考慮すべきことに思い至れないとか、いろんな理由で「きちんと」はできないのだ。それを誰も問題だとは思わないのだ。そういう点ではクズだと思う。

こういう点では精神科はさらに悪い。患者の尊厳だとか、医療倫理の遵守といったことが、そのまま治療に繋がるからだ。ほかの診療科ならば、患者を罵倒したとしても、手術が完璧ならその病気自体は治ってしまう。しかし精神科はほぼそうならない。薬だけで治る病気は今のところ多くないからだ。それなのに、多くの医者は薬のこととか、標準的な治療のことしか頭になくて、治療に必要であるはずの倫理観とか人権概念に気を配らない。これだと、寛解しないとまでは言わないけれど、寛解にたどり着くのが遅くなるはずだ。悪化する恐れすらある。


精神科に関して言うと、医者というものに期待すべきではない、というのが持論である。もちろん、結局頼れるのは医療ということには変わりないのだから関わる必要があるのかもしれないけれど、思っているよりは期待できないと考えた方がいい。そうでないととてもがっかりしたり、それで病院から遠かったり、あるいはとんでもない医者を信じた結果悪化するということもある。こちらが期待という色眼鏡を外しておかないといけない。

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