きょうのひはさようなら

I hate you but I love you.

 エヴァンゲリオンとの出会いは単なる偶然だった。アマプラに確か新海監督の作品があったはずだから観ようと思って開いた、しかしそこに目当ての作品はなかった。どうやら配信期間は終わったらしい。どうしようかと思っていると新劇場版のエヴァがサジェストされた。新、などとついているからには先に観るべき作品があるのではないか。そう思って検索したところ、話自体は新劇から観ても分かるらしいと知った。それで再生ボタンを押す決心がついた。

 初めからインターネットで見たことのあるシーンのオンパレード。彼らはこれのことを言っていたのか。その気づきに興奮する間も無く、僕はエヴァの世界に引き込まれていった。特撮が好きだったから、ロボットが戦うシーンは好きだ。戦闘には司令官が欠かせない。そんな格好いいシーンの連続に心躍った。

 そんな中まさに襲来してきたのは式波・アスカ・ラングレーであった。真っ赤なプラグスーツ、真っ赤な二号機。勝ち気な彼女はしかし、初めからどこか寂しげな気配を纏っていた。ひとりぼっちで、だから勝つしかないのだと、パイロットでいるしかないのだと言い聞かせる彼女。そんな彼女に心を奪われた。

 だからエヴァ破は好きだ。アスカが酷い目に遭うのに。だからこそ好きだ。

 14年経った彼女は変わっていた。そして変わっていなかった。弱い僕にとって、さらに強さを纏い他人にも強さを強いるようになった彼女は怖い存在だった。そんな言い方しなくてもいいじゃないか。みんな事情があるんだから。そんな怖い顔しないでよ。だから僕は彼女が嫌いになった。
 それなのに、心のうちにひとりぼっちの強がりを彼女は未だに抱えていた。夜の闇の中、皆が寝静まった現とも知れない時間、ひとり意識のあるあの時間は言いようのない恐ろしさと安心に包まれている。孤独が人を苛み慰める時間。彼女はどれほどの夜をそうやって過ごしていたのだろう。

 上映中だったシン・エヴァンゲリオンを観た後、すぐにテレビアニメ版と旧劇を観た。惣流・アスカ・ラングレーは僕を虜にした。彼女の内面も生い立ちも、より丁寧に描かれていたからだろう。幼い心に負った傷。まだ膿んだままの傷。それを隠し、けれど癒す誰かを求め不器用に周りを振り回す。僕にとって、そうやって周りを感情で振り回す人間は脅威だった。だから惣流・アスカ・ラングレーという少女は脅威だった。それなのに、僕は彼女のことが好きだった。きっとその心に負った傷のせいで。

 彼女が偽りの復活を遂げた瞬間、その目に、その心に映った母親は幻なのだろうか。彼女にとっては疑いようのない真実だったに違いない。だからこそ彼女は救われ、復活を遂げたのだ。しかし周りからすればただの幻影、勘違い、気のせい。だからこそ彼女は完膚なきまでに打ちのめされ、ボロボロになったのだ。

 僕はそのシーンを繰り返し観た。彼女が救われ、そして滅んでいく姿を。それこそが救いだと思った。滅びまで含めたそれが救いだ。一瞬の幻を、永遠の幸福を実現するのは瞬間の無だから。

 僕たちは相容れない。アスカという少女は、僕と同じであり、そして正反対だ。きみのことが嫌いだ、憎いのだ、そうやって我儘に振る舞うのが。きみのことが好きだ、愛しているのだ、その心の奥底に隠した傷ごと。

 アスカが好きな僕のことを、お前なんかに分かられてたまるか。

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