遠近 / tohchika

生と死の隣り合うところから。

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生と死の隣り合うところから。

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忘れ得ぬあなた

葬儀というものはとてもプライベートなものなので、ここにあまり具体的な思い出を書き連ねるわけにはいきません。書くとしても、ある程度時間がたったお式のことだったり、あるいはフェイクをいれて……ということになると思います。 そのうえで、ひとつの式のことを書きたいと思います。 亡くなったのは、50代の方でした。知的障害があり、子供の頃に登校拒否になり、以来ずっと、生涯を通して、家の外にはほぼ出ずに過ごしてきたそうです。 故人様を見送るのはご両親のお二人のみ。おふたりとも大変高齢

    • 「バッハ会長の挨拶を夜に聴いたせいです」

      こんばんは。 タイトルはサカナクションの「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」からですが、ここで触れるバッハは国際オリンピック委員会(IOC)会長トーマス・バッハ氏のことです。 先日オリンピックの開会式を見ていたところ、バッハ会長のスピーチがえらく長くて……。実際、予定は橋本氏と合わせて9分だったのに、20分になってしまったそうです。 さて、この挨拶を受け、非公開のtwitterアカウントで書いたことが、フォロワーさんのツイートによりプチバズっておりました。(しばっちさん

      • 一緒に、夜の海の岸辺まで

        2020年の、すべての葬儀を終えて、この文章を書き始めています。おそらく公開できるのは三が日のどこかになるでしょう。 今年もたくさんの出会いと別れがありました。たくさんのご遺族様のお顔、お言葉が目に、耳に、浮かびます。 そのなかでも、どうしても頭から離れないのは 「あなたの言葉が、母を天国に導いてくれた」 という言葉です。 背景を説明すると、これは葬儀の中でも最近増えている「自由葬(無宗教)」を選択され、終えた後の、ご遺族様の言葉です。 無宗教で葬儀を行うというこ

        • DIY葬、あんまりおすすめはできないよのお話

          先日、「Amazonで売っている棺のレビュー」がtwitterで話題になっていました。こちらです。 私は業界を背負っているわけでもなんでもないので、いわゆる「DIY葬」という選択肢が増えることはいっこうに構いません。お客様のニーズに合わせて葬儀業界が変わっていく、ということも大歓迎。実際問題、葬儀ってとってもお金がかかるわけですし、そのお金を払いたくない人、払えない人にとっての選択肢が存在する、ということは良いことだとは思います。 ただ、「ちょっとでも安くしたいなー」くら

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        忘れ得ぬあなた

          すべてのあなたの、そばにいたい

          今日はまたこの仕事、この場所が好きな理由のひとつについて書きます。好きな理由がたくさんあるので、話が尽きないのです。 少し前には好きな理由として【生と死が同居する様態の奇妙さ】について書きましたが(参考:棺と卵子、神道とスティックブロッコリー)、今日は最初に簡潔に言ってしまいます。私がこの場所を好きな理由、それはこの場所の持つ【多様性と平等性】に依ります。 そう、私がこの場所を好きな理由。それは、この場所には、「ありとあらゆる人がここにたどり着く」可能性があるからです。

          すべてのあなたの、そばにいたい

          抱きしめられなかった魂のこと

          なぜ葬儀の仕事をしているのか、聞かれることが時々あります。直接的な経緯としては完全にその場の勢いなのですが、よく考えれば、ここに至るまでには長い伏線がいくつかあったようにも思うのです。今日はその「長い伏線」のうちの、一つについて書こうと思います。 みなさんは、葬儀に参列したことがありますか? 私は完全にプライベートでの参列経験が 祖父の死、祖父の死、叔父の死、祖母の死、先生の死、会社関係の方の死、友達の死、友達の死、友達の死、友達の死 と、おそらく人生で10回あります

          抱きしめられなかった魂のこと

          看護師さんへのラブレター

          最近、stand.fm という音声配信サービスも使いはじめたのですが、いわゆる「お便り」をいただきました。 ものすごく嬉しくて、一所懸命お答えする中で、自分でも考えの整理をすることができたので、ちょっと文章に書き起こしてみようかなと思います。(厳密には言葉尻など違っているかもしれませんが、意図が伝わるように書いておりますのでご承知おきください。) いただいたお便りはこうでした。 はじめまして。葬儀社の方から医療者(看護師)へのお願い事とか、こうした方がありがたいとかあれ

          看護師さんへのラブレター

          気にしすぎないでね、葬儀でのマナー

          葬儀、といえば出てくるのがマナー問題で、服装やら行動やら、調べれば「こうあらねばならぬ」という言説は多々出てきます。 ただ、運営サイドとしての個人的な意見を言わせていただけば、「気にしたい人は気にすればいいし、気にしませんという人は気にしないでいいのではなかろうか」という心情です。 例えば、以前超ミニスカートに生足だった方がいて、焼香でお辞儀をするたびにさらにスカートがあがってしまうため、会葬者の目線が釘付けになって……ということなどはありましたが、それも本人がいいと思っ

          気にしすぎないでね、葬儀でのマナー

          棺と卵子、神道とスティックブロッコリー

          私がこの仕事、この場所が好きだなと感じる理由のひとつは、死と生が隣り合って存在する様態の、その奇妙さだ。 奇妙、と書いたが、それは本来奇妙なことでもなんでもない。生の延長線上に死がある。生と死は同じもの、隣り合うもの。解釈の哲学的議論はあっても、異種のものではないことは多くの人が同意するところだろう。 ただ人類が、死のもたらす様々な種類の恐怖と悲しみに対抗し、より良い方向へと努力し続けた長い歩みの結果、現代においてはあまり生と死が同居する場所は多くない。それゆえ、葬儀場と

          棺と卵子、神道とスティックブロッコリー

          彼岸と此岸の間から

          私が名乗った後、その女性は私の顔を見て、胸の名札を見て、そして涙ぐんだ目でもう一度私の顔を見た。「遠近さん、父は今どこにいるんです? 父は今どういう状態なんですか???」 女性の父は、女性のすぐそばに横たわっている。桐の棺の中に。 女性が聴きたいのは、「父の魂は今どうなっているのか」ということなのだ。彼女は悲しみ、混乱している。出会って5秒ほどしかたっていない人に第一声で「父の魂の在り処」を尋ねられる仕事はあまりない。彼女の心が求めている答えを私は急いで探す。 「じゃぁ

          彼岸と此岸の間から