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吹き替えアニメ 英語表現 (5) 怪獣8号 / Kaiju No. 8

一時期あちこちで宣伝されてたし、マンガも未読だったので、見てみた。英訳は全体にストレートな印象。元の日本語が素直なんだと思う。

お前もうちょっと自分を大切にしろよな / You shouldn't go taking risks like that just to prove yourself

英語圏で一般にどうかは分からないが、アメリカでは prove oneself という表現はよく見かける。自分を prove しなければならない、という気持ちの強い文化なのかもしれない。昔、子供たちとディズニー見てるときによくそう思った。誰もが、自分が特別だと証明しようとしてるみたいだった。全員が特別になんてなれないのに、それを encourage しすぎるのはいかがなものかと思ったものだった。

英語の prove oneself のメジャーさに比べて、日本語ではそういう考え方が弱いので、元の表現は?と思って日本語を聞いてみたら、そもそも対応する表現がなかった。この吹き替えでは、文脈からやや積極的に補ったということになる。

討伐 / Neutralize

本作では、怪獣の「討伐」が neutralize と訳されて、ものすごく頻繁に使われる。辞書を引くと neutralize は中立化するとか無力化するとかいう意味が最初に出てくるが、ちょっとマッチしない気もする。Cambridge Dictionaryでは
(especially of a military force or government) to kill someone:
という項目があり、軍事作戦的なニュアンスを出したいのかも知れない。「ブラックラグーン」には爆弾による要人暗殺のシーンで ”Target neutralized" (起爆、確認) という訳があり、こちらはこの語義によくはまる。

その他、neutralize は組織名、学校名(?)などにも使われていて、違和感があるが、こうもあちこちで使われると、どの文脈でもはまる一つの訳語なんて、選びようがない。「東京討伐大学」みたいな元の日本語だって、結構変だしな。

ぶち抜くから歯食いしばれ / Better brace yourself 'cause I'm punching straight throught it

"Brace yourself" は調べると「覚悟しろ」という日本語訳が出てくるが、日本語を見る前に、場面から何となく「歯食いしばれ」だよねコレ、とは思った。braceの文字通りならその方が近い。
"Punching straght through it" も、マンガでよくある、相手の体を文字通り貫いているような状態そのままの表現。

さっきの叫びは断末魔やなかったんか / So that last scream that it let out wasn't just a death rattle?

これも、"death rattle" は「断末魔」だったんでしょうね、くらいには思ったが、ハテ英語ではそんな言い方するのかいな?と思って一応確認すると、Wikipediaの記事まである。

断末魔というと、事故や殺人で死ぬ前、唐突かつ強烈な痛みや恐怖から「ぎゃー」と叫び声を上げるのを想像するが、上記の ”death rattle” はもうちょっと医療的なコンテキストの症状名みたいで、結構イメージが違う気がする。
実際の怪獣の声がどちらに近いかというと、どうかな……  death roar という感じだが、そんな言葉はなさそうだった。

オープニング・エンディングの歌、劇中バトルシーンの音楽が、やけにスタイリッシュで印象に残る。作品の骨組みが古典なので、細かい設定を含め、彩りの部分は逆に先端的なテイストに仕上げたかったのかもしれない。

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