気温の変化で変わる売れ筋
これまで過ごしてきた何十回かの10月に比べ、はるかに暖かいものだった。
ここで11月に入ったが、生まれてからこれまで過ごした11月に比べ、とても暖かいものとなるだろう。実際、晴れた日の日中など、けっこうTシャツ姿の人を見かける。
紅葉も遅れているようだ。
まだ冷え込んでいかないのは、おそらく、酷暑の時期が長かったということも、あるのかと思う。
地表が温められ、その熱が残っているのだろう。
気温が極度に高い時期が長く続いたせいで、その後、なかなか落ちにくくなっている。
高度を稼いだ飛行機の方が、滞空時間が長い。それと同じだろう。
豚モツの卸売り業者としては、気温の変化は重要だ。売れる品物がちがってくるからだ。
豚モツの業者が扱う品物は、ざっくり言うと豚のお腹のものすべてだ。
部位で書けば、代表的なところで、「大腸」、「小腸」、「直腸」、「肝臓」、「心臓」、「胃」、「子宮」など。
もっと種類があるし、お腹の中のもの以外の「舌」や「のどナンコツ」、「こめかみ」、「豚足」もある。
それらは大きく、2つに分けられる。1つは、白いもの。そしてもう1つは、赤いもの。
白い部位は、腸全般がそうだ。他に、胃や子宮も入る。
赤い部位は、肝臓や心臓、舌など。飲み屋のメニュー用語で書いた方が分かりやすいかもしれない。レバー、ハツ、タンなどだ。
これらを2つに分けて考えるのは、色だけでなく、売れる時期がちがうからだ。
白い部位は寒い時期に需要が上がり、赤い部位は夏に人気商品となる。
本来であれば、11月あたりから白い部位の注文が増える。もつ煮を作り出すからだ。
焼き鳥屋や大衆酒場などは、夏でももつ煮を売っている。だから、夏場に白モツがまったく出ないわけではない。
しかし暑い時期の熱い汁ものは、さほど売れるものではない。寒くなって、グッと注文が増える。
そこで、業者への発注量が増えるのだ。
ところが、いくつかの業者に聞いてみたところ、気温が下がらないので、あまり白モツが動いていないということだった。
逆に、夏の売れ筋であるタンやこめかみ(カシラ)、レバーの注文が落ちないという。
レバーはともかく、タンやこめかみは1頭から取れる量が少なく、夏場は足りずに苦労する部位だ。盛夏の時期など、欠品となってしまうこともある。
それを避けるために、寒い時期に、ある程度冷凍して貯めておくのだが、この冬はなかなか貯めるところまで量が確保できない見込みだという。
貯められなければ、来年の夏に、より不足することになる。
そういった状況が何年も続けば、タンやカシラが極度に入手しにくく、希少な高級食材になってしまいかねない。
焼き鳥のお品書きに必ず載っているタンやカシラも、あまり見なくなるかもしれない。
また、今のところは、他の部位と同一の料金で売られているが、突出した価格になる怖れもあるだろう。
焼き鳥のタンやカシラが大好物だという人には、寂しい時代が訪れるかもしれない。