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豚モツ業者が検証する『ベトナム人の豚盗難事件』 その1 豚の搬送

 
 最初にこの事件を知ったのはyahooニュース。その、窃盗から運搬、屠畜、解体、処理、製品化、販売までの一連の流れを頭の中にめぐらせ、なんとも豪快な事件だなと驚いた。おそらく日本人ならしない、かなり骨の折れる、割に合わない犯罪だったことだろう。
 
 とっても骨の折れることには間違いないが、しかし上記の手順を知っている者であれば、場所や道具が揃っていなくてもやってやれないことはない。ぼくはこの事件の詳細を知らないが、一般的な豚の商品化までの流れに沿って、彼らの行動を記していこうと思う。多分、大方のところは当たっているのではないか。
 
 まず、豚の運搬だ。小さいものを狙っただろうが、ある程度の嵩がないと売って利益が出ない。車や道具の借り賃、手伝った者への報酬など必要経費もあっただろうから、40キロ~50キロ程度のものを盗んだのではないか。ちなみに、一般的につぶす豚の目方はこれの倍ちょっとといったところだ。50キロではかなり小さい。肉もそれだけ取れないということだ。
 
 小さいといっても、家畜としてはという意味だ。このサイズでも突進されたら骨折してしまう。例えば棒立ちしているところに膝にでもぶつかってこられたら、一生背負っていくような歩行障害になりかねない。ぶつかってくる高さが、ちょうど膝くらいなのだ。また、豚は犬のようにおとなしく従うことがなく、なにかの加減でパニックを起こして逃げ回ってしまう。当然、鳴き声つきだ。誰もが知っているように、キーキーと甲高い声。だから小型のものを選んだとしても、運ぶのがとても難しいのだ。生かしたままの運搬も面倒だ。周りに見られないよう箱付きの軽トラックを使うのが妥当だろうが、あの鳴き声は漏れてしまう。信号待ちなどで並んだ車に、不審に思われてしまう。
 
 こう説明すれば、その場で絶命させてから運んだのだろうと考える人もいるだろう。しかし、これはこれでむずかしい問題を抱える。
 
 むずかしい問題というのは、絶命させたらすぐさま放血作業というものが必要だということだ。主にのどの大動脈を切って、血を出す。血を抜かないでおくと、それが肉に混じってしまい、肉質が極端に悪くなる。味がガクンと落ちてしまうことになる。しかし放血は熟練の技がいるし、また犯人の立場からいえば、現場で時間もかけたくないことだろう。返り血も浴びてしまうことになり、着替えも必要になる。そういう諸々があるので、単純に、殺して運べば騒がれない、とはならない。
 
 最も考えられる運搬方法としては、屈強な男が数人がかりでまずは車まで運び、冷蔵車の箱の中で絶命させたのではないか。それなら鳴き声も最も短くなる。冷蔵車の中の栓をしっかりしておけば、その場で血をたらすことも防げる。当然放血はいい加減なものになるだろうが、肉質や味などには目をつぶったのかもしれない。
 
 そして考えたくないことだが、痛めつけて運ぶということもあるかもしれない。泣き喚くことができないくらいに。必死になっている者なら、そこまでやる恐れもあるだろう。瀕死の状態で運び、都合のいい場所で放血をしたのかもしれない。
 
 (つづく)

駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。