いま、noteマガジンをはじめる理由

「出版に漕ぎ着ける程度に支持を集められる小説を書くために必要な技術」について書く。
もちろん、実際には小説本体だけじゃなく、公開する方法や場所(プロモーションやマーケティング)の要素も強いし、正直、一定のラインにさえ乗ればあとは運だとも思うけれど、今日は技術について考えたい気分なのだ。


さて。
「小説」という媒体で戦うなら、この2つの技術が武器になるだろう。

・魅力的な世界を創り出す技術

・世界を魅力的に描き出す技術

「魅力的な世界を創り出す技術」は、読者が一見して「こんな世界に行ってみたい」と思うような、夢のような世界を創り出す能力である。
浮遊城で剣を振るい冒険するVRMMOゲームの世界を夢想し、キャラクターを降臨させ、細部の辻褄を合わせ、確かにそこにひとつのセカイがあるのだと説得力を持って読者に投げつける力。ゼロからイチをつくる力と言ってもいいかもしれない。

「世界を魅力的に描き出す技術」は、生み出された(あるいはそこにある)「イチ」しかない世界を、百にも千にも増幅するための技術である。
文章表現、言葉選び、修辞法、句読点の使い方、台詞回し……その他あらゆるものを使って、生み出した世界を魅力的に飾り立てる力。ただ設定を並べただけの小説なんて、よっぽどの物好きしか読んでくれない。その世界がいかに魅力的なのか、作家は言葉の限りを尽くして騒ぎ立て、読者を誘き寄せ、沼に引きずり込まねばならないのだ。

では――曲がりなりにも「ラノベ作家」を名乗っている兎谷あおいの得手は、このふたつの技術のうち、どちらだろう?


昔から、本を読むのは好きだった。小学校でも中学校でも図書室に入り浸り、貪るようにページをめくった。
でも、思い返してみれば――幼心にがむしゃらに、本来勉強をするためのノートに夜な夜な自作の物語を書きつけるようなことは、した覚えがない。

高校のとき。友人に誘われてふらっと応募したエッセイコンテストで、優秀賞をいただいた。これで「あれ?文章の才能あるんじゃね?」と思ってしまったのが本を出したきっかけになるのだから人生は何があるか分からないのだが、この話で重要なのはこれが「エッセイコンテスト」だったことだ。わたしは世界を創ったんじゃなく、描き出しただけだ。

わたひゃく』はどうだろう。現代(web版は2017年、書籍版は2019年)の日本、首都圏で、特に異能も持たない先輩と後輩ちゃんが「一日一問」だけ質問をし合ってお互いの距離を縮めていく、それだけのお話だ。
わたしはほとんど世界を創っていない。「現実世界」というスターターパックに、ほんの少しだけ手を加えただけ。

もちろん、わたしだってちゃんと世界を創ろうとしたことくらいある。「小説家になろう」の過去作を参照されたい。
エインヘリヤル・オンライン』は事実上エタり、『バグハン』も雲行きが怪しくなっている。がんばる気はあるけれど。


ここまで書けば、もうお分かりだろう。
わたしの今抱いている疑念は――兎谷あおいは「世界を魅力的に描き出す技術」こそそれなりにあるものの、「魅力的な世界を創り出す技術」については実はからっきしなのではないか、というものだ。

だって、よくよく考えてみると、わかるもん。自分で。
わたしは、物語そのものには、ほとんど感動しない。ところが、ある物語をその物語たらしめている超絶技巧やクリエイターの努力が垣間見えた瞬間、めちゃくちゃ感動するのだ。
要するに、空想の世界そのものでなく、空想の世界の魅せ方、描き出し方にピントが合っているのだろうと思う。
「ものがたりのつくりかた」という物語を楽しんでいるのかもしれない。

事ここに至っては、認めざるを得ない。
わたし兎谷あおいには、大長編ファンタジーを描く技術は、なさそうだ。

人生はキャラ育成みたいなものだ。どのパラメータにどれだけの資本を注ぎ込んで経験値を振ったかによってビルドが決まる。
現状の自キャラをラノベ作家(商業デビュー済)と比べるとしたら、「魅力的な世界を創り出す技術」は平均より低く、「世界を魅力的に描き出す技術」は平均~ちょい上くらいだろう。どちらも平均以下だったら、フィールドに上がることすらできていないだろうから。


自分の弱みをしっかりと見つめたところで、次にやるべきことはこれからの戦略を練ること。弱みを埋めるか、強みを伸ばすかだが――

わたしは、自分の強みを伸ばしたいと思って、このマガジンをはじめようとしている。

この世界には、クオリティの高い物語が溢れている。わたしは、それらを押し退けてまで、自分の生み出した世界が世に残ってほしいとまでは思わないのだ。
では、何が残ってほしいかといえば――わたしのミーム。思考の癖。言葉の選び方。文章のリズム。自分がこの世界に産み落としたものを誰かが受け取って、そこから何かを受け継いでくれることをわたしは望んでいる。願わくは、そのサイクルを永遠に。目指すのは擬似的な不死だ。

だから。
「魅力的な世界を創り出す技術」は、このさい、要らない。優先度が低い。

わたしは、「世界を魅力的に描き出す技術」を、もっともっと磨きたいと思う。この世界か、隣の世界か、はたまた誰か「創り出せる人」が見つけてきた世界か――どんな世界を描くかはその時になってみないとわからないけれど、とにかく、世界を描く練習をしたい。する必要がある。


そう思って、このマガジンをはじめました。

「喫茶うさたにのバックヤード」では、わたしが世界を描く練習をします。
創らなくていいくせに圧倒的強度で其処に在り続ける「現実世界」を舞台にして、わたしがやったこと、試したこと、やりたいこと、思ったこと、会った人、読んだ本、つくったものなどなど、いろいろ書いていきます。

思考の開陳に、お付き合いいただければ幸いです。


……というのが、ひとつめの理由。
ふたつめはとてもオープンにできない理由なので、有料エリアに書かせてもらいます。月500円で兎谷の恥ずかしいところが見放題だぞ!

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