お父さんの野菜、わたしのカレー

 わたしの父は、会社員と米農家の二足のわらじを履きながら家で食べるための野菜も育てる働き者だ。
 月曜から金曜までは会社に行って、少し早く帰ってきた日や土日は農業に精を出す。そんなだから、我が家はいつも自家製のお米を食べているし、旬の野菜が冷蔵庫に詰まっている。

 我が家は今、私と父の二人暮らしだ。だからご飯は当番制。朝が父で、夜が私。
 夕方、私は冷蔵庫の野菜室を覗いて唸る。父の野菜は美味しいけれど、如何せん採れる量が多いから二人で食べきるのは大変だった。
 今年の夏は特にししとうに苦労した。美味しいけれどそんなにたくさん量を食べられるものではないと個人的には思う。たまにとんでもなく辛い「アタリ」もあって、口に入れるときの気分はロシアンルーレットだ。
 その日もししとうの山を眺めながらどうしたものかと考えて、ふと、カレーなら「アタリ」を活かせるのではないか?と思いついた。

 大小さまざま20本近いししとうを水洗いして、輪切りにする。みじん切りにしようかとも思ったけれど、どうせ煮込むからいいかと適当にした。鍋に油を入れてあたたまったら、にんにくと一緒にそれを炒める。食欲を誘う香りと一緒に、目がひりひりするくらいの辛さ成分(?)を感じた。
 にんにくがきつね色になったらお肉と玉ねぎを入れる。冷蔵庫に賞味期限の近い豚肉があったから、今日はポークカレーにしよう。火が通ったらあらかじめ電子レンジでチンをした人参とじゃがいもを投入。あらかじめあたためておくことで、煮込む時間を短くできる。
 さらにお水を入れて、だいたい30分煮込む。その間にサラダとお味噌汁の準備。

 ちょうど30分経ったあたりで父が帰ってきた。少し畑をいじるといってまた外に出ていく。きっとまた山のような野菜がやってくるんだろうなと苦笑いをした。
 鍋の様子を見ると、じゃがいもが溶けかけていた。人参にもちゃんと箸が通る。火を止めてルウを入れる。我が家はエスビーのゴールデンカレー中辛をよく使う。普段は辛さをプラスするためにカレー粉を別で入れるのだけれど、今日はなくても良いだろう。
 ルウがきちんと溶けたら、また更に煮込む。焦げないように弱火でじっくり。父が戻ってくる頃には完成するだろう。

 「カレー、いつもとなんか違うね」と父が言う。何が入っているのか聞かれて、ししとうをたっぷり入れたと答えたら、ほう、と感心した声をあげた。
 「いつものも良いけど、これも美味しいじゃん」その言葉にほっとして、私もカレーを食べ進める。いつもより辛い。でも、美味しい。褒めてもらえたから気分も良い。料理は好きじゃないけれど、こういうことがあるから、なんとか続けられている。

 父が野菜をつくって、私がそれを料理する。母が入院をしてから、もう何年もそれを繰り返してきた。
 手際が悪くて呆れられることもあるし、消費が間に合わなくて腐らせてしまうこともある。きっとこれからも、それを繰り返していく。いつか家を出るとか、そういうことがない限りは、ずっと。
 それがつらくなる日もある。実際喧嘩もたくさんしている。母の料理が恋しくなることもある。

 それでもまあ、食べることは生きることなので。
 今日も明日も明後日も、私は冷蔵庫の前で唸るのだ。

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