備忘:漫画#01

九井諒子

私にとって、九井諒子という存在は勝手ながら自分が出来なかったことを託した存在だ。
非常に身勝手甚だしい例えであるのだが、30を過ぎたおじさんの戯言ととして記録しておく。

竜の学校は山の上&西には竜がいた

東日本大震災が起こった年、私は1冊の漫画短編と出会う。
その頃、世相は混乱の一言だった。
また、私の人生もそうだった。
震災から直接何か被害があったというわけではない。
ただ、私は自分の人生に何か見切りをつけて行くことを行い始めようとしていた。やっていた仕事や音楽活動は停滞し、自分で何がベストなのかがわからないまま、疲れ果てていた。
テレビをつけると連日、ACのCMで、常に実家である東北が心配になった。
考えることが煩わしくなり、抱えきれなくなったモノや漠然とした将来への不安を解消するための方法を人生で初めて模索することになった。
仕事はハードで24時間働いているような感覚で、休日も呼び出しがあったし
音楽活動にはそれも理由で身が入らないし、そもそも楽器を触らなくなっていた。
メンバーにも申し訳ないという罪悪感は疲労には勝てず、ストレスで体重が10キロ以上増加し、眠れなくなってしまった。

そんな最中、「竜の学校は山の上」に出会う。

現実を忘れさせてくれるような、シュールかつ幻想的で、どこか切ない世界観へたちまちに夢中になった。
(特に好きな作品は魔王城の問題という作品だ。是非買って見てみてほしい。)
まだその時には九井諒子の個人HP「西には竜がいた」があったと記憶している。(今はブログとなっている。)
そこを見ながら漠然とした不安と仕事を忘れようとして、寝落ちしていた。

私はその数年後、都会を離れて地元に戻ることを選択する。
それは、仕事も音楽も一旦整理しようという気持ちにようやくなったからだ。
まだ20代前半で仕事のハードさと能力不足に打ちのめされて、また拠り所であった音楽から自分が興味を失いつつあることに気づいて絶望したからである。
(その頃に着いてきてくれた妻には感謝したい。)

この頃の自分を支えてくれていたのは妻と九井諒子の作品であると間違いなく言える。

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竜のかわいい七つの子

2012年ごろにはこの作品も出ていた。
実家に戻る船の中でこの作品を手元に置いてみていた記憶がある。
この作品の中で一番記憶に残っているのは「狼は嘘をつかない」である。
ファンタジーという中に現代味を帯びた世界設定の中で、少し福祉的な要素も入ったこの短編は当時の私は唸った。
その頃、エッセイ漫画みたいなものも流行っていたし、少しアンチテーゼ的な何かかもしれないと勝手に斜めから見ていた。(そんなことはないだろうが)
また、「金なし白緑」も印象深い作品だった。

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ひきだしにテラリウム

何もかも捨てたというような印象を常に持っていたし、心はどんよりとしていたのが20代後半だった。帰ってから1年、相変わらず能力不足で、仕事では失敗ばかりだった。

先輩は怖いし、怒られてばかりで、それを家庭に持ち込んで妻とあまりうまく行ってないし、人生が嫌になっていた。

そんな中で心を抉られれた作品は「スペースお尺度」という作品で、その当時の自分を写したようで嫌だったし、それ故に自分を見つめ直せたというような気がしないでもない。ありがたい作品だった。

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ダンジョン飯

そんな中、2014年に発売されたこの作品は、長期間にわたる連載となる。
昨年、最終巻が発売された。

毎年、新しい巻が発売される日が待ち遠しかったし、休載している時は心配と寂しさを感じた。
何より私が諦めてしまった表現ということを短編を皮切りに長編連載という形で成長をしているのが嬉しかった。

主人公のライオスがダンジョンの奥地でパーティメンバーの妹がドラゴンに食べられたことからそれを救出するために奥地に向かうという一見ありきたりな設定に、魔物を調理してそれを食べるという新しい要素を加えた作品はひっそりとスタートした。(ひっそりだったような気がしているのは私だけか)
当初はそこまで人気があったとは言えなかったと思うが、徐々に認知され、今ではアニメ化もされた。
今では先生の代表作となっていると思う。

感じること

九井諒子の代表作は商業面ではダンジョン飯だろう。しかし、私にとってはあの短編作品たちこそが代表作である。
辛い時に一緒寄り添ってくれたと思うし、あの真昼の夢のような世界観にいるキャラクターたちの言葉が勇気をくれたし、考えるきっかけをくれたと思う。
ダンジョン飯は足掛け9年にもわたる連載であった。長い間よく書き続けてくれたと思う。

これからもまた作品を作ってくれるであろうが、私にとって一生の宝である作品を作ってくれたことに感謝をしたい。

ありがとう、九井諒子先生。連載、お疲れ様でした。

また、お待ちしています。〆

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