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モテたい!

小学高学年のころから、周囲は女子と付きあうだの別れるのと云いはじめた。毎日あまりにそういう話題で持ちきりとなるので、おのずと意識しはじめるようになってしまった。しかしそんな思いとは裏腹に、中学や高校へと進んでも恋愛とはまったくといっていいほど縁がない。第二ボタンなんぞ、くれと云われたためしがない。袖のボタンがほつれても女子に縫ってもらうような体験をすることは、ついぞなかった。




モテない男というものは現実を受け入れ、モテるために懸命な努力する必要がある。なぜモテないのか。モテるとはどういう現象か。どうすればモテるのか。モテる奴はどういう言動をしているのか。モテる奴の服装はどういう傾向にあるか。そうやってモテる男の傾向と対策を学ぶ必要があった。ホットドッグプレス、メンズノンノ等の雑誌を参考文献として街でカップルたちの行動を観察、丹念にフィールドワークを重ねた。


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結果、ひとつの有力な仮説に行きついた。少しチャラそうな奴がモテるのではないか。もしやナウい場所に出入りすることにステイタスがあるのでは。仮説を立てたら次は実験が必要である。実験の場として選んだのは、当時流行っていた新宿のディスコ「ニューヨーク・ニューヨーク」。メンズノンノで阿部寛がしていた恰好をそのまま模倣し乗り込んだ。しかし通ううちに、縄張りを形成する輩たちとケンカとなり、出入り禁止となってしまった。



しかたなく渋谷へ実験の場を移した。次なるフィールドワークの場は南国をイメージした評判の「ラ・スカラ」である。新宿のディスコとは、ひと味ちがう明るさである。新宿のイメージカラーは黒だったが、こちらは皆パステルカラー。なんでセーターを首に巻いてるんだ? 変なの。なあんて思っていたら、前髪長めのサラサラヘアに刈り上げをしたチャラさ満点のピアス男子大学生たちが、皆同じしぐさで髪をかき上げながら近づいてきて、こちらも結果は同じだった。彼等からすれば田舎者丸出しのダサい奴は目障りであったにちがいない。



そういった苦労も、すべてはモテたい一心からだった。バイト代を手にする度に流行りの服装を漁り、日焼けサロンに通い、アクセサリーや時計に凝った。夜な夜な繁華街へ繰り出し、場数を踏む。デート術なる文献を参考に、バイト先の女の子に繰り返しデート研究に付き合ってもらった。もちろん諸経費はこちら持ちだ。女性の楽しめる会話を研究し、エスコートの実験もした。だが、お金の限りに努力を重ねても、想いに応えてくれる女性は現れなかった。




おんなってーのは、ムズカシイよなあ。
晩酌をしながら昔ばなしを妻にこぼすと、なんだか怪訝な様子である。え?だって、その娘たちふたりだけの食事の誘いに来てくれたんでしょう? 何がムズカシイのよ。
「そりゃあ来てくれるよ。バイト仲間だもん。いい娘だったよなあ。あんな実験に付き合ってくれたりしてさあ。」
「あんたバッカじゃないの? そりゃダメだ。あ~あ、なんにもわかっちゃいねえな。」
妻はいまいましげにフンっと鼻を鳴らすと、グラスのビールを一気にあおった。

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