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【有料】第8回 インタラプション ~女だって攻める~ 「社史編纂室」

免責事項:この物語はフィクションであり、登場人物、設定は、実在のいかなる団体、人物とも関係がありません。また、特定の架空の団体、人物あるいは物語を想起させることがあるかもしれませんが、それらとは何の関係もない独自の物語と解釈してください。みなさん大人なんですから。よろしくお願いいたします。くれぐれも、誰かにチクったりしないようにwww
※本物語は、独自の創作物です。

第8回 「社史編纂室」

絢は、社史編纂室の正面に立っていた。長谷部から聞いていた通り「立ち入り禁止」というサインがドアに張ってあった。想像と違ったのは、それが無造作にドアに貼り付けられたガムテープにマジックインキで手書されていたところだ。

(だいじょうぶ、、、かな)

長谷部は「立ち入り禁止」は無視していいと言っていた。思い切ってドアを開けると、そこは古い倉庫か図書館といった雰囲気の部屋だった。天井までの高さがある棚が何列も並び、大量のファイルや書類がそこに雑然と押し込められていた。

(サニーの社史を作るための資料?、、、ファイルのサイズと種類くらい統一すればいいのに、、、)

部屋は、一部しか電気がついていないため、かなり薄暗い。半ば返事がないことを期待しながら、部屋の奥に向かって声をかけてみた。

「あのー、長谷部部長に紹介されて来たんですけど」

奥の方でギシリと音を立てて椅子がずれる気配があり、続けて、

「なんやー、ワイは忙しいんやで」という男の声で返事が返ってきた。

書棚を抜けながら声のする方に向かっていくと、6台ものモニターと数台のゲーム機、パソコンが並ぶデスクで肥った中年の男が夢中でゲームをしていた。ゲーム機やデスクの上には、本や食べ物が散乱している。

就業時間中にゲームとは、ゲーム部門の仕事でも手伝っているのだろうかと思ったが、近づいてみると男がやっていたのは明らかに他社製のキャラクターゲームだった。

「長谷部さんに紹介されてきたんですけど。社史編纂室で話を聞いてこいと言われて」

「なんや、ワイ、長谷部みたいな暇人とちゃうんやで。先週発売の『悪魔くんウォッチ3 UME★(うめぼし)』やっとんねん。他にもまだクリアせなあかんゲームが山ほどあるし、ツイッターもやらなあかんねん。モマエ、ツイッターやっとるか」と男が画面から視線を外さず、聞いてきた。

現実社会で、しかもいきなり初対面で「モマエ」と呼ばれたことに動揺し、さらに就業時間中にゲームやツイッターで忙しいと堂々と言い張る男の態度に絢の混乱はさらに激しくなっていった。

「え、あ、はい。4年くらい前からやってますが」

「なに!4年やと、、、それでワイに勝った思うたら、あかんで。ワイなんてな、生まれたときからツイッターやっとんねん。年季がちゃうわ。ワイの最初のツイは、『オカンから出てきた。なう』やで。ベテランやで。ほんまやで。ちな、今、「なう」ちゅうのがツイッターでは流行ちゅうや」

、、、ありえない。

「あのな、ツイッターは、すぐにリプせんと、『使い方分かっとらん、情弱や』とか、『逃げた』とかゆわれる、それは恐ろしいところなんやで。気つけなあかんで。けどなマメにリプしすぎとると、今度は『3回に1回はスルーするのが嗜みや』ゆわれるからなwww」

まったく話の流れがつかめない。長谷部を恨む気持ちが芽生えてきた。このまま引き返そうかと迷っていると、男がやっていたゲームを中断させて、振り返った。

「ワイが、社史編纂室室長の東堂(とうどう)や。もうすぐ、おやつのラーメンの時間やし、忙しいんやで」

男の唐突な自己紹介に、絢は慌てた。

「あ、私、マーケティングの渡部といいます」

これが社外であれば、間違いなく本名を伝えるのは憚られる相手だが、まさか社内で名乗らないわけにもいかない。それでも、苗字以上の個人情報を東堂に伝えることは絶対にしないでおこう、と心に誓った。

(長谷部さんにも絶対に私の個人情報を東堂に漏らさないよう、あとで釘を刺しておかないと)

「すみません、お忙しいところ。長谷部さんに社史編纂室で話を聞いてこいと言われまして」

東堂は既にスマホをいじり始めていた。

「さよか、、、、、って、わ、モマエが話しかけるから、間違って空リプしてもうたやないか、、、あ、あかん。もう見つかってもうた、、こいつら、暇人やから、むっちゃ反応が速いねん、、、『アホか、わざとや!』っと。これで安心や」とブツブツ呟いている。

「ほんま、こいつら、ほとんど一日中ツイッターして、毎度、即リプかましとるからな。特に韓国が夏休みムードのときが、あかんねん」

「どうして、一日中ツイッターしてるって分かるんですか?」

「モマエ、ほんま情弱やなー。そんなん、ワイが一日中ツイッターでこいつらのリプ見とるからに決まっとるやないか。ワイは思い込みで発言したりしいひんのやで」

(一番、暇なんは、自分やーん)絢は、思わず心の中でツッコミを入れてしまった。

「あの、、、他に、人はいないんですか」

「鋭い質問すんねんな。今日は、スペシャルゲストが来とるんや。公認会計士の快慶(かいけい)先生や。シャイでいつも馬の被り物かぶっとんねんけど、ホンマはイケメンなんやで。よほど仲良くならんと、素顔は見せてもらえへんけどな」

奥からもう一人男が出てきた。馬の被りモノは、小脇に抱えられていた。

(シャイちゃうやん。被りモノもう脱いどるやん、、、)

心の中で、ツッコまずにはいられない。

快慶が、口を開いた。

「ワイ、何歳にみえるやで?」

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