抜毛癖

思い出したので書く。

小学生高学年のときくらいから一時期、抜毛癖があって、

枝毛やアホ毛を探して抜いては、枝毛を裂いたりチリチリ具合をなぞったり毛根鞘がひやっとしたりとかを手遊びにしてた。

ふと気づくと抜いた髪が束になるような量になっていて、幼心にもこれは気づかれるとやばいやつと思われるやつだと感じ、こそこそと隠しては休み時間にまとめてゴミ箱に捨てに行ってたのだった。

中高生からは基本的に髪型をショートカットにしていたことや、多少伸ばしても肩につくころには校則で結ばなくてはならないのが功を奏し(?)、

毛先を、目に見える範囲に持ってこれなくなったことが大きく、抜毛癖はおさまっていた。

しかし、社会人になってボブショートをすぎたあたりから触る癖が再発する。

仕事中、右手にマウス、左手で左側の髪の毛を触るのが定位置となり、

触った感触でチリチリしてると気になって抜く、を繰り返していくうちに

元々髪の量がとても多いのもあって

(ショートカットで髪の長さ変えずに量を減らしてください、で月1回切ってもらうのだが、まあまあ走りまわる月齢の子猫1匹分くらいの量が出る)

左側のある部分だけ、右側とは明らかに髪の量が違うのがわかるくらいになっていた。

美容院に行ったら、美容師さんはプロだから、さわられただけできっとバレる、こんな歳になってそんなことしてるのがバレる、恥ずかしいと思い、それなら、と自分から開示してみた。

これは、同い年で、美容師として信頼のおける方で、絶対嫌なことは言ってこないはず、というのがあったのが開示に踏み切れた部分として大きい。

私「最近、髪を抜く癖があって、左側がすごく少ないと思うんです」

注意されるかも、ネットにあるようなことを言われるかも、と思いながら返事を待つ。

するとこんな回答が返ってきた。

美容師さん「そうですねー、じゃあ右も均等に抜いてください」

思いもよらなかった、まさかの回答に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったと思う。すこんと腑に落ちたというか、なんというか。

抜毛癖を「特段なんでもない」ことのようにさらっと普通のトーンで言ってくれたこの一言に、私は救われた気がした。

たぶん心のどこかで「こんな癖がある自分は変だ」という気持ちがあったのを、

否定でもなく肯定ともいえない、『美容師と客』という距離感でのほどよい一言で払ってくれたのだ。

これをうけて、徐々に抜毛癖がなくなっていき、

今では本当にストレスでイライラしてる時に毛先を触る、というレベルで出るくらいで、

毛を抜くまでにはいたらなくなった。

気にしていた左右差もいつのまにかなくなった。


そして当の美容師さんはというと、

いつのまにやら若くして店長となり、人気のため予約は取りづらいものの、

今も月1回カットしてもらっている。

髪の巻き方、結婚式でのセットの仕方、髪の多い人の髪の洗い方などなどちょっとした相談や質問になんでも答えてくれ、

その時の服装や雰囲気に合ったセットをしてくれて、帰り道をウキウキした気分にしてくれる。

この美容師さんに出会えてよかったな、とつくづく思う。

外出自粛が明けたら、すぐに予約してこのモサモサした髪をさっぱりと軽やかに、そしておしゃれにしてもらおう、と思いをはせるのであった。