戯曲 三階②
【第二場】
(照明が元に戻る。白一色の中、赤い郵便ポストがぽつんと立っている。投函口がふたつあるタイプ。)
兄 え。(慌てる)ここどこ。。
ポスト 三階です。
(兄、混乱する。)
ポスト あなた、二階の人ですよね。
兄 たしかに僕の部屋は二階だけど。
ポスト ここは三階です。
兄 いや二階から降りてきたんだから、どちらかというと一階でしょ。って言うか、郵便ポスト?
ポスト 初対面で呼び捨てですか。いささか失礼ではないですか。
兄 あ、すみません。僕はただ、うちの玄関にあるポストに行くつもりで……。
ポスト 二階の住人は許可なしに三階に立ち入ることはできません。身分証明となるものをお持ちですか。
(兄、ポケットを探る。手袋と家の鍵が出てくる。ポスト、身をかがめてまじまじと見る。)
ポスト 結構です。右目から整理券が発行されますのでお取りください。
(ポストの(向かって左の)投函口から、整理券が出てくる。兄、反射的に受け取る。)
ポスト なんと書かれていますか。
兄 整理番号6。
ポスト それでは向かって右側の投入口にその整理券を入れてください。
兄 右側?(きょろきょろする)
ポスト 私の左目ですよ!
兄 ええと(向かって左の投函口に入れようとする)
ポスト 逆です。そっちはさっき発行したでしょ。発行が右目、回収は左目。
兄 (整理券を投入し)それじゃあ、手紙はどこに入れるんだろう。
ポスト テガミ?
兄 弟が手紙の返事を待ってて……
ポスト テガミとは何ですか。
兄 何って……あなた、ポストでしょ?
ポスト ポストですが何か。
兄 いえ……
ポスト どうもポストに偏見をお持ちのようですね。
兄 そんなことは。
ポスト で、先程おっしゃったテガミとは何ですか。
兄 手紙とは……ええと……伝えたいことを紙に書いて送るものです。
ポスト 紙に書く? なぜ直接言わないんですか。そのために劇場があるというのに。
兄 劇場?
ポスト 劇場こそ、いまのあなたに必要な場所ですよ。さあ行った行った。(退場)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?