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きゅーのつれづれ その20

おしゃべり:


わたしブーコ。
ブーコ・ニセイっていうのが正式な名前だってきゅーちゃんが教えてくれた。わたしの前にもわたしと模様のちがう別のブーコがいて、その子がいなくなった後に来たからブーコ2世なの。よくわからないけど。
きゅーちゃんはカオリさんとずうっと前から仲良し。ふたりはよくお話してるけど、話すのはカオリさんばっかりで、きゅーちゃんは聞いてるだけ。お返事してもカオリさんにはわからないから。カオリさんにはわたしたちのことばが聞こえないんだって。カオリさんは時々わたしにも話しかけるけど、わたしがどれだけ大きな声で返事をしても全然気がつかないの。だからわたしも聞くだけ。そんなの、つまんない。
でも知ってるの。となりのミズノさんならわかるって。カオリといるときは知らんふりしてるけど、カオリさんとは違ってほんとはわたしたちとも話せるの。タンタラン……タンタラントさんだっけ。緑色の小さなひと。あの人が探していたお姫様がミズノさんだったの。雨が降らない雨の国から来たひとたち。
あ。ちょうど雨が降ってきた。パラパラって、壁の向こうから聞こえてる。雨は好き。大きな雨も小さな雨も、太鼓をたたいてるみたいで楽しいもの。でもカミナリはきらい。遠くでぴかぴか光るのが最初はきれいだと思ったけど、大きな音でびっくりするからきらい。カオリさんも、きゅーちゃんもカミナリは好きじゃないって言ってた。カミナリなんて雨の国に行っちゃえばいいのに。雨の国なら、すごい雨でゴロゴロ鳴ってても喜ぶと思うの。タンタラントさんはカエルの服を着てたし、いっぱいぬれても大丈夫だもの。
ねえ、きゅーちゃんは雨に当たったことある? ちょっとだけならあるの? 痛い? 痛くないけど、泥で汚れたりする? 泥ってなあに? 土のぬれたやつ? ふうん。
ぬれるってどんなかな。ぬれたふきんで拭かれたらひやっとするけど、あんな感じかな。お皿やコップを洗うみたいに、いっぱいのお水を浴びたらうんと気持ちいいかしら。じゃぶじゃぶって。ああでもわたしの背中には穴が開いてるから、お水がそこから入っちゃう。おなかにどんどん溜まっちゃう。たぷんたぷん、とぷんたぷん。おなかの百円玉や十円玉が、ちゃりんちゃりんて鳴りながら、お魚みたいに泳ぐかな。雨がおなかいっぱい溜まったら、背中の穴からあふれちゃう。おなかの栓を抜いてもらわなきゃ。でもそうしたら水と一緒にお金も逃げちゃう。逃げたらきゅーちゃんつかまえてくれる? 大きなくちばしではさんで。でも食べたらだめよ。そのお金はブーコのだから。きゅーちゃんはお金食べられないの? 穴も開いてないからお水も溜められないね。つまんないね。
雨の国にはどうやったら行けるのかな。ミズノさんに聞いてみようかな。わたしたちはカオリさんたちみたいには歩けないけど、なにか方法があるかもしれないでしょ。ううん、雨の国には雨が降らないから、わたしのおおなかに雨を溜めて持ってってあげるの。そうしたらタンタラントさんもうれしいよね。
あ、ミズノさんが来た。ねえねえミズノさん。ほんとは聞こえてるんでしょ。お話聞いて。雨のお話。それから、雨の国への行きかた教えて。
違うってば。「おしゃべりさん」じゃなくて、わたしの名前はブーコ。


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