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きゅーのつれづれ その5

ダンス:

「よっこらしょ」
カオリはダンボールの最後の束を抱えて出ていった。鍵を回す音が消えると、辺りはしゅんと色あせて、部屋じゅうがぼくらの世界に変わる。
ダンボール達はミズノさんからたたかれてから妙におとなしくなって、夜にジャングル化することもなくなった。すると不思議と荷物のかさが減ったようで、カオリの片付けもすいすいと進んで、物をどけなくても床に寝転がれるようになった。バンザイ。

空いたスペースを使って、カオリは運動を始めた。お風呂から上がると鏡の前でおなかを出したり引っ込めたり。腕をひらひらさせながらお尻をぶんぶん振り回したり。ベリーダンスと呼ばれる踊りらしいのだけど、ぼくには荒っぽい体操にしか見えない。会社の先輩に勧められたらしくて、その人から借りた本やDVDを毎日熱心に見ている。
まずスタイルから入るんだ、とおなかの出る短いTシャツで奮闘しているのは面白いからいいんだけど、問題がひとつ。カオリが先輩からもらったというポスターを壁に貼っていて、そこに描かれているダンサーが……。

昼間と夜はいいんだ。だけど夕暮れの、夕日がカーテン越しに壁を染めてちょうどポスターを照らす時間になると、それまで薄目だったダンサーの目がぱっちりと開く。紅いライトを浴びて血が騒ぐのか、腰に巻いた飾り付きのスカーフをジャラジャラ鳴らして踊り始める。さすがにカオリの体操とは比べようもないほど美しい動きなのだけど、伴奏がなくてさみしいのか、すがるような目を向けてくる。もちろんぼくには何もしてあげられない。彼女は黙って、ただひたすらくねくねと踊る。その様子がなんだか切なくて、観客にさせられたぼくはどうしてよいかわからなくて、いたたまれなくなるんだ。
夕焼けが闇に飲みこまれると、彼女はようやくダンスを止めていつものポーズにおさまる。ぼくはやれやれと安心して、でもちょっぴりさみしくなって早くカオリに会いたくなる。
ぼくと違ってブーコはこのダンスが好きみたいで、カオリの見ているビデオにもじっと見入っている。だからダンサーが踊り出すとうっとり見とれている。きっと自分も踊ってみたいんだろうな。でもブーコは貯金箱だから、動くとおなかの小銭が音をたててしまう。うっかり落ちたりすると割れてしまう。だからしかたなく我慢しているブーコが、この時間はちょっぴりかわいそうに思えてしまう。

 
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