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おい、SIBってなんなんだ?

ヘルスケア分野では、費用対効果について考えない日はないというくらい施策についての評価が求められています。しかし、施策→評価→施策が社会に実装され、サービスとして持続可能な形になっているかと言われると…まだまだこれからな感じがします。そんなヘルスケア分野における課題の解決と成功事例を積み上げるために実施されているのが、SIB(social impact bond)です。今回はSIBの説明とその仕組みとよく似たPFS(Pay For Success)について、違いを説明しながらまとめたいと思います。何を今更感は否めないですが、ヘルスケア分野でデータを扱うもの(私のことです。)としては、知っておく必要がある知識と思っています。この分野に携わっている方は、ぜひ目を通してみてください。


PFSとSIBについて

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PFSの定義

行政の民間委託契約で、成果目標をあらかじめ定め、その達成の度合いなどを評価し、支払額を決定する。事業の成果に応じて支払額が変動する成果連動型民間委託契約方式による事業のこと。

SIBの定義

民間資金を活用して革新的な社会課題解決型の事業を実施し、その事業成果(社会的コストの効率化部分)を支払の原資とすることを目指す。PFSで、資金を民間投資家から調達するもののこと。

PFSもSIBも明確な成果指標が設定され、その成果に応じた支払いがされます。成果連動型民間委託契約方式と漢字を並べられるとうぇっと思うかもしれませんが、意味がわかるとなんて事ありません。PFSとSIBの最大の違いは、外部資金調達があるかないか(SIBが外部資金がある)。なので、成果判定に時間がかかる事業や事業者に十分な資金的余裕がない場合はSIBが最適で、まさにヘルスケア領域との相性がいいということです。

PFS/SIBの意義
▪️ 成果指標と評価方法がクリアに設計されることで、事業の成果向上に結びつく。
▪️ 社会的なインパクトを重視した投資ができる。
▪️ 価格ではない成果に対する競争が生じる。
▪️ 初期投資が必要な事業の複数年設計でき、実証が実施できる。

本来であれば、行政が成果を定義し、その事業内容に対して公募をかけます。はい。事業者にとってはかなりシビアな戦いです。
PFS/SIBが適した事業としては、ヘルスケア領域の予防に代表される将来への投資事業やエビデンスが確立されていないものの効果が期待できる事業、成果ベースの議論が可能な事業などが考えられます。例えばってのを後ほど紹介するとして・・・。
やはりデメリットというものはありますので、少しまとめてみたいと思います。

SIBのデメリット

2018年にStanford Social Innovation Reviewに出された記事から引用。

1. イノベーション促進効果が低い
高い投資収益率を求める資金提供者は革新的な政策実験に資金を提供するインセンティブがないため、すでに確立されたモデルがSIBプロジェクトとして選択される。

2. サービス提供者の自由度の制限
SIBを委託する利害関係者(資金提供者や仲介者)は、サービスの設計と提供において実質的な役割を担う。その結果、サービス提供者は、以前よりも柔軟性の幅が狭くなり、監視の増加と管理上の負担の大幅な増加に直面する。

3. 取引コストの増加
利害関係者の契約取り決めが複雑なために多額の取引コスト(仲介手数料とか)が発生する。それに対して、投資を管理・監視するために必要な財務スキルやシステムを持っている組織が少ない。

4. 変質的なインセンティブを生み出す
成果の正確な測定・報告しなければならないことからサービス効果の出しやすいクライアントを選択する、短期的な契約目標が達成されることから最終的な成果が生じるまでの長期的なサービス維持が行われなくなるなどの問題が引き起こされる。

5. 公共サービスの本質的な道徳性の変換
利益インセンティブの導入は、市民を支援したり状況を変えたりすることよりも、利益や投資に対するリターンを動機とする資金提供者を主要な顧客にする。そのことで、公共部門の倫理観が浸透していたサービスに影響を及ぼし、サービス提供者と利用者の関係を根本的に変える。

核心ついてくる・・・。これまで公共サービスに近い領域に対してSIBを適用することの難しさはあるのだなと。すごく抽象的になるが、SIB関係者がなんのためにイノベーションを起こす必要があるのかなどの課題感や将来の方向性の共有が大切だと感じます。デメリットの3については、事業規模拡大による対応がメインになると考えられます。コンソーシアムのような自治体間での連携(SIB事業紹介の3つ目みたいな)が解決方法としてもっともシンプル。事業規模は小さいが事業経験や成果を確立している事業者が主導権をもって運用するような事例を作りたいです。

SIB事例の紹介

そういう意味では、ヘルスケア分野は比較的取り組みやすい領域ではないでしょうか。若干ポジショントーク?視野が偏っている?ので、他分野でももちろん良いものがあると思いますが、実際に行われているヘルスケア分野におけるSIB事例を以下にまとめます。
メインは、引用元の事業概要のサマリー(あれば成果報告の資料を添付)。詳細な情報は、引用元をチェックいただければと思いますが、引用元の資料は綺麗にまとまっていてとても見やすい。

PFS/SIBのまとめ項目
▪️ 目標
▪️ 対象
▪️ 介入方法
▪️ 評価方法
▪️ アウトカム
▪️ 中間評価(あれば)
▪️ 最終評価(あれば)

神戸市における糖尿病性腎症等の重症化予防事業

▪️ 目標
糖尿病性腎症等のステージの進行、人工透析への移行の予防
▪️ 対象
未受診および治療中断中のハイリスク者計100人
▪️ 介入方法
受診勧奨および食事療法等の保健指導
▪️ 評価方法
保健指導プログラム修了率、生活習慣改善率、腎機能低下抑制率(第三者評価機関による評価)
※ 生活習慣改善率:食事療法・運動療法・セルフモニタリング・薬物療法の各項目の自己管理行動指標から行動変容ステージモデルのステージ改善が見られたものの割合。
▪️ アウトカム
QOLの維持/向上、医療費の適正化、逸失所得の削減
※ 腎症ステージ別医療費の算出

中間報告

最終評価
少し残念な結果となりましたが、ヘルスケア分野でのSIB事業の今後に繋がる貴重なチャレンジだったと感じています。次は自分たちの番だ。

八王子市における大腸がん検診受診率・精密検査受診率向上事業

▪️ 目標
大腸がん検診・精密検査受診率向上
▪️ 対象
前年度大腸がん検診未受診者12,000人
▪️ 介入方法
大腸がんのリスク要因に応じたオーダーメイドの受診勧奨ハガキを送付
▪️ 評価方法
大腸がん検診受診率、精密検査受診率および早期がん発見者数(自治体による評価)
▪️ アウトカム
死亡率減少、5年生存率の向上、医療費適正化、QOLの維持向上
※ レセプトデータより集計された『早期以外のがん患者の医療費約252万円』- 『早期がん患者の医療費約65万円』= 約187万円を適正化効果として算出。

中間評価

最終評価
SIB導入のお手本のようなシンプルでわかりやすいスキーム。だからこそ見えてくるSIBの課題や展望が非常に参考になりました。次はあるのでしょうかってところを注目したいです。

兵庫県川西市・新潟県見附市・千葉県白子町での健康無関心層を行動変容させるヘルスケア事業

▪️ 目標
飛び地での広域自治体でのポピュレーションアプローチによる健康無関心層を行動変容させるヘルスケア事業
▪️ 対象
3市町の成人(3都市成人人口の約 1 割にあたる~1万人規模を目標)
▪️ 介入方法
健幸ポイントプログラム、生活習慣病予防プログラム等(詳細はまだ)
▪️ 評価方法
参加率 、継続率、無関心層取り込み割合、歩数の変化量
▪️ アウトカム
医療費抑制額、介護リスク抑制率

プレスリリース

※ 海外事例については取り上げてないです。
※ 今後も成果報告が出た時点で更新させていきたいと思います。

所感とまとめ

ヘルスケア領域でのSIBでは、短期的なアウトプット(サービス遂行率や健康意識・行動変容ステージの改善)がシンプルで計測しやすい項目が挙げられていました。特に八王子市では第三者機関ではなく自治体が評価者を行っていました。成果指標がシンプルかつ実施率や発症数など自治体が扱い易いデータからの評価が可能であったためと考えられます。このような、第三者評価機関を介さないSIBというのもなかなか可能性を感じました。
ヘルスケア領域は特にだと思うのですが、長期的なアウトカム(対象疾患発症率の低下や医療費抑制)の達成まで追従するには、1. データ計測や管理を含めた評価コスト、2.RCTなどの介入効果比較時のコントロール群に対する配慮などの問題が考えられます。なかなか一筋縄ではいかないところです。ヘルスケア分野では、SIBを活用して成果が期待できる事業を立ち上げるということが今後も続くように思われます。
現状では医療費の算出方法については過去データからの類推によるものですが、長期間にわたって事業を展開することで、より『効果』『価値』のところが明確に評価されるようになって行くことを期待しています。これらを考えるとプロペンシティスコアを用いた過去データとの比較の出番だなと考えています。この辺りはまた別の記事にまとめます。

引用

# PFSとSIBについて
経済産業省のSIBのHP

# SIBのデメリット
A Critical Reflection on Social Impact Bonds (Stanford Social Innovation Review, SSIR)





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