2021共通テスト問題分析 地理

こんにちは。地理で問題集の作問をしているたかしです。
今回は地理の分析(と書きたいけど主観的だし定性的だし何より気楽に書いた)的な何かを掲載します。
大手予備校なども共通テストにおける分析を発表しているので、カッチリしたものが読みたい人はそちらへ。解いてみての感想がメインになります。
また、多くの分析では試行調査との関係性について触れていますが、質に批判があったりしたので、後世の人があまり使わないと判断し、この分析では一切触れません。​


1.全体感想(概観って書きたいけど主観(以下略))

大きなポイントとしては三つあります。
①思考力を求められる問題が増加し、センター試験と比べて難化しましたね。
②実例よりもモデルや仮想的な空間に重きがおかれ、暗記による撃破は難しくなっています。
③難易度調整の結果なのか、大問が一つ、小問では4つ(本日程)or6つ(追加日程)減少している。
一つずつ見ていきましょう。

1-1思考力を求められる問題が増加

昨年と比較すると、小問1つ1つの問題文がかなり長くなっています。思考力も問いつつ、選択肢の問題であることを考えれば、条件をたくさん与えなければいけないので理解できます。また、組み合わせ式の問題も多く、考える回数・ボリュームともとても増加しています。余談ですが、昨年よりも一つの情報を暗記すれば一発で解ける問題はかなり減りました。


1-2 実例よりもモデルや仮想的な空間

産業の立地や気候の問題など、モデルに基づいたり、具体的情報に乏しかったりな問題が目に付きます。どうしてもセンター試験対策というと暗記偏重なイメージがありますが、「それでなんとかなると思うなよ」という共通テスト担当者の気概を感じます。
求められているのは、暗記した1つ1つの事物、事象が本質的にはどんなものか、どんな意味をもつかを答えられるようにすることです。地理の二次試験問題は、その意味で共通テスト対策になるでしょう。

1-3 問題数の減少

昨年まで2題割かれていた海外の地誌の問題が1つに減り、比較地誌の問題がなくなりました。これは、比較地誌が個々人の能力を測るのに不要とかそういうわけではありません。もちろん、難易度調整の意味合いもあるのでしょうが、今年増えまくった仮想的なモデルなどの問題で、大局的にモノを見る力、すなわち比較地誌で問いたい力が十分に問えているから抜いたのだと思います。よって比較地誌を抜いたことで本質的な違いはありません。

2 本試験設問別感想(分析と書きたいが主観(以下略))

追加日程については、似たような問題が多く、よって文面も似通ってしまうので省略したいと思います。

2-1 大問1(A)

極めて本質的かつ良問が集まっています。この問題をそのまま論述問題に衣替えするだけで一般的な二次試験の問題として機能します。

問1
仮想大陸上の各地点の気候を比較させる問題でした。具体的な地域が明示・図示されていないので、「なぜ」任意の地点が〇〇気候になるのか説明できなければなりません。暗記より理解が問われます。東大志望者で地理が得点の稼ぎ頭になるなら、この資料から問題を作るトレーニングをすると良いです。

問2
問題文で明示されませんが、地中海気候に焦点を当て、そのメカニズムを問う問題になっています。論述に近い頭の使い方が求められ、時間がタイトな共通テストにしては難しい問題だと思います。念のため説明すると、地球が傾いているために高圧帯や低圧帯が1年周期で移動します。この結果、夏に中緯度高圧帯、冬に高緯度低圧帯を上空が覆う大陸西岸の地域が地中海性気候です。

問3
二次試験の地理の論述を解く上で欠かせない力に、自然科学的背景を記述するのか、社会科学的背景を記述するのか、またはその両方なのかを瞬時に見極め、過不足なく答案に盛り込む力があります。問題文の誘導には自然科学・社会科学の双方の背景が盛り込まれ、論述問題における頭の使い方を辿れる良い問題になっています。問題自体は平易なので、よく復習をして二次試験対策に利用しましょう。

2-2 大問1(B)

1(A)とは変わり具体的な地点にフォーカスが当てられた問題で、センター試験の雰囲気を感じます。一点補足をすると問4の空欄ミや問6では想像力がモノを言う問題となっています。地理的な想像力を鍛える近道は高校の授業だったりするので、疎かにしないようにしましょう。

2-3 大問2

この大問は時系列比較とモデルに基づくタイプの問題で構成されています。時系列データの比較はこれまでも出題されたこともあり、対策は十分でしょう。しかし、問3のようなモデルに基づく問題で面食らった受験生も多かったのはと思います。どちらも地理の分析に欠かせない要素です。

問2
21世紀のうちに世界各国で魚介の需要が伸び、同時に養殖産業が急伸するのを押さえる問題です。時系列の読み取り自体は平易で面白味もないですが、図1から読み取れる地理的な事象は多種多様であることは特筆できます。例えば、インドネシアの海老養殖は深刻な環境破壊をもたらしていますし、漁獲量の増加は資源の減少、持続性の低下などの問題の要員となります。また、魚介の消費量の増加は生活水準の向上や食生活の変化などが背景にあるでしょう。図1から何が言えそうか、教科書片手に考えてみてください。

問3・4
問3で立地論を考える基礎的なモデルを提示し、問4で東日本に即した事例で考えを深める二段構えの問題になっています。
問3で触れられているのは、原料の輸送に金がかかってしょうがない事例です。例えば、金の鉱石は金以外の物質が大量に含まれているので運ぶと無駄が多いです。そこで金鉱の近くに精錬所を作り、金の純度を高めてから各地へ輸送するわけです。逆に印刷・出版業で考えます。今や原稿はメールで遅れる代物ですが、それを何十万部も刷れば運ぶのに苦労します。だから、市場の近いところに印刷工場は設けられます。(但し、戦争の疎開の結果等でこれにあてはまらない場合もあります。長野県長野市など)
問4では、これを具体的な土地へ落とし込みます。北海道が産地、関東が市場、東北は生産も市場も比較的小規模な土地の具体化だと理解できれば後はモデルを当てはめていくだけです。難しくはありません。

問6 第三次産業の立地論の問題です。一応モデルに当てはめて解く問題ですが、類題は多く出題されているので、平易だったと言えます。

2-4 大問3


今まで大問3では都市と文化について出題されるのが近年の傾向ですが、今年は都市と人口問題について出題されています。これが今年だけなのか、ずっと続くのはわかりませんが、人口も文化も都市に関する隣接分野です。よって、都市を核として様々な分野が出題されると身構えて準備するのが良さそうです。
人口についての注意点を述べるなら、人口に関する問題は必然的に国や地域の歴史が背景にきてしまう事です。そのため、その国や地域の歴史や発展の仕方、現在や過去の立ち位置などを確認しなければなりません。特に、理系の皆さんで地理を履修している場合、日本史や世界史を履修していない場合が多いので、文系勢に比べると些かのハンデとなる可能性があります。

問1
この問題は、なぜ空白があるかを考える作業が必要です。というのも選択肢エをのぞいて点の数はそこまで違いはなく、点の数だけで回答に辿り着くのは難しいですし、地球全体の地図で大まかにサハラ砂漠やヒマラヤ山脈、アマゾンの森林がどこら辺かを押さえれば、中国以外の選択肢を埋めることができるからです。

問2
典型的な人口の問題です。ケニアを選択するのは簡単ですが、そこから韓国とオーストラリアで判別するのが難しい問題だったのではと思います。韓国の都市が形成されたのは1970年代以降が中心であり、都市に移住していった(当時の)若者の多くは、まだ高齢者になっていないのです(歴史)。また、韓国は著しい少子化が進んでおり、子供の絶対数が少ないです(現在)。こうしたことから韓国を消去すれば、オーストラリアがどれか求められると思います。

問3
移民が生じる原因の多くは経済的によるものですが、その行き先や要因が時代によってどう変化したを考える問題になっています。移民の流動については東大の二次試験でも出る分野なので要チェックです。

問4
問題の内容は典型的ですが、類題が東大の二次試験で出題されており、注意が必要です。

2-5 大問4


なかなか一筋縄ではいかない問題がA.B問わず多かったように思います。どう考えても共通テストのレベルを超えてきています。海外の地誌を扱う大問を一つ減らしたので、盛り沢山にしたかった気持ちはわかりますが、やりすぎです。

問2
暗記だけではどうにもなりません。その州がどういった場所が大掴みに理解することが求められます。カ…地下水に依存した農業用水中心の水利用から、内陸で人口僅少であることを読み取りましょう。キ…生活用水と工業用水が突出しており、発展した都会であることを読み取りましょう。

問4
アフリカ系が大半を占める選択肢が出てきた段階で泡くった受験生が大半ではと思います。実際、アメリカ全体の過半数は白人であるので、極めて異質であると言えます。
まず、アジア系が多いことから選択肢チがアジアからリーチしやすい西海岸の州(=ワシントン州)と見抜きたいです。
そして、異質なデータが残ってしまったわけですが、解いている最中ならば、アメリカ全体の人種別構成に近いのは州だろうと考え、①としてしまっても問題ないと思います。一応補足をしておくと、綿花産業の機械科で食を失った黒人労働者が、デトロイトの自動車を作る労働者に転換したことが理由で、選択肢3はアフリカ系が多くなっています。

問5
持ち家率を間違えた受験生は少なかったのではと思います。
問題は外国生まれの割合と貧困線以下で暮らす割合がどちらと南部が多くなりやすいことで、見分けにくかったのはあると思います。これは歴史的背景から考えると正解にたどり着くので、世界史履修者がだいぶ優位に立っていたのではないかと。サンベルトに着目すると、サンベルトが等しく高位になっているのがム。ニューヨークやカリフォルニアなど、大都市も高位になっているのがマです。
例えば、サンベルトが発展した理由が南北格差による、賃金格差があることを知っていたり、フロリダ州はキューバからの移民が大変多かったりするなど、何かしらの背景知識があればマとムの識別は可能です。

問6
問題自体は簡単ですが、ここまで最新の時事問題が出るのは珍しいですね。新聞、読みましょう。

2-6 大問5


この大問を解きながらだいぶ懐かしさを感じました。というのも、大問5とセンター試験の大問6の構成や解くのに必要な能力は殆ど変化していません。過去問をとけば対策は十分です。一方、問6は落とせない問題になった、とも言えます。各大問が思考力を求められて難易度が上がる中で、相対的に簡単になっているためです。ある意味で問題を解く緊張感はセンター試験よりも増していると言えます。







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