2021共通テスト問題分析 物理

理科一類・物理/化学選択のしらかばです。
来年度以降受験される皆さんのために、2021年度大学入学共通テストの物理の問題(第1日程・第2日程とも)を分析していきます。
問題は以下のリンク先などでご覧ください(上が第1日程、下が第2日程です)

※筆者は読売新聞社とは何の関係もありません

それでは早速分析に入りましょう。

概論~誠実な出題姿勢に好感~

試行調査や2020年度センター試験の問題で既に現れ始めていた傾向ですが、法則の基礎的理解を試す問題が増えたことが目を引きます。また第2日程では、試行調査にあった実験・測定に関連する問題も絶対数は多くありませんが出題されました。
長大な問題文を読みこなす力や計算力、記述力が重視される2次試験を補完する内容を目指しているように見受けられ、「思考力重視」の看板のもと2次試験と重複しない出題を模索した結果なのではないかと推察します。
一方、第1日程の第2問に代表される典型的な計算問題の出題もありました。これはセンター試験からの移行初年であるための配慮か、あるいは最低限の計算力は確かめたいという思惑であると考えられます。
全体としては、小細工を弄したひっかけ問題も特になく、純粋な物理の基礎学力を問う誠実な出題姿勢であるといえるでしょう。妙な会話文で受験者を煙に巻くのではと危惧していましたが、一安心です。
ただ、似たような問題が複数出題されているなど、やや荒削りな印象も受けました。来年以降の改善を望みたいところです。

出題分野

続いて出題された分野を見てみます。複数の分野を含む問題については、関係するすべての分野に表示しました。

第1日程
力学:4題(第1問問1・問2、第3問B、第4問)
熱力学:1題(第1問問5)
電磁気学:4題(第1問問3、第2問A・B、第3問B)
波・光:2題(第1問問4、第3問A)
原子物理:出題無し。ただし第3問Bにエネルギー準位の概念が登場

第2日程
力学:4題(第1問問1・問2・問4、第4問)
熱力学:1題(第1問問5)
電磁気学:3題(第1問問3、第2問A・B)
波・光:2題(第3問A・B)
原子物理:出題無し。ただし第1問問4でエネルギーと振動数の関係が登場

こうして見ると、今年は力学と電磁気学の比重が大きかったといえると思います。
力学は運動方程式の扱いと保存則に関する問題が中心でした。電磁気学は幅広い内容でしたが、磁場中での導体棒の運動に関する出題は両日程に共通しています。
波・光は両日程とも波動の問題が1題、光の問題が1題でした。いずれも様々な内容が問われる問題となっています。
一方で、熱力学は両日程とも小問集合のうちの1問の出題にとどまりました。また、これまで選択問題の大問として出題されてきた原子物理分野は、すべて他の分野との複合問題(しかも必要な情報は問題中で与えられている)としての出題でした。

設問別分析~第1日程~

各設問に対して、筆者の所感をざっくりと述べます。

第1問

第1問はセンター試験同様の小問集合形式が維持されました。

問1
テーマ:慣性
慣性の理解を問う問題。おもりも水も左に寄ることがわかれば簡単です。
問2
テーマ:組み合わせ滑車
確実に正答するには人、荷物、板のそれぞれに対して運動方程式を作って考えるとよいです。
有名問題なので類題を解いたことがある人もいるでしょう。紐を引っ張る反作用のため板にかかる体重が減るところが本質的です。
問3
テーマ:コンデンサ
平行板コンデンサの極板間の電場の大きさが一定であることがわかっていれば容易です。
試行調査を見るに「すべて選べ(複数マーク)」という形式で出題されてもおかしくない問題なのですが、選択肢から選ぶ方式になっています。マークシートリーダーが複数マークの読み取りに対応していないのでしょうか?
問4
テーマ:ドップラー効果・唸り
この分野では定番の問題設定。空欄ウはきちんと計算して答えを出すのが無難でしょう。
問5
テーマ:等温変化と断熱変化
ピストンが静止したときの期待の圧力が等しいことがわかればすぐに答えは出せるでしょう。

第2問

電磁気の問題。2問とも日頃の学習の中で多くの人が出会うであろう典型問題ですので、知識を確認している色彩が強い出題といえます。

A(問1~問3)

テーマ:ホイートストンブリッジ
二次試験でもたびたび題材になる有名問題です。この問題ではコンデンサと組み合わさっています。

問1・問2
「スイッチを閉じた瞬間のコンデンサは導線と等価」「電流が流れなくなった瞬間のコンデンサは断線と同じ」ということがわかっていればたやすく正解できます。選択肢なしに数値を答えさせる問題は試行調査から引き続いての出題で、今後定着するとみられます。有効数字の概念も今一度確認しておいてくださいね。
問3
問題文から中央部分に電流が流れない条件を聞いていることを読み取りましょう。

B(問4~問6)

テーマ:電磁誘導
定番の、磁場中で導体棒を滑らせる問題。この問題は確実に得点したいです。

問4
rが単位長さあたりの抵抗値となっていることに注意が必要です。
問5
電流の向きが逆であることから、答えはほとんど明らかでしょう。
問6
常に同じ大きさで反対向きの力がかかるので、速さの変化量が等しく、一方が増加し他方が減少しているグラフを選べばよいということになります。

第3問

前半は光、後半は力学と電磁気学の複合問題です。共通テストらしい内容になっています。

A(問1~問3)

テーマ:光の屈折、全反射
ダイヤモンドのブリリアントカットを題材にした光の問題。問1にちょっと意表を突かれます。

問1
屈折の際に何が変化するか?という問いに手が止まるかもしれません。意外な設問があっても冷静に対処しましょう。
問2
基本公式を確認する問題。
問3
前半ではグラフを落ち着いて読み取りましょう。後半は文章を読むだけで正解がわかってしまうかもしれません。

B(問4~問6)

テーマ:エネルギー保存則、運動量保存則
蛍光灯を題材に、保存則の理解度を問う問題。今回の中で一番の良問だと思います。

問4
電場中での荷電粒子の運動についてエネルギー保存則を使う問題。これは定番です。
問5
外力が働かないので、運動量は保存します。
問6
与えられた過程にエネルギー保存則を適用しましょう。

特に問5・問6は保存則の理解度を測るのに最適な問題となっています。間違えた人はよく復習しておきましょう。

第4問

テーマ:斜方投射、運動量保存則、エネルギー保存則、衝突
力学の基本分野がまんべんなく問われています。これも学力を測るのに良い問題だと思いますが、第3問Bと内容が被ってしまっているのが少し残念です。

問1
速度を垂直方向と水平方向に分けて考えるとよいでしょう。
問2
運動量保存則の基本問題。
選択肢の中に次元解析ですぐ弾けるものはなく、計算せず答えが出せないように工夫したのだろうと思います。
問3
直感で答えを出すこともできますし、計算で確かめることもできます。
問4
衝突の際の運動量変化や力の働き方の理解が問われる問題。
この問題だけ会話文問題になっているのが気になります。文科省からなにか言われたんですかね?

設問別分析~第2日程~

続けて第2日程の設問を見ていきましょう。

第1問

第1問は第1日程同様に小問集合です。

問1
テーマ:重心
力のモーメントを考えれば、重心が支点より左にあれば転倒し、右にあれば転倒しないことがわかります。
第1日程の第1問問3と同様、この問題も「すべて選べ(複数マーク)」という形式ではなく選択肢から選ぶ方式になっています。やはりマークシートリーダーの構造上の問題でしょうか?
問2
テーマ:束縛力
2つの物体が接触している条件が、垂直抗力が0以上であると言い換えられることが本質的です。
問3
テーマ:電位
前半は等電位面と電場ベクトルが必ず直交することがわかっているかを問う問題、後半はエネルギー保存則を使う問題です。負電荷が作る電場なので、Aの方がBよりも低電位となっていることに注意します。
問4
テーマ:運動量保存則、エネルギー保存則
運動量保存則、エネルギー保存則の理解を問う問題。第1日程の第3問Bの類題といえます。
問5
テーマ:マイヤーの関係式
「気体がした仕事はnRΔT」と問題で与えている理由がよくわかりません。空欄アを埋める際に気体がした仕事がpΔVであることを用いるはずなので、理想気体の状態方程式から導けるはずです。この記述は無用な混乱を招いたのではないかと思います。

第2問

電磁気学の問題。第1日程とは打ってかわり、変化球の出題となっています。

A(問1~問2)

テーマ:電圧計、倍率器
2次試験では時折見られる、電圧計と倍率器を題材にした問題です。

問1
コイルに10mAの電流が流れるときに、+端子と-端子の間の電圧が10Vになるように抵抗を接続すればよいことになります。このように測定範囲を広げるために挿入する抵抗を「倍率器」と呼びます。
問2
電圧計の使い方や特性を問う問題。これは知識として持っていないと難しいですが、知っているべき内容でしょう。

B(問3~問5)

テーマ:電磁誘導
オーソドックスな設定だった第1日程と違って、電磁力を利用する天秤を題材にした斬新な設定です。

問3・問4
いずれも基本公式の理解を問う簡単な問題です。
問5
mgvの単位を考えれば正解が分かります。

コラム~キブル天秤~

第2問Bで出てきた装置は「キブル天秤」と呼ばれており、リード文にあるようにキログラムの再定義に用いられたことで有名です。
実は筆者はSI単位系の改定があったとき、大学入試でいつか必ずキブル天秤の問題が出るに違いない!と予想していました。ですのでこの問題を見たときに一人で勝手に盛り上がっていました。
しかしこの問題はちょっと不完全燃焼です。皆さんのなかにも、「新SI単位系では、キログラムはプランク定数に基づいて決められる」ということを聞いたことがある人がいるでしょう。そうした皆さんは、「この天秤を使うことがどうしてキログラムをプランク定数に結びつけることにつながるのだろう?」と疑問に思ったかと思います。そこで、プランク定数との関係性について以下で補足しておきます。

キログラムとプランク定数が結びつくのは、大雑把に言うと問4の式の右辺の量IVの測り方がミソとなっています。IVをプランク定数が関係する単位で測定するので、プランク定数がmgv=IVの式を介してキログラムと関係づけられるのです。
それでは、その単位がどのように定められるかを見ていきましょう。この単位を決める出発点になるのは、電気に関係する量子論的な現象である「ジョセフソン効果」と「量子ホール効果」です。これらの現象についての詳細は割愛しますが、それぞれの現象から導かれる定数として「ジョセフソン定数」および「フォン・クリッツィング定数」というものがあります。ジョセフソン定数は2e/h、フォン・クリッツィング定数はh/e^2です(hはプランク定数、eは電気素量)。
ここでそれぞれの定数の単位を確認しておきます。抵抗が出す熱の公式W=RI^2=VIを思い出すと、抵抗の単位[Ω](オーム)は[kg・m^2/s・C^2]、電圧の単位[V](ボルト)は[kg・m^2/s^2・C]であることがわかります。プランク定数の単位が[kg・m^2/s]であることに注意すると、ジョセフソン定数の単位は[1/s・V]、フォン・クリッツィング定数の単位は[Ω]であると分かります(読者自ら確かめてみてください)。
ここでジョセフソン定数とフォン・クリッツィング定数の測定値を順にKj90[1/s・V]とRk90[Ω]とおきます(noteでは数式が出せないのでわかりにくいですが、Kj90とRk90はそれぞれ1つの値を指しています。K×j×90とかではありません)。SI単位系によるこれらの正確な値をKj[1/s・V]およびRk[Ω]として、新しい単位協定ボルトを1/Kj90協定ボルト=1/Kjボルト、協定オームをRk90協定オーム=Rkオームを満たすように定めましょう。すると協定ボルト、協定オーム、SI単位の秒を組み合わせることで、電磁気関連の諸量の単位をすべて表すことができます。この単位系を「協定電気単位系」といいます。協定電気単位系における仕事率の単位(協定ワット)が協定ボルト^2/協定オームとなることはすぐにわかります。協定ボルトと協定オームの定義から、1協定ワット=Kj90^2・Rk90/Kj^2・Rkワットです。
問4の式の右辺の量IVは協定ワットを単位として精度よく測定することができます。その測定値をX[協定ワット]とおきます。また問4の式の左辺の量mgvはSI単位系によってあらかじめ測定されているとし、その測定値をY[ワット]とおきます。するとこれらの値の間にY=X・Kj90^2・Rk90/Kj^2・Rkという式が成り立ちます。すなわち、1/Kj^2・Rk=Y/X・Kj90^2・Rk90であるということがわかります。
さて、ジョセフソン定数は2e/h、フォン・クリッツィング定数はh/e^2だったので、1/Kj^2・Rkの値はSI単位系におけるh/4の値に等しいです。右辺の値はすべて測定値なので、プランク定数が測定できたことになります。
こうして、SI単位系におけるプランク定数の値が十分正確に決められます。そうなれば、逆にプランク定数の値によってキログラムを定義することができるわけです。

このコラムの内容は、以下のアメリカ国立標準技術研究所(NIST)による解説記事を参考にしました。

第3問

前半は波、後半は光の問題。グラフの読み取りや実験操作に関する問題が目を引きます。

A(問1~問3)

テーマ:定常波
交流電流が流れる電線に生じる定常波の問題。よく知られた実験なので、学校の授業でやる人もいるかと思います。

問1
グラフを読むだけの問題。横軸は1/Lなので勘違いしないようにしましょう。
問2
v=fλを使えばよいです。その際、λ=2Lとなることに注意しましょう。
問3
波の式の問題。これも定型的な問題ですが、波の式についてよく理解していないと難しいかもしれません。
波の式についての解説はいろいろなサイトにありますが、以下の「物理のかぎしっぽ」様の解説が簡潔でわかりやすく、おすすめです。

B(問4~問7)

テーマ:光の干渉、測定の方法
問5で誤差に関する問題が出ているのが特徴的ですが、それ以外はよくある問題です。

問4・問6
光の干渉の基本問題。簡単です。
問5
正確な測定をするにはどうすればよいかを問う問題。同じ大きさのものはまとめて測ると誤差を減らせるということです。たとえば振り子の周期を測るときに、1周期の時間を直接測る代わりに10周期の時間を測って10で割ったほうが正確なのも同じ理屈ですね。
問7
選択肢2番もあながち間違いとは言い切れませんが、4番がもっと直接的な理由を述べているのでこちらの方が適切ということなのでしょう。

第4問

テーマ:単振動
ばねが2本ある単振動の問題。2次試験的な問題だという印象を受けました。

問1
物体に働く力のつり合いを考えればよいです。
問2
この場合の運動は、つり合いの点Oを中心とする振幅x0の単振動となります。したがって、物体が点Oにある時のばねの伸びがいずれもx0より大きければよいということです。
問3
本質的にはばねBの伸びを求める問題。図を描いて考えるとよいでしょう。
なお問われてはいませんが、KはkA+kBとなります。
問4
グラフを読み取るだけの問題。vmaxは、x=0での傾きを計算すればよいです。
問5
空欄アは、物体の速度が0の時とvmaxの時に対してエネルギー保存則を使いましょう。空欄イは、摩擦があるとその分エネルギーが失われ、vmaxが小さくなると考えて正解できます。

来年以降の対策

基礎的な問題の出題が多い傾向は来年以降も続くでしょう。計算を主体とした問題の出題が来年以降どうなるかは不明ですが、いずれにせよ物理をきちんと勉強することが一番の対策となります。
また今年は控え目だったグラフや図表を読む問題、実際の実験操作に関係する問題の出題が増えることも予想されます。苦手だなと思う人は、模試や試行調査の問題などを活用して練習を積んでおくとよいでしょう。
今年は熱力学の問題が非常に少なく、原子物理もセンター試験時代のような出題はみられませんでしたが、これらの分野も手を抜かずに演習しておきましょう。ヤマを張るのは事故のもとです。

勉強法について疑問点などがありましたら、ぜひ東大入試研究会の質問箱に質問をお寄せください(すぐにお返事ができない場合もあります)。

その際に、以下のツイートの内容をご確認くださいますようお願いいたします。



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