2021共通テスト問題分析 世界史

皆さんこんにちは。東大入試研究会の好角家です。地歴は日本史・世界史を選択していました。本稿では、2021年度共通テストの世界史Bの問題を分析します。長くなりますがお付き合いいただければ幸いです。

概論

大問が5つあり、昨年までのセンター試験より1つ増えた一方、小問は34問(第二日程33問)と、昨年と比べれば2問減少した。ただし、資料の数が飛躍的に増え、長い文章の読み取りを要する問題もあったことに鑑みれば、受験生の負担はやや重くなったとみることができる。実際、問題冊子のページ数も24頁から31頁とかなり増加した。とはいえ、初回試行調査(45頁)のように過大な分量ではなく、試験時間内に終えることはできたはずだ。焦らず着実に解けたかどうかが勝負を分けたのかもしれない。

全体の傾向としては、2018年の試行調査と大差なく、多くの受験生が戸惑うような出題は見られなかった。センター試験同様、各問題の解答が一つに絞られる形式であり、正解が複数ある問題や、複数の設問が連動する形式での出題はなかった。この点は試行調査と異なる。読解力や思考力を問うという共通テストの趣旨に沿い、予想されたように資料の読み取りを前提とする問題が増えたほか、単純に知識のみを問う正文・誤文選択の問題は激減した。会話文などの空欄を補充させる問題が目立ったが、ほとんどの場合で歴史知識が不可欠となっており、やや細かい暗記が求められる場合もあった。他科目同様、理想を追い求めた試行調査よりも現実路線に回帰したと言えるが、来年度以降も同じ傾向が続くとは限らない。

出題分野としては、西洋史と東洋史の問題がバランスよく配されていたが、昨今の潮流にあわせたのか、近現代史から集中的に出題された。特に第一日程では戦後史を扱うものも数題見られたが、第二日程では少なかった。

装いこそ大きく変えたものの、中身は同じだというのが第一印象であった。世界史自体の勉強法や扱うべき内容については、当面変わらないであろう。「新傾向」の問題も、(今年度については)市販の問題集や一般の模試で十分太刀打ちできたと考えられる。

設問別分析

主に第一日程に絞って、各設問の傾向を分析する。その中で、解答に至る道筋の一例は示すが、詳細な解説(誤文の修正など)を逐次示すことは控えたので、復習の際には別途解説を参照いただくと善い。第二日程の各設問を扱わないのは、一つにはセンター試験の色彩が残り、「二つ目の問題」という感が否めなかったこと、また一つには、新傾向とされる問題も第一日程と類似しており、取り立てて論じる必要性がないと判断したことによる。全体的な傾向については「概論」で扱ったので、そちらをお読みいただきたい。それでは、以下で、第一日程の各問題の特徴を見ていくこととする。(当然ながらネタバレを含みます。)

第1問「資料と歴史」

問1 形式空欄補充 内容読解1・知識9
史料の空欄を埋める形式であるが、問われているのは諸子百家にまつわる知識である。始皇帝に仕えたのが李斯であること、法家に与す彼が法治主義を説いたことなどを知っておけば、正答【③】を導ける。

問2 形式正文選択 内容知識10
形式・内容共に、センター試験と同種の問題であり、精確な知識を習得できているかどうかが問われている。ただし、正答【③】はケチのつけようがない選択肢であり、誤答する可能性は低いかと思われる。

問3 形式正文選択 内容思考3・知識7
いわゆる新傾向の問題である。司馬遷と武帝の関係性を想起できれば、あとは下線部の内容に合致する武帝の業績を選択するだけで、「自由な経済活動を重んじ」という一節から③を退ければ、正答は【②】となる。

問4 形式正文組合 内容読解8・知識2
「前提としたと思われる歴史上の出来事」は資料から読みとれるが、ルイ16世の処刑は国民公会によるという知識を活用することもできただろう。「文書資料についてのブロックの説明」は半ば視力検査である。これらを組み合わせて、正答の【③】を導ける。

問5 形式正文選択 内容読解5・知識5
資料の形式段落4つ目を読めば、「嫌われた体制」がアンシャン・レジームを指すことは容易に想定できる。その上で各選択肢を検討すれば、正答は【④】となる。資料読解と知識の活用を組み合わせた作問が為されており、高大接続改革の趣旨に見合った、共通テストに相応しい問題だと言えよう。


第2問「世界史上の貨幣」

問1 形式正文選択 内容読解1・知識9(年代)
グラフから、「金貨鋳造量が急増し,初めて500万ポンドに達する」のは1776年であることが読みとれる。したがって、正答は1773年のボストン茶会事件を示す【②】となる。所謂「大西洋革命」が18世紀にかけて続いた(②)こと、その後に反動のウィーン体制が形成された(④)ことなどを考えればよいだろうが、やや難しい。
この種の問題も新傾向とされるが、2020年にも本試36・追試27などでもグラフを用いた出題が見られる。つまりセンター試験から踏襲した形式であるが、グラフの数値を読みとるのはあまりに簡易であり、読解力や思考力を問えているとは考えにくい。せめて2016年本試12のように、複数のデータを比較するなどの工夫があれば良かったと感じる。

問2 形式空欄補充 内容読解2・思考4・知識4
グラフ1から、「金貨鋳造量が10年以上にわたって100万ポンドを下回り続けた」のは1799年から1813年にかけてのナポレオンが活躍した時期であることが読みとれる。この時期に対仏大同盟の再形成や大陸封鎖令の発出など、英仏間の対立が激化したことを想起すれば、(あるいはできなくても)イギリスと対立したのはフランスであると分かる。また、グラフ2を見ると、この時期に紙幣流通量が急増しているので、正答は【③】となる。
複数の資料の読み取り、それを活かした思考、時代背景の考察など、新テストらしい良問の一つであると考えられる。

問3 形式正文選択 内容読解2・思考2・知識6
図上の「1852年鋳造」という説明から判断するか、図版から君主の性別を判別することで、この君主がヴィクトリア女王であると推測できただろうか。あとは歴代君主の治績を把握していれば、【①】が正答だと分かる。

問4 形式空欄補充 内容読解1・知識9
目新しい出題傾向であるかもしれないが、問題を読みかえれば「16世紀の中国における貨幣の流通状況について述べた文章として正しいものを選べ」とできる。センター試験と何も変わらない。正答は【③】だ。

問5 形式空欄補充 内容読解2・知識8
半両銭に関するやや細かい知識が問われたが、始皇帝の統一事業を思い出せば問題ない。また、交鈔が画期的であったのは、それが紙幣であり広く流通し得たという点である。以上のことを総合すれば、正答の【③】が導ける。会話文中に解答につながる伏線やヒントがなかったのは残念である。この程度の難易度であれば、読解力を問う設問にもできたはずだ。

問6 形式誤文選択 内容読解1・知識9
「父なるトルコ人」とはムスタファ=ケマルを指すが、それが分からなくても、選択肢を参照すれば、明らかな誤りである【④】をマークできただろう。

第3問「文学者やジャーナリストの作品」

問1 形式正文組合 内容読解2・知識8
デカメロンはボッカチオの作品である。彼はルネサンスの初期(14世紀)に活躍したので、「文化の特徴」としては明らかに人文主義が適切である。したがって、正答は【④】となる。説明文にも「当時の社会に皮肉を込めつつ,滑稽に描いている」とあり、作品の背景に人文主義があったことを示唆している。

問2 形式正文組合 内容読解3・知識7
コロナ禍という社会的な背景から「1348年」はマークしていた受験生も多いのではないか。この頃に蔓延した疫病はペスト(黒死病)で、「鼻から血を出す」や「股の付け根や腋の下に腫物ができました」という特徴にも合致する。「病に関する説明」では、既に掲げた部分からXが誤りと断定できるが、結局は知識を生かして二択に立ち向かうしかないだろう。正答は【⑤】となる。

問3 形式正文選択 内容知識10
センター試験同様の正誤判定の問題。人名とその事績を把握していれば誤答を防げただろうか。正答は【②】である。

問4 形式誤文選択 内容知識10
正誤判定の知識問題が続く。明らかに誤っているのが【④】だ。

問5 形式空欄補充 内容読解2・知識8
正答は【②】である。習得した知識をいかに活用できるかが問われている。決して読解力だけで解ける問題にならなかったのが、今回の共通テストの特徴であろう。

問6 形式正文組合 内容知識10
従来型の空欄補充に、その事績を組み合わせた設問が目立つ。この問題はロシアの近代化と領土拡張を組み合わせて問うており、難しいが、まずまずの良問であろう。正答は【③】である。

問7 形式正文選択 内容読解2・思考3・知識5
解答の方向性は見出せるはずだが、①(②)④の孰れを選択すべきか逡巡した受験生もいたようだ。「作家の経歴」にある「トロツキーの影響を受けた組織の一員として」「ソ連からの援助を受けた共産党と対立し,弾圧された」という部分に照らせば、解答は【①】であると分かったのではないか。また、作者の没年が1950年であることを踏まえると、②から④は選択しようがない。まさに読解力・思考力が問われる設問だ。

問8 形式正文選択 内容読解4・思考2・知識4
「18世紀の中国の朝廷」は清朝であり、その編纂事業を振り返ると当てはまるものは四庫全書だけになる。波線部の改変箇所に注目すると、解答は【②】だと分かる。


第4問「国家や官僚と文書」

問1 形式単語組合 内容読解2・知識8
ルーマニアが火種となったというほかに、資料から得られる情報はなく、単純に東方問題の経緯を理解できているか否かが問われたと言ってよい。難問だが、正答は【②】である。

問2 形式空欄補充 内容読解3・知識7(地図)
出題が増えると想定されていた地図問題がようやく初めて登場した。しかも地図を前提として思考力を問う類の問題ではなく、センター試験と同様の国や地域の位置を問う設問となった。来年以降は試行調査に見られたような設問があるかもしれない。
先のサン=ステファノ条約やベルリン条約の細目を暗記できていたかどうかが重要であるが、資料中の「スルタン陛下の主権のもとに」「キリスト教の政府と国民軍を保持する」という部分から、ブルガリアを思い出せたかもしれない。いずれにせよ、正答【②】に至るには地図と関連付けた学習がカギとなった。

問3 形式正誤組合 内容知識10
センター試験で頻繁に出題された二つの正誤判定を組み合わせる類型の問題だが、共通テストではここで初登場となった。内容は難しくない。正答は【③】。

問4 形式空欄補充 内容読解2・知識8
この小問では資料を熟読する必要さえない。会話文の終盤にある「1956年に共同宣言を出して」という部分からその相手国はソ連であり、ニクソン大統領はアメリカの国家元首であった。正答は【①】となる。

問5 形式年代整序 内容読解3・知識7
こちらもセンター試験でお馴染みだった年代配列だが、資料を用いた出題となった。それぞれニクソン訪中、中ソ友好同盟相互援助条約、日中共同声明であり、年号暗記をしていれば正答【③】が導けただろう。また、ニクソン訪中から田中角栄訪中に至る時系列を把握しており、同時にその背景が中ソの関係悪化にあることを知っていれば、年代が分からずとも正答できたはずだ。さらに、共通テストでは資料文が掲載されているので、その内容を読み込めば、同様の論理を見出して正解できたかもしれない。

問6 形式正文選択 内容読解4・知識6
資料から「下線部ⓐ中の国際環境」とは、1950年代の中華人民共和国成立前後の時期の国際環境を指すことが読みとれる。そうすると、年代上は二択に絞られ、③が明らかな誤文であることから、正答は【②】となる。また、中国が講和会議に招かれなかった背景を説明する文章として適するのも、②のみである。

問7 形式正文選択 内容読解4・知識6
53頁の鈴木さんの発言から、空欄がサンスクリット語であることは明らかで、「文学作品の名」は『シャクンタラー』となる。また、資料読解も丁寧に行えば、正答として【①】が導けるだろう。

問8 形式正文組合 内容読解4・知識6
54頁の先生の2回目の発言で、「植民地支配下でも村や郡ではインド諸語で帳簿や命令書が作成され」とあることに、Yが合致する。また、Zが事実誤認を含んでいることも確認し、正答は【③】となる。

問9 形式正文選択 内容知識10
センター試験同様の正誤判定である。インドのムガル帝国に該当するのは【②】だ。


第5問「旅と歴史」

問1 形式誤文選択 内容読解2・知識8
まず「地域1」がシチリア島であることを読み取る必要がある。その上で正誤判定をすれば善い。正答は【①】である。

問2 形式正文選択 内容読解3・知識7
空欄アに当てはまるのがイギリスであることは容易に推定できる。その上で正誤判定をし、百年戦争の背景として適切な文章を空欄イに入れれば善い。正答は【①】だ。

問3 形式年代整序 内容読解1・知識9(年代)
古代ローマの支配下に入った順番を問う難問であった。シチリアは前3世紀に最初の属州となった。ブリテン島の支配はこの中では最も遅い。よって、正しい配列ができれば【⑤】となる。

問4 形式空欄補充 内容読解5・知識5
人名は間違えられない。内容の補充は、石碑の文面を読めば明らかである。答えは【④】。

問5 形式正文選択 内容読解2・知識8
選択肢が短くヒントも少ないので、王守仁と王重陽を取り違えることがないようにしたい。王陽明は前者である。空欄オに当てはまるのは儒教なので、【②】が最も適切である。

問6 形式年代整序 内容思考3・知識7(年代)
日清戦争前後の朝鮮半島情勢を理解していれば容易に解ける。また、十干十二支から逆算することもできただろう。正答は【①】である。


第2日程の特徴的な設問

読解力・思考力を問う「共通テストらしい」問題や、第1日程に見られなかった傾向の問題を取り上げる。多くの方がまだご覧になっていないことを想定し、問題文のみ引用している。(解答は示していないので、まだ解いていなくても問題ないはずである。)

第1問 問2
上の要約1~5が指している国の歴史には,南アフリカ共和国の歴史との共通性が見られる。その共通性について述べた分として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。 
読解力と思考力の双方を問いつつ、広い範囲にわたる知識の活用が求められた問題で、理想的な設問であった。かなり細かい内容であるが、来年度以降の出題も見込めるので、対策に役立てられそうだ。

第2問 問2
下線部ⓐ(引用者註;「第2次産業革命」)を象徴する図として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
図版を答えるものだが、これまであまり見られなかった漠然とした問いである。こちらも思考力を効果的に問えているので、今後本試験で出題され得る形式だと考えられる。

第4問 問9
次の図を見て,上の文章中の空欄エの国家について述べた文として正しいものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
詳細は伏せるが混同しやすい知識を地図と組み合わせて出題したものである。形式は異なるものの、同様の問題はセンター試験でも数多く見られた。センター試験の過去問も侮るべきではないということだろうか。

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