2021共通テスト問題分析 化学

こんにちは。東大入試研究会の新2年 yotsu です。理系・物理化学選択です。

今回は,2021年度共通テストの化学の問題を分析します。
化学基礎についても,別の記事で同様に分析しています。化学”基礎”とはいえ,現時点では共通テストの貴重な素材ですから,化学選択の方も目を通しておくべきでしょう。
問題はインターネット上でも公開されていますので,ご自分で入手してください。

全設問の詳しい解説は各予備校のHPや試験問題評価委員会報告書にも記されていると思いますので,当記事では全体概観と特に注目したい設問の解説に絞ることにします。
【3/16 追記】受験生や高1・高2生の方々には,この1問をどう解けばいいかというよりも,この1問を代表としてこういう類の問題はどう解けばいいか,あるいはこの1問に関連してどういったことを学ぶべきかというところに注目して,この分析を見ていただければ幸いです。


第1日程(1/17実施) 設問別解説

第1問 問2 解答番号:2
体心立方格子構造の結晶の密度の式からアボガドロ定数を導く問題です。配位数や充填率の計算も自力でできるようにしておくべきです。
旧センター試験でも結晶構造の問題は毎年のように出ていましたが,必ず図が添えられていました。本問で図が添えられていなかったのは,文章や式ばかりでなく図・写真やグラフなどを日頃から活用してイメージをもっておくようにというメッセージなのかもしれません。

第1問 問4 a 解答番号:4,5
今回の試験から導入された,数値を直接選ぶ形式の問題ですが,グラフを単純に読み取るだけでした。1目盛り=2℃ という点を見逃した受験生もいたようですが,グラフを読む際には必ず確認しておくべきことです。

第1問 問4 b 解答番号:6
液体が温度上昇に伴い徐々に気化していく際の圧力変化の様子を問う問題です。グラフの概形はすぐにわかるようにしておくべきです(2次でも問われる)。それが分かれば①②の2択となり,考えるべきことが明確になります。

第2問 問2 解答番号:8
通電前後での電池の質量変化を問う問題です。多くの受験生にとって“空気亜鉛電池”は未知のものであったでしょうが,この手の話は鉛蓄電池の学習の際に考え方を学んでいるはずです。本問では両極全体での話が問われているので,全体の反応式を作るところからスタートするといいでしょう。

第2問 問3
a 解答番号:9
水の状態変化のさせ方を問う問題です。固体と気体の特徴から判定することも可能ですが,状態図を思い浮かべられるのがベストでしょう。この問題もやはり図の重要性を暗に伝えているのではないかと思えます。
b 解答番号:10
水素結合の本数に関する問題です。問題文1行目に何気なく記されている内容を頭に入れておくべきです。1本の水素結合が2個の分子に共有されているため,1個の水分子がもつ水素結合の本数は "0.5"×4=2 というように計算すべきことを注意しておきましょう。
c 解答番号:11
0℃における氷の昇華熱を求める問題です。見かけない問題ですが,ご丁寧にエネルギー図が書かれているので,ヘスの法則を使えば何の問題もなく計算できます。エネルギー図を書くことを苦手にしている受験生が多いことへの配慮なのでしょうが,将来的には自分で書かせて解かせるような問題も出題されるかもしれません。練習しておきましょう。

第3問 問2 解答番号:13,14
金属元素の判定問題です。Ⅲの記述にある同族元素を知っているかどうかが分かれ目でしょうが,無理のある出題とは言えません。典型元素については第6周期まで”族別”に覚えておくべきです。“族別”に覚えておいてこそ,周期律という知識を活かせるようになります。特に今回は,鉛とスズは両性元素という共通の特徴があります。いずれにせよ,やはり図の重要性というメッセージが隠されているようです。
参考)2021 九州大 [2] 問7 ・・・14族元素であるスズと鉛に関する正誤判断

第3問 問3
b 解答番号:16

未知の反応がテーマとなった問題ですが,bでは反応式の係数を読んだ上で,シュウ酸イオンと二酸化炭素のmol比も考慮する必要があり,やや複雑だったかもしれません。
c 解答番号:17
分解された割合を計算する問題です。bの誘導を利用するにしても,やや複雑だったでしょう。bの誘導を利用せずに,分解率を α などとおいてバランスシートを書いてやる方が単純に考えられるかと思います。計算は大変ですが…
なお,過去のセンター試験の試験問題評価委員会報告書では,前問の結果を利用する類の問題は出題するなということが散々書かれています。しかし,未知の反応をテーマにするとなると誘導はつけるべきという判断なのでしょう。次年度以降も,連動して間違えることがないよう注意すべきです。

第5問 問1
b 解答番号:25
平衡に達する前の状態について問う問題です。方眼紙を使ってグラフを書いて読み取るという新しいタイプの問題なのですが,本問は表を見るだけでも正しい選択肢をたやすく選べてしまうので,もう少し練った出題をしてもらいたかったところです。
c 解答番号:26
平衡定数を使って新たな平衡状態について答える問題です。そのままバランスシートを書いて方程式を作って解いてもいいのですが,少し工夫をしたいところです。本問では,α-グルコースとβ-グルコースの総物質量は反応前後で変わりません。実験Ⅰで分かったことは,計 0.1mol ならば α : β = 0.032 : 0.068 に落ち着くということであり,その存在比は不変だというのが平衡定数の意味です。実験Ⅱでは,α と β が各 0.1mol ずつになったわけですが,計 0.2mol で2倍になったというだけのことですから,0.068×2 = 0.136 とすぐに求まってしまいます。方程式を解くという作業にはミスがつきものなので,できるだけ回避することを考えたいところです。

第5問 問2 解答番号:27
グルコースの1位のヒドロキシ基がメチル化された化合物についての問題です。グルコースが還元性を示すのは,ヘミアセタール構造をもつために開環した結果,鎖状分子がホルミル基をもつからです。Xはヘミアセタール構造をもたず,しかも水溶液が還元性を示さなかったわけですから,開環して鎖状分子に変化することはなくα型はそのままとどまったということになります。糖類に関する知識を基に思考する力が求められました。なお,酸性条件下ではXは加水分解してグルコースに戻り,還元性を示すことになります。

第5問 問3 b 解答番号:29
酸化されても炭素数は不変だということを用いて回答する問題です。Y・Z は”炭素原子数が1”ということをリード文から読み取る必要があります。簡潔な問題文から考えるとなると難しかっただろうと思われます。

第1日程(1/17実施) 全体概観

未知の題材が扱われたり,新しい形式の出題があったり,旧センター試験に比べると解きにくくなっており,マーク数は減ったものの時間がかかる試験になりました。第3問 問3,第5問 問2 を中心に思考力・判断力を要求する問題が見られました。しかし,まだ控えめだったように思えます(特に,第2日程を踏まえると)。約半数を占めた計算問題については,計算自体はそれほど重いものではなく,適度に式量が与えられており,配慮がなされていました。受験者の学力評価の妥当性の観点から,出題にあたって配慮を求められていた『複数解答組合せ問題・複数正誤組み合わせ問題』は2問のみ(第1問 問3,第5問 問3 a)でした。さらに,実験操作に関して深い思考力を要する問題は出題されませんでした。また,センター試験で散見された身近な物質に関する問題は見当たりませんでした。
総じて,共通テストのテーマにやんわり沿いつつも無理のない試験に仕上がったという印象です。


第2日程(1/31実施) 設問別解説

第1問 問1 解答番号:1
有機化合物の構造式ないしは電子式についての問題です。具体的な化合物の電子対についての問題はセンター試験でも出題されていましたが,理論化学で電子式を学ぶときに出てくるような簡単なものばかりでした。有機化学の学習に際し,構造式をきちんと追うようにというメッセージでしょう。

第1問 問2 解答番号:2
混合前後の気体の圧力と体積の関係を問う問題です。物理で熱力学を学んでいると有利だったでしょう。とはいえ,化学で学ぶ状態方程式のみから,物質量 n[mol] に比例する量である圧力と体積の積 PV[Pa・L] について加法性が成り立つことが導けます。状態方程式の使い方を練習しておきましょう。

第1問 問3 解答番号:3
コロイドについての知識を問う問題です。ただの見かけ倒しです。特にイについては,もう少しうまく出題できなかったものかと感じます。

第1問 問4
a 解答番号:4
薄層クロマトグラフィーについての問題です。東京大学の基礎化学実験でも扱います。Ⅱについては図を見れば明白ですが,Ⅰについては,シリカゲルに吸着しやすいということが薄層板上を上昇しにくいということだと解釈できるかどうかが分かれ目になりました。
b 解答番号:5
前問 a のⅡと同様,図を見れば明白です。実験の説明が長々と書かれていますが,リード文の第1段落が理解できれば御の字です。実験内容について文章や図から思考する力が求められました。

第2問 問1 解答番号:6
金属のイオン化傾向と電池に関する問題です。「橋脚などの鉄柱には…」という文章が入っており,身近なものとの関連性が示唆されていますが,問題自体は旧センター試験と何ら変わりないごく普通の内容です。

第2問 問2 解答番号:7,8,9
弱塩基とその塩による緩衝液についての問題です。緩衝作用の説明については弱酸の場合が取り上げられることが多いので,少し戸惑うかもしれませんが,原理が分かっていればきちんと回答できたはずです。

第2問 問3
a 解答番号:10
反応熱を計算する問題です。第1日程と同様,文章で云々というよりはエネルギー図が与えられるという形になっています。共通テストでの新たな路線が分かりやすく見えています。
b 解答番号:11
反応前後や反応進行中のエネルギーについての問題です。提示された文献調査のまとめを読み取って回答せよというスタイルでの出題となりましたが,Ⅰ~Ⅲのどの記述もノーヒントで判断できるはずです。未知の事柄に対する思考力・判断力を適切に問えるような形にしてもらいたかったところです。

第3問 問1 解答番号:13
金属元素とのその用途に関する問題です。②③④の記述は判断しにくかったかもしれません。③では身近な電池,とりわけ2019年ノーベル化学賞で話題になったリチウムイオン電池が取り上げられています。2020年度センター試験でもニッケル水素電池が取り上げられていることに鑑みれば,資料集等でいろいろな電池を確認し知っておくとよさそうです。

第3問 問2 解答番号:14
金属と強塩基との反応性についての問題です。水酸化ナトリウムと反応するのは両性金属だと気づけるかどうかに加え,反応式を作れるかどうかも鍵になっています。無機化学の内容を反応式とともに理論的に捉えられるような学習が必要です。

第3問 問3 解答番号:15
金属陽イオンの分離操作についての問題です。使用する水溶液がイレギュラーですが,溶解性をまとめた表がご丁寧に添えられています。表が添えられていなくても判断できるようになっておくべきですが,時間はかかるものの実験操作に関して判断力を要求するいい形の出題であったと思います。
参考)2021 東北大 大問2 問10 ・・・分離操作の手順を選んで並べる問題

第3問 問4 a 解答番号:16
酸化還元反応についての問題です。酸化力をもち,かつ反応後に無色透明となるような試薬を選べばよいのですが,正解であるヨウ素溶液の呈色については,反応式を書けるようにしてきちんと理解しておきましょう。
参考)2021 東北大 大問2 問1 イ ・・・褐色を示すイオンの名前を答える問題

第4問 問3 b 解答番号:23
有機化合物の分離操作についての問題です。典型題の範疇ではありますが,対象である化合物の特徴を見極めて,どんな水溶液を加えればよいのかを理由を含めて自力で考えられるようにしておくべきです。

第5問 問2 c 解答番号:32
実験での測定値のずれに関する問題です。今年度の共通テストで新しい色が最も濃く出た問題でしょう。bを解く際に使った中和の量的関係式を基に思考する力が要求されました。酸の量が小さく求まったということは,使用した塩基(本問では水酸化ナトリウム)の測定値が小さく出たということですが,酸の量は不変ですから”塩基が隠れていた”と結論できます。それに対応する選択肢は①となります。2次試験で問われてもおかしくない問題です。考え方をきちんと理解しておきましょう。

第2日程(1/31実施) 全体概観

第1日程とは段違いといえるほどに共通テストの色が出た試験となりました。計算問題については,第1日程と同様に配慮がなされていました。一方で,出題にあたって配慮を求められていた『複数解答組合せ問題・複数正誤組み合わせ問題』は6問(第1問 問3・問4 a・b,第2問 問2・問3 b,第4問 問3 b)とかなり多く出題されました。さらに,第1問 問4 a,第5問 問2 c をはじめとして,実験操作・結果に関する思考力・判断力を要求する問題が多く見られました。また,身近な化学現象と関連させるような記述がいくつか見られました。
総じて,第2日程ということもあって,難易度を上げてやや実験的な問題となったのではないかという印象です。


おわりに

センター試験の形式を踏襲するような問題も数多く見られましたが,随所に共通テストの色が見られた試験となりました。しかし,模試等で予想されていたものよりは難易度は控えめであり,化学の教科書の内容に真摯に取り組んだ人であれば,8割以上の得点は十分に狙えるものだったと思います。さらに高い得点を安定させるには,やはり2次試験レベルの問題に多く当たることが不可欠でしょう。その中で,いろいろな材料に触れられることはもちろん,思考力・判断力というものが養われていきます。結局,共通テストを攻略していくためには,最終ゴールである2次試験に向けての学習をこれまでと同じようにやっていけばよく,その途中に共通テストがあるのだという認識でよいでしょう。
これでようやく2回分の共通テストの問題が手に入ったわけですが,個人的には第2日程の問題をこの先のモデルケースとして考えておくとよいかと思います。これからどういう方向に進んでいくのかは分かりませんが,形式的に見れば共通テストの色がより出ているのが第2日程だからです(詳しくは各日程の全体概観をご確認ください)。

個人的にふと気になったのは,文字で示された物理量の単位が () で括られていたことです。センター試験や東大入試では,単位は [] で括られていました。日本では [] の方が標準的であり,どういった意図があるのか不思議です。なお,SI原則によると Q/kJ などというように 物理量記号/単位記号 と記すべきだということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?