見出し画像

「再来の訪灯〜灯台コレクション〜」

灯台訪問の魅力をお伝えする「訪灯シリーズ」。今回は灯台訪問をより夢中で楽しめむための一つの事例(考え方)をご紹介します。

 「訪灯シリーズ」はこちらでまとめて読めます
 有料マガジン(500円):灯台訪問を楽しむための六ヶ条

灯台の楽しみ方は様々ですが、その内の一つに「灯台訪問」があります。灯台を美しい風景とともに鑑賞するのは灯台ファンにとって至極の時間の一つです。

今回はそんな灯台訪問の魅力をお伝えしながら、灯台そのものが持つ魅力にも迫っていきます。キーワードは「多様性」と「反復性」です。途中、少し遠回りした説明を挟んでいますが、最終的には「灯台っていいよね。だから何回も行こう」という極めて偏愛的な話になりますので、お付き合いください。

※全文約4000文字で読むのに8分ほどかかるため、面倒な方は「灯台訪問は「1回きり」と思わない」の段落から読み進めて頂いても結構です。

◆灯台のもつ「多様性」と灯台訪問の「反復性」

灯台には「多様性」があります。
一般的な灯台のイメージは、風光明媚で視界のひらけた岬の突端にポツンと佇む白亜の灯台の情景を思い浮かべる方も多いでしょうが、実際の日本の灯台はもっと多種多様な存在です。

「明治期灯台」や「のぼれる灯台」「レンズ式灯台」など、灯台にも様々な歴史や外観、使用されている素材などの特徴があります。また、訪れる季節や時間帯、天候によっても表情を変えるのは灯台が自然風景と限りなく近しく溶け込んでいる多様な存在(※)だからでしょう。
 ※灯台の多様性については、このマガジンの「灯明シリーズ」で詳しくご紹介しています

画像2

灯台のもつ魅力の一つは「多様性」ですが、これは別の視点から言い換えると、灯台訪問は「反復性(※)」に強い活動であるとも言えます。
※「反復性」というのは本文においては「繰り返しても楽しめる性質」と定義します。

これは他の文化施設や史跡には無い、灯台独自の特徴ともいえます。

勿論、このような文化施設を旅行や観光で繰り返し訪れる人々もいると思いますが「1回きり」の体験で終わるケースが多いのではないでしょうか。それは文化施設を観光で訪れる人々の目的は「知的好奇心を満たすこと」や「歴史探究をすること」であるため、一度経験してしまったら再訪する目的を失ってしまうからです。

観光する人々は「訪れた想い出(施設の写真など)」と「知識として得られたこと」で満足するため、同じ地域・同じ施設を訪れる選択肢に入りづらいんですね。

つまり文化施設は「知っていること」がリピートに繋がらないのです。そのため、地域振興戦略では「知っていること」がリピートのアクションに繋がる「グルメ」「お土産」「温泉」などに、より注力する傾向にあるのです(一方、民俗文化は歴史という"時間"を味方にできる強力なコンテンツでもあります)。

そして、実は灯台も「知っていること」がリピートに繋がる資源です。

画像7

◆「ネタばれ」しても灯台訪問は一期一会

何故、地域観光では「グルメ」「お土産」「温泉」に注力するかというと、それらはリピーターを生みやすいからです。新規客を増やすより、リピーターを増やした方が継続的に発展していきやすいので。

では「リピーターを生みやすい商品・サービス」と「リピーターを生みにくい商品・サービス」の違いは何かというと、簡単に言うと”「ネタばれ」していることが求めている効用に左右するか否か”です。

何事も、人は選択する際に「失敗したくない」という心理が働きます。たまの観光旅行などでは尚更です。そのため、既に「ネタばれ」しており事前にある程度評判が分かる地域の名産品グルメを食べたり、有名な観光地を訪れたりするのです。

そんな中でも「グルメ」「お土産」「温泉」というのは”知っていても効用が得られるもの”であるため、「ネタばれ」していることがリピートに繋がりやすい資源ですし、文化施設は「1回行けば満足」というコンテンツなのです(文化施設は文化財を後世に伝えることが目的なので、そもそも観光のための資源ではないのですがここでは観光振興の視点で述べています)。

しかも「グルメ」などは「キャンプ」や「アウトドア」とも違い、"確実に効用が得られるもの"でもあります。言い換えると「グルメ」は再現性が高いと言えます。逆にキャンプは何が起こるか読めないのを楽しむものなので、再現性が低いと言えます。一期一会を楽しむ、という感じ。これを図に表すと次のようなイメージです。

灯台カテゴリー①

ヨコ軸が「事前にネタばれしていても楽しめるか」という視点、タテ軸が「効用に再現性が高いか」という視点です。なお、この図はそれぞれの地域資源の単なる特徴を表したものですので、資源の優劣をつけるものではありません。念のため。

さて、そんな中で灯台はどんな位置づけか。

結論からいうと、灯台は次の図のようにほぼ中央よりやや右くらいに位置する資源ではないかなと考えられます。

灯台カテゴリー②

灯台は現地で歴史などの知識的な情報をウリにしていないので、文化施設とは異なり事前に灯台の背景情報や景観などが「ネタばれ」していても何ら問題ありません。むしろ、市街地から離れた場所にある灯台を訪問するのにはそれなりに時間を要するので事前に出来るだけ「ネタばれ」していないと足を運びづらいでしょう。

一方で灯台はグルメなどのように「同じ効用を提供するもの」でもありません。いや「灯台はいつ何時もそこに佇んでいる」というのは揺るがない事実ではあるのですが、灯台を取り巻く景観は繰り返し訪問してもその時々で表情が異なります。つまり、どれだけ「ネタばれ」していても一期一会で再現性がないのです。

どちらかというと、景勝地に近い性質があり天候や季節の影響を大きく受けますので、灯台訪問にはこれを踏まえる必要があります。

◆灯台訪問は「1回きり」と思わない

多くの人は灯台を訪れた際に、その回数が「1回きり」であることがほとんどだと思います。それは全く悪いことではないです。その1回であっても灯台が旅の思い出として記憶と記録に刻まれますから。

ただ、もしその1回きりの灯台訪問した時の天候が「曇り」だったならどうでしょうか。どんよりとした空模様でいかにも気持ちが暗くなっていきそうです。灯台は自然と共存するため、そのようなこともあり得ます。もしその灯台訪問が「1回きり」と覚悟するならば、その時の心情が目に浮かびます。それ以前に訪問をキャンセルするかもしれません。

しかし前段でお伝えしたように、灯台訪問は「ネタばれ」していても楽しめる魅力があるんだと知っておけば、そんな天候に恵まれない場合でも、灯台との一期一会を楽しめるのではないでしょうか。むしろ、曇天の空模様は画像共有アプリやSNSでもあまり投稿されない貴重なシーンです(曇天であれば訪問する人も少ないので)。

※荒天時の灯台訪問には危険が伴いますので、くれぐれも「映え」狙いの無茶な灯台訪問はご遠慮ください!

そんな貴重な体験もしつつ、また次回晴天で訪問した時には、曇天シーンを知っている分、より一層灯台の魅力を味わうことができて、むしろ他の人たちよりもお得だと考えるようにしましょう。

このように灯台訪問を繰り返し行うことを前提とした時に、便利なフレームワーク(考え方)が「灯台コレクション」です。「灯台コレクション」とは『続・灯台護(とうだいもり)プロジェクト』では"1基の灯台のさまざまな表情を一覧できるように収集すること"と定義しています。

「灯台コレクション」には灯台の様々なアングル、景観がありますが整理するためのレイアウト例も提示しておきます。

<灯台コレクション(例)>
1.遠景の灯台
2.近景の灯台
3.朝夕の灯台
4.昼間(晴天)の灯台
5.灯台の灯器部(ズーム)
6.曇天(雨天)の灯台
7.夜間の灯台
8.灯台の初点プレート(銘板)
9.季節の灯台

この例でレイアウトしたものが次のようなイメージです。少し分かりにくいものもありますが、灯台の多種多様な表情がお分かりになるかと思います。※左上から右下にかけて、上記番号順に並べています

妙見埼灯台(福岡県)

画像4

このように、灯台はあらゆる天候、あらゆる季節、あらゆる時間帯で異なる表情を見せます。そのため、仮に今回が曇天だったとしても、それは灯台コレクションの貴重な1ピースには違いありません。だから落ち込まずにしっかり記録に残しておきましょう。

◆灯台の魅力を味わい尽くすために

「灯台コレクション」は灯台ファンが灯台巡りを選定する際にも活用することができます。何故ならお気に入りの灯台を繰り返し訪れていても案外気付かない隠れた一面があったりするからです。

例えば「毎回同じような場所からの眺めになってしまっている」とか「無意識に雨天や曇天の日は避けてしまっていた」ということがあるからです。

それも勿論悪くはありませんが、そんな時に「灯台コレクション」のフレームワークが全て埋められるかどうかを試してみると、お気に入りの灯台であっても、自分がまだ見ていなかった時間帯や季節の表情を発見するサポートになるかもしれません。

「そういえば曇天の灯台には会いに行っていなかったから、今度はあえて曇りの日に行ってみようかな」とか。そうすることで、お気に入りの灯台を余すことなく味わうことにもなります。

逆に「灯台コレクション」が揃えられるほど灯台訪問しているのであれば、胸を張って自分のお気に入りの灯台を推すこともできます。これ、本当に以外と難しいんですよね。

大関酒造今津灯台(兵庫県)

画像5

また、もし地方自治体が地元の灯台を観光資源として活用されるのであれば、是非とも「灯台コレクション」を意識して、晴れの日も曇天の日も分かるように灯台をPRしてみてはいかがでしょうか。

観光の目的が景勝地であれば、そもそも「絶景」を体験しに行っているわけですから天候に恵まれなかった場合になかなか辛くなります。最悪訪問キャンセルされるかもしれません。

しかし、灯台訪問であれば少なくとも「灯台」はいます。必ずいます。そして、必ず灯台がいることで他の季節や天候のシチュエーションとの比較が容易になります。

つまり「晴れの日はこんなに爽快です(灯台も青空に映える!)」「雨の日はこんなに鬱々しています(だけど灯台は頑張ってる!)」と、多くの情報を提供することができますので、訪れる人にとっては非常に分かりやすいのです。

部埼灯台(福岡県)※曇天(雨天)シーンは収集中

画像6

灯台の多様性は「アングル」だけではありません。是非とも灯台を繰り返し訪れて、灯台の魅力を味わい尽くしてみましょう。

村上 記

ここから先は

0字
ちょっとした心構えの違いで灯台訪問が楽しい旅の思い出の一つに変わりますので、灯台を訪れる機会に思い出して頂ければ嬉しいです。

これまで200基以上の灯台訪問経験のある記者が、実践できる灯台訪問の「楽しみ方」をご紹介します

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。