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君よ知るや南の海~石見神楽

つい最近「対馬暖流」の存在を知った。子どもの頃に太平洋側には黒潮という暖流が流れ日本海には寒流が流れている、と学習した記憶のままうっかり過ごしてしまった。自分のルーツが南方系海洋民族であると確信しているので、黒潮という海流には望郷の念を抱いている。沖縄や鹿児島、高知などの人々に対する奇妙な愛着心と共感は同じ遺伝子を持つことから来るのではないかと思っていたが、石見&芸北地方の神楽に対する執着の謎が「対馬暖流」によって解けたような気がする。あの神楽にもきっと同じ遺伝子を感じたのだ。

山口や石見などの山陰の海、そして韓半島東部の海はハッとするほどのターコイズ色に見えることがある。沖縄近辺のあの独特の色彩なのだ。うっかりしていたが南の海から海流に乗ってやってきた我が祖先は、太平洋側だけでなく日本海方面にも辿り着いたことだろう。調べてみると隠岐の島は「海のシルクロードの東の果て」として名高いそうだ。「隠岐国分寺蓮華会舞」のお面はどう見ても南方系の顔立ちである。山陰地方は有史以前から深く大陸や南の島々と交流してきた土地であったのだ。

山口県角島大橋

私が一目ぼれした「新舞」といわれる創作神楽は、とても日本のモノとは思われない美意識に満ちている。回転する舞はイスラムの旋回舞踊や韓国の農楽を連想するが、そのスピード感は半端じゃない。しかも何人もがシンクロして舞うのだ。そして衣裳と面の煌びやかさはバリ島の仮面劇にそっくりだ。
衣裳だけでなく一番人気の演目「八岐大蛇」の大蛇は色彩造作ともに最強である。大蛇はかつては数頭の出演であったが最近では八頭揃って出演することが多く、世界的に有名になっていると聞く。
この大蛇のモデルは遥か南の海から流れ着いた海蛇らしい。出雲大社や名だたる古社に遺骸が安置されているという。

「八岐大蛇」

そして一瞬で夢中になった最大の理由はそのシンプルでリズミカルな音楽である。太鼓と小太鼓、鉦と横笛のみの心躍る音楽。盛り上がってくると入ってくる掛け声は、沖縄の指笛の感覚。とても原始的で懐かしい音楽なのである。そして大阪出身の私の心の底に流れているのも、天神祭りタコ踊りのあの原始的な鉦太鼓のみのリズム。天神さんは菅原道真を祀っていると聞いているが、あのリズムはそれよりずっと昔にやはり南の海からやってきたのだろうな。幼いころに聴いて育ったから懐かしいのか、それともDNAに組み込まれているのか。ともあれコロナ禍で上演が自粛されていた神楽大会も復活してきた。今年は各地の神楽を追っかけして歩きたいと思っている。

赤穂緞通工房ひぐらしG wrote

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