5/8 Resistance & The Blessing
今日はおかしな天気で、祝福されているのか叱られているのか解りませんね。どちらもそう変わりないことなのかもしれないと、今は思います。あるのは視座だけで、わたしの役目はわたしの視座そのものなのでしょう。あの星座がわたしたちのいるこの惑星の位置から見てようやくあの星座になるように、わたしの視座であなたがあなたの輪郭の光になる。だからわたしがあなたを光だと言うとき、誰から見てもそうってわけではないのだから、わたしを見つめ返してご覧。くすくす笑って初めて明日が芽吹く。この繰り返しでここまで来た。そしてすべての今は生まれたばかりの今なので、どの点滅も永久のうちのワンシーンだよ。フィルムライクにざらつかせても光は、光は、光量を振り切ってどうせ何も見えなくなるから、見えなくなったすべてをまた想像して、そこに立ち上がるほうを真実のすがたとする。だとしたらあなたはまだ幼い少年で、誰もいない宇宙を素足で彷徨いあるいている。雪も降っていないのに、爪先が赤く腫れて、ねえあの死んでいた鹿の皮を剥いでおいでったら。と私が声をかけたって、天の声など聞きもせず、その脇腹をそっと撫で、花を手向けて歩いていったね。いつかあの角が君の命を守る剣になったかもしれない、あの肉を食べていたらもう七日生き延びたかもしれないけれど、君は、そうしない。私怒ってしまいたくなった。君を愛しているのだから、君の命を削ったりしないで。だけれど、それが言葉になって君に降る前に、祈りに変換を試みた。どうか君が、行きたい方角へ歩いて行けますよう。たとえ途中で息絶えるとしても、行きたい方角へ向かいながら死んでしまいますように、と。
ぼくらは声を聞いていた。それは昼下がりのほの甘い光や、グラスの水滴にさえ宿った。光の中を巡り巡って飛ぶ無数の羽虫が軌道でレースを編んでいる。あのとおりに辿っていくと、わたしたちの糸は絡まり合って、いったいいつまで遡ったら解けるのかわからなくって途方に暮れた。あなたが、困るということが、いつのまにか最大の、証拠になってしまう。さあ運命の糸で編んだドレスはどこへ出かけるために着る? 僕は宇宙船に乗り込んでも体育座りをしていて。あなたは君っていっつもそうねって笑う。墜落する船でもいい、沈んでしまう飛行機でもいいんだ、誰かと乗ってみたかったから。誰かと? ううん、君と。
わたしたちは暗闇を生きていくでしょう。世界の終わりはもう始まっていて、宇宙全体の歴史で見たらほんの一瞬に見えるとある星の"終わり"の、その最中をわたしたちは生きている。これから長い長い暗闇を生きるでしょう。静かで美しい闇などではなく、血と汗と腐ったにおいと不潔と細菌とつんざく悲鳴、轟音、虚無のがれきの下に埋もれてずいぶんと長い間身じろぎをする、そういう種類の終わりを迎えるでしょう。だけれど私、愛がなによりも強烈な光であったことを決して忘れない。それが確かに在るのだということを、目撃した者以外は誰一人信じやしないだろうが、確かに見て、目の奥を焼かれ、すっかりその形のかげおくりを見ていた。それから長い夜が来て、なにもかも闇にとっぷり暮れて、幾度あたらしい生命がうまれ、幾度となく殺されていった。わたしはもう二度と約束ができないよう、君と結んだとおりのかたちでこゆびを切り落としてしまって、白鳥の停車場の地面に埋めたら、今も数多の船が遭難時に空を見上げて目印にするそうだ。あれってきっとどんな意味にだって見えるよね。冷えた空気を肺に吸い込んで、気温差で煙る窓に書いた手紙は、いつか何度も瞬いてほんとうの光になる日まで、何千回でも読み落とされよう、耐久性だけが真実の取り柄なのだから。さあ出発の時間だよ。もしも音楽が、その魅惑をつかって人類に宇宙の再現をさせているのだとしたら。君のいない夜はまるで酸素ボンベを失くした宇宙飛行士で、少ない酸素を大事に吸わなければいけないのに、あるかどうかもわからない明日が恐ろしくて呼吸が浅くなっていく。それから宇宙は外側に、恋は内側に拡大し、メビウスすべてをのみこんで、なにひとつなくなってしまった。それをまた裏返したら、生まれたばかりの僕たちが雪原を歩いていた。わたしはみどり色に光る鹿の目をそっと閉ざし、喉の内側でありがとうと繰り返しながら皮を剥がして靴をつくった。あなたはそれを履いてどこまでも歩いてゆく。それからふた冬越えるまでに瞳の奥に何度宇宙を再現し、あなたは老いて死ぬまで生きていた。この船に乗れてよかったね、って、もうずいぶん沈んで青ざめてから言う。楽園の苹果を君にあげよう。愛している。
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