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【tockni流コラム】僕・ど・開【小説】

小説も漫画もこれだけは手元に遺しておきたいという物は、何年も何年も持ち続け、何度も読み返します。

そんな一冊に、今回紹介する小説「僕らはどこにも開かない」もあります。

手元に遺しておきたい本には大別して2種類。一つは心から大好きで、どうしても手放したくない作品。もう一つは、影響が強すぎて吸い付くように手放せない作品です。この本は後者にあたります。


出会いは僕がまだ学生の頃、ブラリと出掛けた先の書店「コーチャンフォー釧路店」でした。電撃文庫の表紙は豪華なイラストが多いなか、本書は真っ黒なカバーにタイトルが三行のみの装丁

「僕らは」「どこにも」「開かない」

黄色にブルーの陰影で、角張って細い三日月の様なタイトルロゴの威容。立ち読みされたであろう本が上に置かれ、見えていたのは三行の頭「僕・ど・開」だけと言う中、吸い付く様に惹かれました。

パラパラと繰るも、挿絵は0。少し「」の多い文体。けれど何よりタイトルが気になって気になって、いつの間にかレジに向かい、帰宅後読み始め、夜半に読み終えて…。

物語の内容は本書に譲り、読後感を一言で言うならば「寒気がする」です。これは良い意味で。一人称形式で主人公が語り部ですが、まるで小説の中から読み手の心を覗き込んで来る様な…。

ホラー調の語り口になりましたが、小説自体は一気に惹き込まれる魅力的な文です。6人の登場人物は何れも特徴的ですが、身近に居そう。ファンタジーでもSFでもないジャンル分け不能な正に「どこにも開かない」展開から、逆にこちらの心がこじ開かれる快感を味わえます。


【参考】

僕らはどこにも開かない・御影瑛路・電撃文庫(2005年)

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