'24 ナショナルズドラフティーの簡易プロフィール


Rd.1-10th, Seaver King  3B/OF  Wake Forest

昨年はDIIスクールから大学代表に選出,今年は強豪Wake Forestでプレーして全体10位指名というシンデレラストーリーを歩みました。ドラフトランキングでは15位前後だった選手です。

6'0"とサイズは小さめですが身体能力は1巡指名選手の中でも屈指のものです。93.6 Avg EVはDIで100thパーセンタイルでありRaw Powerは50グレード。79 Contact%も悪くない数字ですが,ネックなのはややアグレッシブなアプローチ(8 BB%)。速球変化球問わずChaseが非常に多く見られ,これが彼の評価を下げる大きな要因となっていました。バットコントールを評価する声は多く,50グレード以上のヒットツールがあるともされていますが,バレルやスイートスポットで仕留める感覚は鈍く,若干疑問視しています。

SS守備は平均かそれ以下の評価。チームメイトにMarek Houstonというカレッジでも屈指の名手がいることから今年は3BやCFでの出場がメインでした。本人はSSに留まる意欲が高いようですが将来的なコンバートはほぼ確定事項。29.3ft/sというスプリントスピードを活かして外野にするか,60グレードのアームを活かして3Bにするか,悩みどころです。

Braden Montgomeryを無視したことは未だ理解しがたいですが,Kingもポテンシャルとリスクのバランスが良い優秀な選手だと思います。45FV


CB-A-39th: Caleb Lomavita, C, California

ハワイ出身の強打の捕手。ハンター・ハービーの対価で得たピックで指名しました。ランキングでは20位~40位程度でした。

ディフェンスとパワーが大きく評価されています。打撃では2年連続15HR&OPS.950超でヒット・パワー両方で50グレード以上,特にパワーは55ともされ,捕手以外のポジションでも十分なものです。5'11" 200ポンドとやや小太り型な体型ですが動きが良く,肩も55グレードで長く捕手をすることができるでしょう。

致命的とも言える欠点がアプローチの悪さで,4.7 BB%は酷すぎます。昨年は改善されていたので長いスパンではもう少しマシな数値を見込めるでしょうが,ハイリスク気味な他のツールと合わせると彼のポテンシャルに大きな制限がかかります。フルタイムで出るだけのバッティングバリューを出すにはサルバドール・ペレス並に打たないといけません。
Kingにしても同じですが,パワーバットのアプローチ改善に力を入れないナショナルズマイナーとマッチしないので私はこの指名に否定的です。毎年のリスクテイクする姿勢は買っていますが,組織の強みを活かせる選手を選ぶべきでした。 40FV


Rd.2-44, Luke Dickerson  SS  Morris  Knolls HS(NJ)

フットボール・バスケットボール・ホッケーを掛け持ちするマルチスポーツプレーヤ。42位~80位前後。ヒット・パワーで50グレードのオフェンスに強みを持つ高校生SS。守備はSSから早くに外れ外野に回るでしょう。
荒削りな割に完成度が低く,かといってポテンシャルが飛び抜けているわけでもないので全体44位指名権と高い契約金に見合うような選手かと言われると疑問符。ですがきっと首脳陣にはバージニア大より打者育成に優れている自信があるんでしょう。 35+FV

Rd.3-79th: Kevin Bazzell, C, Texas Tech

コンタクトに優れた右打ち捕手。上位4人中2人が捕手という変わった指名をしてきました。55位~80位程度。
カレッジ2シーズンで.330BA/12 K%/ 89 Contact%と,ヒットツールが55グレード。その分パワーは平均よりも下回っており,これからのアップサイドも見込みにくいです。肩は強いですが捕手としての守備能力はそれほど高くなく,他のポジションへの転向になるかもしれません。上位指名2人めの捕手というのはやや不可解な選択であり,どちらかというと純粋に打撃面を買っての指名なのでしょう。昇格するのが一番早いのは彼になるかもしれません。 40FV

Rd.4-109th: Jackson Kent, LHP, Arizona

5人目にして初めてカレッジPが登場しました。今年大きく成長した先発適性の高い左腕です。140位前後の評価。
低めのスロットからコマンドされた92マイル程度のFBを安定してゾーンに投げ込み,複数の変化球を操ります。どれもキラーピッチというには物足りないですが,CHはブレーキがきき空振りがよく取れる(42.9 Whiff%)ため55グレード。順調にセカンダリーの開発と球速Upができればバックエンドスターターになれるでしょう。 35+FV

Rd.5-141st: Randal Diaz, SS, Indiana State

プエルト・リコ出身の強打のショート。300位以降に位置づけられており,オーバーピックになりました。
MVCというレベルが高くないカンファレンスで2年間で28HRを記録,今季はOPS1.069でした。6'0"とフレームが不足していてプロでは3Bか2Bになるでしょう。どのツールもMLB平均には達しないと思われますが,マイナーのデプス要員として出場機会は多そうです。35FV

Rd.6-170th: Davian Garcia, RHP. FGCU

まだ21歳に満たない若いリリーバー。
Perfect Gameでは298位にランクされています。
93-96mphのFBとSLがメインの球種で,メカニクスが修正されればMLBでリリーバーとして投げる姿を想像することは難しくありません。 35+FV

Rd.7-200th: Robert Cranz, RHP, Oklahoma State

ランク外のJr. リリーバー。
ショートアームでボールを置きに行くようなデリバリーで6.4 BB%のコマンド。FBとSLでイニング以上の三振を記録しましたが,カレッジレベルでは通用したスタッフはMLBはおろかマイナー下部でも平均以下になる恐れがあり,伸びしろにも期待はできません。30+FV

Rd.8-230th: Sam Petersen, OF, Iowa

守備走塁型の6'0"OF。 175位~250位。
小さな身体で縮こまったスタンスのためパワーレスに見えますがカレッジでは二桁HRを記録し,45グレードとされています。しかし木製バットだと打力は十分に発揮しにくそうです。60グレードのランによりCFで平均以上の守備をすることができるしょう。 35+FV

Rd.9-260th: Jackson  Ross, 1B, Ole Miss

今シーズンFAUからSECへ移籍し,10HR。BB>Kとシニアらしい堅実な打撃を見せました。足が遅く1Bにほぼ限定されますが,プロで目立つようなパワーは無く既に24歳という年齢を考えると昇格に至る可能性は低いと言わざるを得ません。30FV

Rd.10-290th: Luke Johnson, RHP, UMBC

4年間UMBCで279.2IPを投げた実績豊富でタフな先発右腕。KBBは平均的ですが,HR/9は1を切っています。ドラフトリーグでの2試合の好投が良いアピールになったのでしょうか。Jackson Rossと合わせて大幅なアンダースロット契約になるでしょう。 35FV

Rd.11-320th: Merritt Beeker, LHP, Ball State

昨年までリリーフでしたがBall Stateに移籍して先発で81IP 128K/32BBを記録。直前のCapeでも11回を1失点に押さえています。D1Baseballではカレッジで194位。
デセプションのあるフォームで90前後のFBとSLが持ち玉。30+FV

Rd.12-350: Alexander Meckley, RHP, CCU

400位前後にランキング。
JUCOから移籍しての今年は52IPを投げましたが防御率は7点台。被本塁打の多さに苦しみました。サイズとウエイトがあり90マイル中盤のFBが武器ですがコマンドは曖昧。 35FV

Rd.13-380th, Bryant Olson, LHP, Mercer

Perfect Gameで#362。
6'4"で左サイドハンドのリリーフです。独特な軌道の90マイル前半のFBがありますがイニング以上のBBというコマンドです。
35FV

Rd.14-410th, Yoel Tejeda Jr., RHP, FSU

フロリダ時代から6'8"という恵まれたフィジカルが注目されており,シーズン前はトップ100にランクもされていましたが,壊滅的なコマンドが変わらずこの順位に。直前のCapeでは11イニングで4BBとまずまずの成績でした。まだ21歳になったばかりのソフモアであり,タラハシーへのリターンも考えられます。 35+FV

Rd.15-440th, Sir Jamison Jones, C, St. Rita HS

BAで#372. 結果的に今年のドラフトで高校生は2人のみでした。
既に成熟した体躯のC/1B。足が遅く,打撃が全くの未完成なので契約してもしばらくルーキーリーグに留まることになるでしょう。パワーのアップサイドが大きいらしいですが,それ以外のツールがあまりに物足りなく感じます。30+FV

Rd.16-470th, Nolan Hughes, RHP, Xavier

6'5"の長身左腕。 D1Baseballでカレッジ195位。
リリーフメインで35イニング,30 BB%/37 K%というインプレー拒否投法で異次元のスタッツを残しました。ちなみに被HRは0です。
変化量の大きいSLが軸になっているせいでBBが増えがちですが,メカニクスに致命的な問題はなさそうです。シーズンの初め頃に私が見た試合では直球が平均95マイルくらい,オフスピードピッチも使えていたので高評価していた投手です。 35+FV


Rd.17-500th, Gavin Bruni, Ohio State, LHP

ハードなリリースのせいで高校時代からコントロールが課題だと言われ続けてきたサウスポー。350位~500位。最速96マイルのFBとスピンの効いたCB/SL。今年は先発で1年を過ごしましたが,リリーフ転向で株が上がる可能性は高いと思います。35+FV


Rd.18-530th, Teo Banks, OF, Tulane

開幕前はカレッジトップ200評価。21年にカブスから12巡で指名を受けています。OPS.980の去年からスラッシュラインはやや落としましたがアプローチを多少改善。しかしドラフト候補としてはまだ物足りないレベルでした。サマーリーグで2年連続アピール失敗しているのもこの順位まで落ちた要員でしょう。フィジカルはプロレベルですがバットが遠回りするスイングは改善がかなり難しそうです。 30+FV

Rd.19-560th, Ryan Minckler, RHP, Niagara

タイ生まれタイ育ち。

51イニングを投げたソリッドなカレッジスターター。まだ成長の余地のある体ですが96マイルを記録しています。Arizona Stateへコミットメントあり。35+FV

Rd.20-590th, Colby Shelton, 3B, Florida

トップ100レベルのタレントを強行指名。ほぼ確実にリターンなのでコメントしません。


総評

上位を打者で固めた以外は投手が全体の多くを占める指名となりました。上位に打者を据えるのはここ2,3年の傾向と同じですが,5人目まで投手を指名しないのは初。大量に指名した投手は,例年なら大学での完成度を重視した選手を何人か指名していますが今年はどちらかというと将来性を重視したハイリスクな指名が目立ちました。しかし先発として期待できるのは最上位のJackosn Kentのみで,あとはリリーバー見込みでしょう。

傘下のデプスを見ると,ここ数年に指名した打者の多くがそれなりに成長しており(とはいえMLBは遠い),数より質にこだわったのは賢明な指名です。繰り返しになりますが問題なのは(Sotoのような天才を除いて)パワーポテンシャルの高い打者をマイナー下部から一貫してMLBレベルに適応できるような育成を長い間できていないにも関わらずそうした選手を好んで指名しがちなのは疑問に思います。むしろMLBではそこら辺の改善が上手いので,試合で使いながら育てられればいんですが,上位打者が起用に耐えうるかは難しいところ。下手にアーリーコールアップしてGarciaやRoblesみたいになるのも微妙ですしね。1~2年後に始まるだろうコンテンドを考えての指名にしても微妙な指名です。

傘下の投手デプスを考慮すると投手の指名ももっとベターな選択肢があったように思います。今年10先発以上した投手のうちTop30レベルなのはSykora, Susana, Andry Lara, (Brad Lord)のみ。リビルティング中のチームにしてはちょっと寂しいです。それ以外は先発としては平均以下の成績とポテンシャルで,このままダラダラ続けさせるのは得策ではありません。大卒の投手プロスペクトがMLBに到達し始め(もしくは怪我しているがMLBレベルにいるべき年齢と実力),SPのデプスが不足し始めた中での大量リリーバーピックはいかんともしがたいところ。お得意の中南米組も目玉は野手のサインであり,最低でも上位4人でカレッジSPを一人指名すべきだったと思います。コンテンドを見据えるにしても会心と呼べるようなピックはありませんでした。

この後のトレードデッドラインで傘下Top30レベルの選手が数人加入するでしょうし,最終的な評価はそれを加味しないとできないとは思いますが総じてドラフトの評価は低めです。少し攻めた戦略をとったようでしたが効果は微妙という感じで,最後のShelton指名は苦し紛れという印象を受けてしまいました。ドラフト統括のトップが変わったらしいですが,根本を変えない限り変わりませんね。


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