都・産業労働局が屋形船の燃料に”ユーグレナ”(ミドリムシ)を採用する件

 いつもは小池知事や都政のことをケチョンケチョンにこき下ろしている筆者ですが、今回はちょっと趣向を変えて、東京都のバイオ燃料普及の取組みについてお話しします。

 東京都産業労働局は、「9月6日から1週間程度、隅田川の屋形船をバイオ燃料で運行する」と発表しました。このバイオ燃料はミドリムシ(学名ユーグレナ)を主原料とするもので、(株)ユーグレナが提供します。ユーグレナと言えば、数十種類の栄養素を持つ健康食品として耳にしたことがある人もいらっしゃると思います。あのユーグレナです。

 なぜ、筆者がこんなに「ユーグレナ押し」なのか、それには訳があります。今から10年ほど前、知事本局の計画調整部長(現・政策企画局計画部長)をしていたときです。創業間もない(株)ユーグレナの出雲社長に直接お会いしてユーグレナの可能性についてお話をお伺いしたことがあるからです。出雲社長の第一印象は、青年起業家にしては浮ついた感じや大風呂敷なところがない、非常にピュアな人だなというものでした。

 さて、ではなぜ都庁の役人がユーグレナに関心を持ったのか。まず筆者が所属していた計画調整部とは、都の基本構想や長期計画、実施計画などを策定する部署で、毎年のようになにがしかの計画を策定しています。
 そして、計画づくりには目玉が必要です。各局の新しい事業展開がメインになるとはいえ、何かパンチに欠ける。そこで、当時まだそれほど有名でなかったユーグレナに白羽の矢を立てたというわけです。なにしろ、東京発の新技術・学生ベンチャー・地球温暖化対策の先進事例、三拍子そろっていましたから。

 今では栄養豊富な点ばかりが強調されて健康食品のイメージが染みついてしまったユーグレナですが、最大の利点は、CO2削減の切り札、化石燃料に置き換えられる可能姓を秘めていることです。ただ10年前は残念ながらあくまで将来目標でしかなかった。
 そこでトライしたのが、下水処理の行程でユーグレナにCO2を吸収させることでした。あまり知られていませんが、下水汚泥を焼却する際に大量の温室効果ガスが排出されます。東京都という行政体が事業執行の過程で排出するCO2の多くがこの下水汚泥の処理によるものなのです。つまり、下水に含まれるCO2をエサにユーグレナが育ってくれれば、都としても一石二鳥、いや一石三鳥ぐらいの効果が見込めると踏んだわけです。

 筆者は計画調整部長の権限を活用(ある意味、悪用)して、この件を下水道局に無理矢理ねじ込みました。下水道局にしてみれば、海の物とも山の物とも分からない技術を押しつけられ、さぞかし大迷惑だったと思いますが、なんとか第一ステップとして試験管による実験を行ってもらえることになりました。しかし、その結果は芳しくありませんでした。ユーグレナにも様々な種類があって、色々と条件を変えて試行してもらいましたが、どうもユーグレナの口に下水は合わなかったようです。

 それでも諦めきれない筆者は、再び計画調整部長の権限を利用して、都の計画書のあるページに、今後期待される社会的な先進技術の代表例としてユーグレナの活用を掲載しました。あれから10年、「屋形船にユーグレナ燃料」の報道に接して、自分のことのようにうれしく感じます。おめでとうございます!

 もちろん、出雲社長の夢は屋形船に留まってはいません。すでにジェット燃料での試行も実施されており、今後の展開が期待されます。
 とはいえ、東京都がまともに取り上げるまでに10年の歳月が必要だった事実を思うと、ちょっと考えさせられます。第一に、IT技術の場合はハマれば短期間でブレークしますが、実物を扱う技術、生物やモノづくりに関わる技術は、花開くまでに長い長い期間が必要になるということです。
 ちなみに、この9月から小池知事はスタートアップ支援を強化していますが、技術革新は一朝一夕には成立しないことを肝に命じるべきです。とかく小池知事は目先の成果ばかりを追い求めパフォーマンスに走る傾向にあります。打ち上げ花火のようにパッと世間の関心を集められればそれでもう十分・・・・みたいな姿勢が見え見えです。しかし、スタートアップに関してその場限りの受け狙いを目論んでいるのなら、それは本末転倒と言わざるを得ません。10年前の筆者のように痛い目に遭いますので、くれぐれもご注意を。

 それからもう一点。
 行政と新技術との関係のあり方です。行政の側に目利きとしての力量がなければ、せっかくの技術の卵も埋もれたままになってしまいます。かといって、口車に乗って将来性のない技術に税金を投入すれば、都民の批判に晒されます。この辺のバランスがとても難しい。
 屋形船を通じたユーグレナ活用のケースは、社会的な課題解決のために行政と企業がWinーWinの関係を構築できるかどうかの試金石になるのではないか。産業労働局の取組みが「打ち上げ花火」のあだ花に終わらないことを願うばかりです。ユーグレナと屋形船の共同作業が、行政にとってもベンチャー企業にとっても成功事例になることを強く希望します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?