「泣いて馬謖を斬」れないのは誰か? ~韓国・梨泰院事故にからめて、石原元知事と小池知事を無理矢理こじつけて比較してみた~

責任回避が透けて見える韓国の誤用例
 久しぶりに「泣いて馬謖を斬る」という言葉を耳にしました。
 この言葉が飛び出したのは、11月1日、韓国の警察トップがソウルの梨泰院で発生した事故に関して開いた謝罪会見でのことです。韓国でも三国志の故事を引用するのかと改めて感じ入ると同時に、このお方、言葉の使い方をそもそも間違っているぞと思いました。
(因みに、「泣いて馬謖を斬る」は、秩序や規律を保つためにはたとえ信頼する部下や身内であっても厳しく処分・処罰することのたとえです。)

 なにしろ韓国国内では警察トップの責任問題にまで発展する中、自分の進退を明らかにするのではなく、捜査を徹底的にやって身内であっても(辛いけれども)容赦はしないという意味で使ったからです。
 いやいや、自分が辞任の瀬戸際にあるのに、こんな引用をしたらまるで部下に責任を擦り付けるみたいではないですか。完全かつ意図的な誤用です。 いずこの国でも組織のトップは責任を回避する習性にとらわれている悪例のように感じた次第です。

石原知事は泣いていた
 さて、筆者がある意味で懐かしいと感じた「泣いて馬謖を斬る」発言。この言葉は日本の政治の世界でも引用例があったからです。17年前、石原知事(当時)が腹心の浜渦副知事を辞めさせるときに、正に涙を流しながら口にした言葉だったのです。
 当時、2期目の後半に入っていた石原都政は、大番頭の浜渦副知事に実務を丸投げした石原知事が週1~2回しか都庁に来ないと批判されていた時期。そんな中、社会福祉施設の建設に関連して浜渦氏が民主党に「やらせ質問」を持ちかけたと都議会が大紛糾。地方自治法に基づく百条委員会が開かれ、浜渦氏の偽証を認定、都議会で問責決議が可決されました。
 この都政史を飾る一大スキャンダルに対して石原知事が下した決断が、「泣いて馬謖を斬る」思いで浜渦氏のクビを切ることだったというわけです。

小池知事の場合は?
 では、小池知事の場合はどうか。先般行われた都民ファースト会の代表選出の経過を例に見てみたいと思います。事の発端は今年7月の参院選に都ファ代表であり小池知事の腹心=妹分の荒木千陽氏が立候補したことです。
 荒木氏は前年秋の衆院選で国政政党「ファーストの会」を立ち上げたものの、候補者擁立ができずに失速した経験を持ちます。もちろん、国政政党創設の裏で小池知事が糸を引いていたことは万民の知るところです。
 当時から都ファ内部には国政に打って出る事への賛否がありましたが、参院選では小池知事全面バックアップの元、荒木氏の出馬に突き進んでいきました。小池さんは都政そっちのけで連日のように荒木候補の選挙応援に駆けつけましたが、結果は改選6議席の東京選挙区で第10位という惨敗。国政に自らの分身を送り込み橋頭堡を築こうとした小池知事の野望はあえなく潰えました。
 こうなると、荒木氏の処遇が問題になってきます。8月から9月にかけては、落選した荒木氏を都庁の特別秘書に迎え入れるのではないかとの噂も流れましたが、結局は私設秘書的なポストを与えたようです。
 落選後もなぜか都ファ代表を続けていた荒木氏は10月になってようやく辞意を表明。いざ代表選挙と思いきや、結局出馬表明したのが一人だけ、無投票で森村都議が代表の座に収まりました。
 この拍子抜けの経緯の裏にも、小池知事の意図が働いていたと言われています。森村氏は荒木氏から(ということは実質的に小池知事から)後継指名を受けていたようですし、都ファのある若手都議が立候補の意向を示すとある筋から潰しにかかられたといいます。正々堂々と代表選挙を実施すると何かマズいことでもあるのでしょうか。

身内に大甘の小池知事に「馬謖は斬れない」
 
代表選挙もろくにできない、小池知事の操り人形のような都ファとはいったい何なんでしょうか。短い歴史とは言え、これまで都ファの代表を務めたのは、荒木氏の他は野田数と小池さん自身だけです。野田氏は元都議で小池都政スタート時点から小池知事の懐刀だった人物です。ある時期から小池さんとの関係がギクシャクすると、小池さんのごり押しで東京都の外郭団体の社長にちゃっかり転身して悠々自適のようです。
 そんなこんなで、都ファの代表は小池さんの身内でたらい回ししてきたに過ぎません。都ファの特別顧問である小池知事は会見などで記者から質問されても「それは都ファでお決めになることですから」と言い逃れ、自らの関与を否定しますが、そんな戯れ言を信じる都民は一人もいないでしょう。
 普通であれば、昨秋の衆院選でミソを付け、今夏の参院選で自ら大敗した荒木氏をなんだかんだと抱え込んで重用することなどありえませんよ。甘やかすにもほどがあります。
 結局、小池百合子という政治家に「泣いて馬謖を斬る」ことはできないのです。この先もずっと、都民軽視・身内最優先の姿勢が続いていくでしょう。

 
 

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