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#12 情弱にならないために「偏り」を意識する。

古代ギリシャの哲学者、ソクラテスが遺した「無知の知」(近年では「不知の自覚」とも呼ばれます)はとても有名ですが、同時に今、”偏りの知”も大切な概念となってくると考えます。

「偏り」の認識は今後、重要な能力になると予測します。多くの人たちが、さまざまなSNSを利用してコミュニケーションをとったり、情報を取得しています。

「いいね」で”人が分かる”

例えばSNSの活動一つとっても情報の「偏り」が存在していることを認識し、その意識を持つことは、自分自身のバランスを保つために重要です。

「いいね」の一つ一つが”見られて”います。「いいね」の押し方10個で知人以上、100個で親友以上、300個で家族以上に、”その人がどんな人か”が分かると言われています(恐ろしや〜)。

「いいね」のデータが、政治の思想操作に利用された有名な事例がケンブリッジ・アナリティカ事件です。

本記事のメインテーマではないので詳細は割愛しますが、ケンブリッジ・アナリティカ社は、当時Facebookの利用ユーザーのプロフィールや「いいね」のデータを分析し、後に大統領となるトランプ氏が2016年に大統領選に出馬した際、集められた個人データを使って共和党に有利に情報操作を行い、投票行動に影響を与えたと言われています。

同じ手法がイギリスのEU脱退(ブレグジット)にも利用されたのではないかとも噂されています。

狙われる「情弱」

SNSを利用したグレーなマイクロマーケティング(ターゲットの個性に着目するマーケティング手法)が取り上げられた2つの事件は広く知られていますが、僕が特に気になっているのは、一企業が国レベルの重大な意思決定をどのように操作して情報を拡散したのか、です。どうやって世論を揺さぶり、火をつけたのでしょうか。

”答え”と出会いました。以前にも紹介したことがあるんですけど、「人を動かすナラティブ」という、毎日新聞編集委員の大治朋子さんの非常に素晴らしい本です。

本には、ケンブリッジ・アナリティカ社で以前、研究部長を務められていたクリストファー・ワイリーさんという、内部告発者として知られる方のインタビューが掲載されていて、非常に生々しく、ドロっとした内容になっています。興味がありましたら、「人を動かすナラティブ」を読んでいただけるといいかなと思います。

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ざっくりとした内容を言うと、個人の性格を分析し、「神経症傾向」のある方をターゲットにする。神経症傾向のある人とは、環境刺激やストレスに対して敏感であり、不安や緊張を感じやすい傾向がある人を指します。

SNSの行動分析でこのような人々をカテゴライズし、彼らに対してわずかな情報の「雫」を落とすわけです。ワイリーさんによれば、神経症傾向のある人はSNSで強い反応を示しやすく、この層に対して僅かな情報を落とすだけで、大きな波となって拡散していく、と語られています。

ローハンギングフルーツ

「神経症傾向」にある人を"ローハンギングフルーツ"と表現します。ローハンギングフルーツとは、たとえばリンゴの木があり、下の方に実っているリンゴが手軽に取れるような状況を指します。挿絵には、寝転んで木の下にあるリンゴを手軽に取って食べている男性が描かれています。つまり、簡単に入手できる情報に飛びつく人々、現代の言葉でいう「情報弱者」を、ローハンギングフルーツというメタファーで表現しています。

ローハンギングフルール(「人を動かすナラティブ」より)

ワイリーさんの言葉を引用させてもらいます。

「神経症的な人々は心理的レジリエンス(回復力)が弱く、ローハンギングフルーツであり、SNSでパンデミックを起こすための発火点に使える。ケンブリッジ・アナリティカとしては、人口のほんの一部を感染させ、後はナラティブがウイルスのように拡散していくのを見守るだけだった」

クリストファー・ワイリー氏

空恐ろしい思いがしました。SNSで情報を取る際に、ローハンギングフルーツ、すなわち木の下に実った果実をサッと取ることを控え、「これは誰かが作為的にぶら下げたものではないか−」、と一拍置いた思考がどうも求められるようです。

コミュニティでも「偏り」を意識

僕はSNS、特にXのヘビーユーザーです。とはいえ、SNS上のアルゴリズムの偏りなどはもう広く知られている話で、多くのユーザーが一定の距離感を保ちながら接しているのではないかなと思います。noteを読むような皆さんには釈迦に説法みたいなハナシですが、多くの人が情報の「偏り」を意識した上でプラットフォームを使用していると思います。

ただ、SNSから移行して、「これからはコミュニティの時代がくる」と言われています。僕もその未来を感じている一人です。コミュニティの中での活動においても「偏り」の認識は大切です。

例えば、僕の運営するコミュニティに「ずとまも心臓部」があります。

ここがカルト的な集団だったと仮定しましょう笑。もし僕が参加者からお金を巻き上げ、家族の資産まで要求するような、むちゃ悪い奴だったとします。あの手この手の口八丁で、皆さんを信じ込ませようとします。詐欺師やカルト宗教家が伝統的に使う手法です。

その空間の中だけにいると、盲信する心理はとても理解できます。「エコーチェンバー(残響室)」なんていわれますが、閉じられた空間にいると、どんどん”限られた情報”だけが入ってきて、それが増幅されて、「今自分がいる世界が真実で、他は全て嘘だ」という極端な思考に偏ってしまうリスクがあります。この状況は誰しもが陥る可能性があります。

いろんな情報に触れ、さまざまなコミュニティに属することが、防御力を高めることになりますが、現実的にはそんな時間はありませんよね。

なので、せめて意識だけでも「自分が触れている情報には偏りがある」とか、「属しているコミュニティにも偏りがある」とか意識しておくだけでも、情報操作に利用される「情弱」に堕ちずに済むのではないでしょうか。「知らない世界がある」という謙虚な認識を持ち続けたいものです。

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