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がんと告げて、絶句される。
告知の日はまだまだ終わらない。
診察とがん支援相談室の面談、検査の説明と同意書の署名が終わった。まだ、昼過ぎだ。病院の会計を待つ間、私は通話エリアから父のケアマネジャーに電話をした。
「突然で申し訳ありません。ちょっとご相談がありまして・・。実は、私乳がんになりまして。来週から抗がん剤治療が始まるのですが、とても父の介護ができる状態ではなくなると思うので、できるだけ長くショートステイをお願いしたいのですが」。
電話の向こうでケアマネさんは絶句していた。
「え、えっと、なんと言っていいかわからないのですが」。
介護の仕事をしている人が、これほど狼狽えるとは思わず私は驚いた。電話の向こうでも、ケアマネさんが受けた衝撃の大きさ、戸惑い、腫れ物に触れる感覚が痛いほど伝わってくる。
「大丈夫です。早期でしたから、死なないですよ。ショートステイには、私の病気のことは伝えて構わないので、できるだけ長く利用したいです。相談していただけますか」。
ケアマネさんの緊張とは真逆に、私はいつもよりも明るく軽く言葉を渡した。
「そ、そうなんですね。早期で良かった。ショートステイをできるだけ長くですね。承知しました。いつものところでいいですね。相談して、こちらからご連絡しますね」
最初はどうなることかと思ったが、なんとか要件は正確に伝わった。
私は福祉用具専門相談員になる前に勉強した看取りの中で「一緒に泣いてはいけない。プロの仕事は患者と一緒に痛がることではない。時にはメスを当てて痛みを取り除くことだ」と教わった。これは医療者たちの勉強会だが、福祉用具の仕事も同じであると考えていた。だから、できるだけ冷静に対応するように努めてきた。
ケアマネさんは共感力が高いのだろう。おそらく利用者さんや家族から人気があるだろう。我が事のように、むしろ私以上に狼狽していた。
電話を終えたところへ、のりりんが「お金あるの?」と聞いてくれた。
「大丈夫。昔入ったがん保険があって、診断されると給付金が出るの」。私は保険の契約内容が書かれた物をのりりんに見せた。ふーん。のりりんはそれを見て「ならいいけど。必要なら言ってね」と言ってくれた。ありがとう、のりりん。
そして、会計で呼ばれる頃、ケアマネさんから「ショートステイが受け入れてくれる」との返事がきた。ケアマネさんからの電話は言葉を選び選び、つっかえながらのものだった。
「ご要件け申し上げますね。先ほどご依頼いただきましたショートステイの件ですが。いつも利用しているショートステイの相談員⚪︎⚪︎さんに相談しました。うにさんのご病気のこともその際、ご説明させていただきました。その結果、ショートステイとしては受け入れOKとのお返事をいただきました。10月からご利用されますか? では、利用できる日をLINEにお送りしますので、早めにお返事をお願いいたします」
ここで気づいた。父に病気のことを言わなければ。そして、ショートステイへ行ってもらうよう協力をお願いしなければ。
乗り越えなければならないハードルは、次から次へとやってくる。だが、躊躇している余裕はない。
ちなみに共感力の高いケアマネさんは、この日から私を恐れていたと思う。ケアマネさんを恐れさせたのはがんという病名の「特別」さにある。
そして、がんの「特別」はまだまだ続く。
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