がん保険給付手続きの電話をかけると・・

乳がん治療の回顧録を書き始めたのに、告知の日で止まってしまっていた。告知そのものではないが、思い出したくないくらい嫌な思いをした1日だったからだろう。
告知の日の最後にもうひとつ、辛かったエピソードをご紹介して先に進みたいと思う。


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私は30歳代の時にがん保険に加入していた。その後、何度か見直しを行いオプションを追加していた。そのオプションの中に確定診断時の給付金も含まれていた。

病院からのりりん家へ寄り、家に帰ってきたのは夕方だった。私は早速、がん保険給付の手続きのために保険会社に電話をしてみた。

電話に出たのは、30歳代くらいの男性だった。その人は、職務に忠実な人だった。私が乳がんと診断されたことを告げると、丁重で神妙な声色に変わった。それは日常では聞かない声だ。

一番似ているのは、葬儀屋だろうか?

私は再び、非日常に突き落とされた。かわいそうな人として、普通の人の群れから弾かれてしまった。

保険会社の男性は完璧に私の要望をこなして電話を切った。優秀な人なのだろう。それだけに救いがないと感じた。

失礼なら怒りもできたのに、その人は完璧な仕事ぶりで私を日常から弾き出していった。1人の部屋で、私は何かから取り残された気持ちでいた。
これを体験した日から2年が経つが、もしかしたら私はそこから未だに抜け出せていないかもしれない。

私はこの日から「かわいそう」光線に出会うと、居場所を失い、自分の存在をこの場から今すぐ消し去りたいとのたうち回るようになっていた。「かわいそう」は、人をどこか得体の知れない場所に追いやる恐ろしい言葉だと、我が身を持って思い知らされた出来事だった。

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