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私、死ぬの? 想定外の超音波検査

戦闘モードで迎えた初診日。予約からの2週間、ネットで多少の情報は集めたが、専門用語だらけで病気や治療のイメージはわかなかった。初診の時に知っていたのは、抗がん剤治療のテレビドラマのイメージとか、全摘か温存手術があるとか、リンパ節に転移した母の知人は治療後腕が上がらなくなったとか、又聞き程度の噂話に過ぎなかった。

乳腺外科の待合室は、オルゴールが流れるほっこりした部屋になっていた。受付の人が優しく親切で、困ることなく手続きを終えた。

診察室に呼ばれると、先生にがん検診結果の書類を手渡した。それに目を通すと、自覚症状を聞かれた。
「しこりは10年くらい前からあるのは知っていて。ただ、がん検診の問診の時に、これはイガイガしてなくて丸いから石灰化でしょう、と言われたので。痛みもなかったんですが、6月に右乳房が熱くて下着をつけられない日があったので、もしやと思って検査を受けました」
「石灰化というのは、超音波検査をして?」
「いえ、マンモグラフィと触診です」
「最近、急に大きくなったとか変化はあった?」
「わからないです。大きく感じる時と、そうでない時があって」
「そうね。ホルモン周期によってお胸が張ったりするから、分かりにくよね。そうしたら、ちょっと検査をしてきてください」

先生が指示したのは、血液検査とマンモグラフィ、超音波検査だった。血液検査とマンモグラフィは予定通り、想定通りだった。
私は検査を受けながら考えていた。

生体検査は今日はしないのだろうか? 確定診断は細胞を病理検査に出さないとできないとネットに書いてあった。できるなら早い方がいい。先生に今日して欲しいとこちらからお願いしようか?

そして超音波検査。胸にジェルをつけてバーコードリーダーのようなスキャナーで体をなぞっていく。

最初、左胸からだった。乳房を一通りなぞりながら、何ヶ所か写真に記録していく。乳房が終わると脇の近くに。ああ、そうか、リンパも検査しなくちゃだよね。リンパに転移した人の話を聞いたことがある。そう他人事に思いながら、さらりと左胸が終わった。

そして、しこりのある右乳房へ。表情に出さないようにはしていたが、どきどき心臓の音が大きく感じる。検査技師さんは入念に乳房全体としこりの周りを写真に記録していく。時々、画面を覗き見るが首が痛いだけで、素人の私にはよくわからなかった。そして、スキャナーは脇の近くへ上っていく。検査技師さんがジェルを追加する。乳房の少し上、脇の近く、何度も何度もスキャナーを押し付けては写真を撮っている。終わらない。終わらない。まだやっている・・って、

え? まさか転移?

微塵も考えてなかった。転移など。胸のしこり部分を切ればすぐに健康体に戻れる、くらいに考えていた。

私、死ぬのかな?

がんなのだ。命がけの病気なのだ。私は深い深い闇を覗き込んだ心地がした。血の気が引いていた。
後にも先にも危機感が一番強くなった瞬間だった。

死にたくない。

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