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1番心配だった〜母へがんと告げる


告知から治療まではちょうど1週間。その間に検査を3日。迷ったが仕事は事情を話してキャンセルすることにした。ちょうど仕事依頼が入り始めた頃だったので、気持ちとしては断腸の思いだった。だが、抗がん剤治療は、私にとって未開の地。何が起こるかわからない。直前になってのキャンセルは避けなければならないから、今のうちにキャンセルしようと腹を決めた。


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髪の毛は、美容院でショートにしてもらった。美容院の予約の時に、事情を伝えて、私は剃ってもらうつもりで行ったのだが、そんな必要はないよ。と美容師さんがショートを提案してくれた。それは多分、良かったと思う。

私の中で、剃ってしまうと抜けるべき毛が毛穴に残ってしまうのではないかと密かに心配していたためだ。ショートならブラッシングやシャンプーなどの引っ張る刺激で、抜けるべき毛や毛根が綺麗に抜けていく。だから、ショートが正解だったと思う。

美容院で、私は少しはしゃいでいたかも知れない。久しぶりのショートだし、辛い時にははしゃぐ癖がある。中学受験で落ちた時も、私がはしゃいでいたから合格したのかと思ったと担任の先生が言ったことがある。天邪鬼なのかも知れない。慰められるのが苦手なのかも知れない。

スッキリ軽い頭になって、家に帰った。早速のりりんに報告した。のりりんも可愛いと喜んでくれた。これだけで、私の世界では十分幸せなのだ。それは、これから2年間の治療生活を通して、知っていくことになる。


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そして、もうひとつ大仕事が残っていた。
母に癌のことを知らせなければならない。これがハードルが高かった。
私が若い頃から一緒に住んでいないこともあるし、母が心配性なこともある。いや、母親は総じて心配性ではあるが、うちの母はそれに輪をかけての心配性なのだ。

のりりんと相談して、母とはLINEのビデオ電話で話すことにした。当時は、コロナ禍真っ只中だったため、会うのはためらわれたからだ。

コロナで外出がままならなくなってから、母に会うのは初めてだった。
元気な母と結婚相手のMさんの笑顔が画面に映る。今日は、ショックを受けた母が1人にならないように、Mさんの立ち合いをお願いしたのだ。

「元気だった?」からの近況報告が一通り終わると、いよいよ本題に入る。
「お母さんが、いつもがん検査に行きなさいって言ってくれてたでしょ。だからね、行ったの。乳がん検査に。そしたら、乳がんが見つかったの。お母さんが行きなさいって言ってくれたおかげで、早期だったよ。ありがとうね。」
「え!」
そう言ったまま凍りつき、母は受け止められない様子だった。
「いやよ、うにさん! 見つかったの?」
「そう。元々しこりがあるのはわかっていたんだけど、ずっと石灰化と言われていたんだよね〜。それがマンモグラフィ受けたら、悪性腫瘍って判定が出たから精密検査を受けたの。針でしこりの細胞を採って検査してもらったらがんだって。ステージ2の早期で、リンパ節にも転移しているだろうって。
来週から抗がん剤治療をして、来年2月頃に手術予定だよ」
「そう。がんなの。ちゃんと治療を受けないとダメだよ」
母の目から涙が溢れた。
「うん。大丈夫だよ。のりりんもいるし」
「のりりん、うにさんのことをお願いね。こんな時に一緒にいられなくてごめんね」
想定内ではあったが、母は泣いて謝った。
「お金は大丈夫? お母さん、少しなら用意できるよ」
「ありがとう。がん保険に入っていたから大丈夫だよ。困った時には、ちゃんと自分からお願いするからね。オレオレ詐欺に引っかからないでね」
「わかった。大丈夫だよ。お母さん、しっかりしているから」
「そう言っている人が1番、騙されるんだよ」
ちょっと笑いが入ったところで、ビデオ通話を終わらせたい。

「治療が始まったら、また連絡するからね」
「そうして。心配しているからね」
「わかったよ〜。コロナが流行っているから、お母さんもMさんも、元気でね。デパートとかフラフラしないようにね」
「大丈夫よ、フラフラしていないから」

本当? もう、本当にお願いしますよ。と Mさんのツッコミが入ってビデオ通話は終わった。Mさんに立ち会ってもらって良かった。Mさんがいなければ心配でビデオ通話を終えるタイミングを失していたかも知れない。



検査は治療前日まで続くが、母に知らせてひと段落。治療の準備は全て整った。
その時の私は、完璧戦闘モードに入っていて、不安とか恐怖とかは感じる余裕(?)がなかった。それは幸運だったと思う。なぜなら、これまでの認識がガラガラと大きな音を立てて崩れるくらい、初めてのことだらけ、驚くことだらけだったからだ。

それはまさしく冒険だった。

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