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がんになった私って、「特別」? 相談室面談

それにしても、告知から治療開始までの1週間は実に忙しい。仕事の調整、抗がん剤治療の準備など、やらなければならないことだらけなのに加えて、検査が2日追加された。
待合室でほっと一息ついたところで、看護師さんから別室に呼ばれた。ここで、想像もしていなかった驚くべき展開が待っていた。

そう、診察室までは日常と地続きだったのだが、この後、がんという病の「特別」がスタートした。

私とのりりんを別室に呼んだのは、途中から診察室に参加した看護師さんだった。狭い部屋にデスク上のパソコン1台と人数分の椅子だけのシンプルな部屋。ここは検査の説明など、看護師さんのための面談室だった。私とのりりんと2人で入った。看護師さんはまず自ら自己紹介をした。がん相談支援室の○○と申します。その看護師さんは、話している言葉は普通なのにとても慎重で、ていねいに言葉を押出し、目力が強くて、何かがおかしい。そう、違和感だらけだ。私はまるで重大な問題を抱えている人、いわゆる「腫れ物」のように扱われている気がして驚きを隠せなかった。

慎重な態度の反面、看護師さんはズバズバと切り込んでくる。
「ごめんなさい。私、途中からだったので…」と、私とのりりんの関係についての質問から始まった。その説明が終わり本題に入った。

「今、診察室での様子を拝見していたんですが。比較的冷静に受け止めていらっしゃったようにお見受けしましたが」
「はい。がん検診の結果を見て、画像診断医が二人とも悪性腫瘍に○をしていたので、もう悪性腫瘍なのだと思っていました。だから、私はすでにがんと戦う戦闘モードで病院に来ています」
「そうですか。がんと聞いて涙を流される方なんかもいらっしゃるので。どのように受け止められたのかな? と思いながら拝見していました。
がんについてのイメージなどはありますか?」
「介護保険の業界で福祉用具の仕事をしていたので、末期がんの患者さんは何人か存じ上げています。そのイメージがあります」
看護師さんは、うんうんと頷きながら私の話を聞いていた。
私の話が終わると、同じ質問をのりりんにもした。私は本当に自分の記憶力のなさを残念に思うのだが、この時、のりりんがなんと答えたかは正確には覚えていない。確か、命に関わる病気と、テレビのイメージが強いと答えていたと思う。
「そうですか。そうですよね。テレビのイメージをお持ちですよね。ただ、今はがん治療も随分変わっていますからね」

安心させる口調で、テレビのイメージを打ち消した。それから、相談支援室の使い方を紹介してくれた。治療に関すること、治療生活に関すること、仕事に関すること、なんでも相談できるらしい。ただ一つ、難点は相談には予約が必要らしいことだ。予約なしではダメなんですか? そう聞くと、「そうですね。病室に行っていることも多く、常に相談室にいるわけではないので電話で予約を入れてください」。

「何か相談はありますか?」
いきなり聞かれても思いつかない。そもそも人生で相談するという経験をあまりしていないかもしれない。何をどのように相談するのかが私にはわからなかった。
「いえ、今のところ大丈夫です」
そう、のりりんがいれば大抵はうまくいく。だから大丈夫なのだ。

看護師さんは間違いなくいい人だ。私が困らないように、支えようとしてくれている。その存在に、私はとてもありがたく感じていた。その一方で、他の病にはない相談室があることに「特別」を感じていた。そして、看護師さんの驚くほど素早い対応にも、慎重すぎる対応にも。

この日から1年10ヶ月経つが、まだ相談室は使っていない。さいわいというべきか、あるいは使い方を知らないだけか。機会があれば相談したいとは思っているが、慣れない者にとって相談とはなかなか難しいのだ。

だが、がんの「特別」はこれで終わらなかった。むしろ始まりに過ぎなかった。

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