熱よ

ライブのあとは寒い方が好きです。ライブ中は会場の空気が暑かろうが寒かろうが体温が上昇するくらい楽しめればそれで構わないのですが、ライブが終わり、いつものアナウンスを聞きながら人の波に仕方なく体を任せつつ(この時点ではライブの余韻から抜け出せず、意識こそはっきりしているものの頭を働かせる気にはならない)自分の脚でなんとなく身体が建物の外に押し出された時、鼻から一気に吸って肺を満たした冷たくて澄んだ空気が、ライブ前は完全な昼間だったのにたった2、3時間注意していなかっただけで塗りつぶされたように真っ暗になり文明によって辛うじて活気を繋いでいる空に驚いて脳が目覚めるのと同時に、血管を通して沸騰直前の血液をすっと冷やすものだから、思わずもう一息吸ってしまって人混みのなか立ち止まり、眩しいものを見たかのように目を閉じる、みたいな感覚が好きで、ついでに言うと、灯油でも撒かれようものなら爆発してしまいそうだったところを一気に冷やされて熱波とともに蒸気を発散する超大型巨人的身体とは裏腹に自分の役割を自覚して働き始めた脳みそが、儚さの象徴となって逃げてしまおうとするライブ中の記憶を必死に引き留めようとしているからクールダウンする暇もなくどんどん熱くなっていくような感じも好き。数分前まで身体が圧倒的に優位だったんですよ。それが息を吸っただけで形成逆転しちゃう。
ディズニーに行った時、何時間も並んで、その時間と割に合ってるの?というくらい短いアトラクションを楽しんで(それが楽しいんでしょ!)、そろそろ夜ご飯か〜どうする〜?みたいな瞬間に「あれ、いつの間にか真っ暗だね」と脊髄反射で呟いたことで一日の終わりに気づいてしまって。それからというもの最後のアトラクションに乗っている間も入口兼出口付近のクリスマスツリーの写真を撮っている間も複雑だけど言葉にしてしまえば至って単純な「帰りたくない」という感情に支配されている。
ていうか、考えてみれば入口と出口が同じ場所なのに入った瞬間は帰りのことなんか1ミリも意識していないの、どれだけ楽しみにして行っているんだ、という話ですね。
帰りたくない、というシンプルな気持ちの中にはきっといろんなスパイスが複雑に混ざりあっています。おそらく人によって違うけど、「結局今日、なにしたんだろう」という虚無感がテンパリングされている気がするのは私だけですか?
舞浜駅までのルートが同じせいで「ようこそ東京ディズニーリゾートへ!!」みたいなポスターや旗が嫌でも目に入って寂しくなってくる。光に照らされていないから読みづらかったりするのが余計に心にきちゃう。スマホを見て、あ、これ明日までにやらなきゃ、という最悪な発見と一抹の殺意。この一日は本当に捨てていいやつだったのかな、と考えながら乗る京葉線には、ディズニーのイラストがプリントされた上質そうな厚手のビニールバッグを提げて同じことを感じる若者たちがたくさんいるはず。お客さんが帰り、木枯らしか海風か、とにかく冷たい風に吹かれて影の落ちたキャラクターたちの笑顔もきっとそんな悲しさに苛まれている。苛まれていてほしい!明日も大変だな〜とか呟きながら肩こりを気にしていてほしい!
エビ中のライブが終わったあとも、やっぱり同じようなことを考えてしまいます。昨年の暮れ頃、立川でのライブで、チケットは当たったけど遠いし配信もあるからそっちにするか〜と思って、ただどうせ4000円の差で現地かそうでないかはかなり違うな、と思い結局ライブを見に行ったことがあって。いまとなっては考えられない発想ですね。私いま興味もない秋田のライブの予定立ててますからね。で、結局ライブを見に行って、本当に楽しくて、コートを羽織りながら綺麗に舗装された一本道を駅まで歩きつつオーバーヒートした頭のまま配信のチケットを買って。結局両方買うんかい!とその時は軽快なツッコミを自分自身に入れたものの、いざ南武線で配信を見るとそんな脳みその熱は下がるばかりなんですよね。余計な買い物をしたことの後悔が、ガラガラな車内の寂しさで増幅されるからライブの楽しさより優位に立ってくる。なにより、そこで見ている彼女たちは数十分前に目の前にいた過去の彼女たちで、叫ぶようなノイズを鳴らし一生懸命ライブの記憶を繋ぎ合わせる脳が虚をつかれる。幽霊のように消えてなくなる記憶だから熱くなれるんですよ。冷静な身体と、不透明で不確定な記憶をかき集める頭のギャップを楽しみたかったのに、どちらも冷静になっちゃ意味がないんですよね。鮮明な情報が来てはいけない。「良いライブ」ではあるんです。しかし、一瞬フリーズした脳の隙をつき、寂しさやら後悔やら名状しがたいネガティブな感情の波がとんでもない容積となって音もなしに電車の窓を破って押し寄せてくる。ドロドロした負の液体が足首にへばりつく。皮膚なんてお構いなしに肉をすり抜けてホネまで染み込んできたネガティブが足元の影へと引きずりこんでくる。ライブで一度バーンアウトした身体、抵抗する気力なんてありません。波に押され影に引っ張られ、それでも何食わぬ顔で走る南武線。無駄に暖房が効いていて辛い。

続きが思いつかないのでまたいつか更新します。タイトルもいずれ変えます。笑

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