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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(3)スパイの烙印

あらすじ

 地球侵攻を決めたアルデバロン軍の最高司令官アフロディアは、弟を殺したマリン殺害の決意を固める。一方マリンは父を殺したガットラー総統との戦いを心に誓い、ブルーフィクサーに残ることを決意する。

Aパート:ブルーフィクサーの訓練開始、雷太とマリンの対立
Bパート:脱走を促すジェミーとマリンの覚悟、アフロディアの作戦

コメント

 第3話は地球侵攻の指揮をとるアフロディアと、迎え撃つブルーフィクサーの様子からはじまる。本作は冒頭にナレーションは入らず、アバンタイトルからストーリーに切り込んでいく方式である。重要な場面やコメントがここに投げ込まれることも多く、視聴には最初から気を抜けない。
 この回ではアバンタイトルに戦闘シーンが詰め込まれており、主役級メカもここで活躍するにとどまる。「おのれ、たかが地球のメカを破壊できぬとは!」と激昂するアフロディアと、その戦闘命令の激しさをたしなめるガッドラーという二人の「温度差」が印象的である。

 一方マリンは、パルサ・バーンに搭乗して敵であるSー1星人を撃退したことを評価されてか、ブルーフィクサーの制服が与えられる。しかしそれで立場が変わったわけではなく、司令室に来たマリンに、雷太は「どうだ、自分の星の戦勝報告を聞く気分は。いい気持ちだろう」と嫌味を言うなど、組織内のムードは険悪である。
 敵を撃退するためには、マリンの乗機パルサ・バーンから技術を盗むしかない、とするクインシュタイン博士に促される形で、月影長官は隊員たちの訓練を始めるが、この訓練に「参加させてほしい」というマリンの申し出をクインシュタイン博士は拒絶し、マリンは自室に引きこもって落ち込む。

 地球侵攻を目論む異星人の一人でありながら、地球側に立って戦う意志を示したマリンだが、あくまでも捕虜扱いだ、という月影長官、敵に対抗する能力を利用すべきという立場をとるクインシュタイン博士はそれぞれの理由からマリンに対して厳しい姿勢を見せる。それでもマリン、おまえは母星を相手に戦うのか、という問いかけ。それがこの回のテーマといえよう。

 部屋に引きこもったマリンは、父の最期を回想する。彼の父レイガン博士はアフロディアの部隊に研究所を破壊され、仲間らも殺されてしまう。自らも傷を負いながらマリンと脱出を試みる中、マリンだけを行かせるだめに彼を脱出口へ投げ飛ばして扉を閉じたのだった。ちなみにこのときの父のマリンの見事な投げ飛ばしっぷりを見ると、とても死に際とは思えないので「なぜ父も一緒に行かないのか」と疑問に思うほどである。
 その回想の中で、マリンは父の最期の言葉を思い出す。

「もう一度青い空が見たかったなあ、マリン」

 これがマリンの戦う動機となる。地球の、まだ汚されていない青い空、青い海を守りたい、という地球愛、それこそが彼をこれから何度も立ち上がらせることになる。

 後半では、そんなマリンをめぐるジェミー、雷太、オリバーらとの諍いがメインとなる。組織の中に受け入れられないマリンを気の毒に思い脱走の手助けをしようとするジェミーとマリンとの会話の中で、ジェミーに父がいないこと、母も亡くしていること、星空の下で生きている父を探したい、そのためにこの美しい星空を守りたいという、彼女の思いを聞く。
 雷太とは殴り合いの喧嘩となるが、ここからしばらく、思いを強めたマリンと隊員たちとの葛藤が続くことを予見させる。

 一方、アルデバロン側は地球侵攻に向けて幹部による悪の作戦会議を開催していた。どのように地球侵攻を実施していくのかをガットラーに問われたアフロディアは、「まず、最初の攻撃で、最大の打撃を与えることが必要です。地球人たちに、圧倒的な力の差を見せつけるのです」とその方針を示した。そのとき、ガットラーは「マリンが地球と手を結んだ」ことを明らかにするが、一体彼はどのようにしてこのことを知ったのだろうか。

 それに続いて示されたアフロディアの作戦は、次のようなものであった。
「地球の重要ポイントを狙い撃ちします。マリンが来なければ、別のポイントを攻撃します」
 マリンをおびき出す作戦だな、とガットラーは言うが、どう見ても「もぐらたたき」のようにしか思えないこの作戦で、果たして地球侵攻は果たせるのだろうか。それはともかくとして、この様子を見てみると、ガットラーはマリンを地球側に立ったと思わせることで、アフロディアの「戦闘意欲」を高めることを狙っているのではないかと考えられる。
 このときアフロディアは秘密兵器「ビッグオクト」を示す。卵型の爆弾と思われるような兵器だが、どんな攻撃ができるのかは今のところ、謎である。

メカ紹介

パルサ・バーン

 Sー1星から脱出したマリン・レイガンが乗っていた戦闘機。詳しい性能等はよくわからないが、クインシュタイン博士はこの戦闘機を解析して、亜空間への推進エンジンの秘密を探ろうとしていた。地球よりはるかに高い科学技術によって製造されている。

バルディプライズ

 第2話から登場するブルーフィクサーの戦闘メカで、月面でマリンとパルサ・バーンを発見、移送するのに使用された。パイロットはジャック・オリバーだが、複座となっており、第2話では雷太も一緒に搭乗していた。ジェミーが乗ることもある。

キャタレンジャー

 第3話、アバンタイトルに何の説明もなく初登場する戦闘メカ。戦車のようなキャタピラを持っているが飛行も可能な万能メカである。パイロットは北斗雷太。実は第2話でパルサ・バーン調査のため長官は出撃を命じるが、このとき修理中であった。

 なお、隊員たちはメカに搭乗するときヘルメットを着用するが、ブルーフィクサーの制服の襟元を胸まで大きくはだけた、「ギャランドゥ」を歌う西城秀樹のごときスタイルなので、正直、ヘルメット姿を見るたび笑ってしまうのであった。

今回のポンコツ指揮官:月影長官

いいか、Sー1星人との戦いは、亜空間にまで及んでいる。
そういう極限状態においても、的確なる判断力と迅速なる決断力を
失わんのが優秀なるフィクサーの条件だ。

 クインシュタイン博士に促され、月影長官はブルーフィクサー隊員に訓練させ始めるが、「なんのためにこんな訓練をするのか」と隊員たちは不平を言うなど、いかにも気合の入らない様子。しかし月影長官は、質問には答えず隊員たちを鼓舞するばかりであった。のだが、そこへ「訓練を見せてもらいたい」とマリンが入ってくると、彼には可否を答えず、急にSー1星人との戦い云々を持ち出して、マリンに聞かせるように、わざとらしくも敵意を煽るかのごとく、上記の言葉を隊員たちに告げるのだった。
 やすやすと、その言葉に煽られた雷太は、訓練の様子を見て「違う」と指示するマリンに「降りてこい、スパイ野郎」と食ってかかる。この状況で、Sー1星との戦いを持ち出したことで、その敵意は目の前にいるマリンへと向けられてしまった。その結果沸き起こる憎悪は、チームの結束を遠ざけてしまうのであった。

 これと対照的なのが、ガットラー総統である。冒頭、攻撃が失敗し激昂するアフロディアに対して、彼は「何がおまえを駆り立てているのか」と問いかける。「マリンです」いうアフロディアの答えを聞いて、彼はアフロディアの心の中にある憎悪を利用し、地球侵攻へと向けさせてゆくのである。もしかしたら、アフロディアのこの憎悪がなかったなら、ガットラーは地球を移住先として選ばなかったかもしれない。無辜の民を全滅させるには、良心の咎めを吹き飛ばす、強い感情が必要であることを、彼は知っていたのであろう。

 この指揮官の「人の心を見抜く力」の差は、あとあとまで大きく響いてきそうである。

評点

 

★★★★★
両陣営に渦巻く憎悪とマリンの地球愛。物語を動かす人の思いにフォーカスしている。


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