第15話「アーガマ入港」1 小林昭人
第15話 序 「アーガマ入港」
0097年3月12日 午後3時
サイド5近郊
ティターンズ艦隊 重巡洋艦「アレキサンドリア」
サイド7からエウーゴの巡洋艦「アーガマ」を追跡していたティターンズ総旗艦「アレキサンドリア」はラグランジュⅤの周回軌道に乗る最後の加速に入った。前方に損傷しつつ加速する「アーガマ」の姿が見える。加速が終了し、艦をラグランジュⅤに乗せた後、艦長のガディ・キンゼー正規軍大佐、ティターンズ大佐が指揮席のバスク・オム大佐に報告する。バスク正規軍大佐のティターンズでの階級は「上級大将」、ティターンズ学園校長で、ジャマイカンをも凌ぐティターンズ実戦部隊の最高位である。
「相対距離70.15、、、70.13、、、70.08、、、どうやら僅差で我々の方が加速力が上だったようです。あと20分で主砲有効射程内に入ります。ただ、間もなく、ソロモン共和国の領空に入りますが、、」
「領空侵犯については気にしなくて良い、ガディ艦長。我々は「ティターンズ(TITANS)」だ。制式艦隊同様、各サイドおよび自治国に対する警察権を持つ。これは治安維持行動である。」
明らかな嘘を、バスクは傲慢に言い放った。
旗艦の側面をアーガマが投棄した機械類やモビルスーツが通過していく。余裕があればエウーゴのモビルスーツを回収しておきたいものだが、現在は追いついて撃破する方が先だ。ほとんど無傷のマラサイ三機。捨てるには惜しい機体だが、仕方あるまい。
その時、通信オペレータがソロモン艦隊からの通信を伝えた。オペレータが音声を艦橋のスピーカーに繋ぐ。
「こちら、ソロモン共和国宇宙艦隊、巡洋艦「レイキャビク」、貴艦は我が国の領域を侵犯している。速やかに針路を変更し、直ちに退去されたし。」
意外に早く来たな。回線が繋がり、通信モニタに「レイキャビク」艦長、エドワード・マーロウ大佐の顔が映る。思っていたより若い士官だ。ガディはマイクを取ると、モニタ上のソロモン艦長に返答した。
「サイド7を攻撃した正体不明艦を追っている。撃破するまで針路の変更はない。」
一瞬、画面上のマーロウが微笑したように見えた。「アーガマ」はすでにソロモン共和国の領空奥深くに入り込んでいる。
「その艦については別働隊が対処している。とにかく、貴艦は退去するように。」
ガディはテレビカメラを切り、通信オペレータの方をチラリと見た。どこから通信しているんだ?
「後方、ないし側方からだと思われますが、通信強度から見て、それほど遠くとは思えません。」
通信機を操作したオペレータが答える。
「位置を割り出せ。」
ガディは再びカメラのスイッチを入れた。テレビモニタに再びニヤニヤとしたマーロウの顔が映る。
「貴官は我々をティターンズだと知って、退去せよと言っているのか?」
ガディは上官のバスクをチラリと見た。乗員らの前で先の言い分を真っ向から否定され、凶暴な気分になっていることが外見からも分かる。タイタニアを忘れたか、慎重になれ、マーロウ。
返信を受けたマーロウはディーゼル砲術長に目配せした。
「威嚇射撃をくれてやれ。」
グワッ!
不意に後方から砲弾を撃ち込まれたガディは仰天した。艦橋の全員が驚愕し、位置を割り出したオペレータが叫ぶ。
「右舷120度マーク0! 距離三千二百メートルに「レイキャビク」!」
同時に、スピーカーに嘲笑するマーロウの声が入る。
「バルセロナ級の弱点はとっくに直してあると思ったがなあ、ガディ君。良かったら、次は君の艦をアルバータ・コロニーと同じ虐殺フルコースにしてやってもいいぞお、、」
「貴様、、こんな事をして、、」
ガディは歯ぎしりした。それを見てモニタ上のマーロウが笑う。艦橋からは見えないが、「レイキャビク」が例の320㎜砲を全門向けていることは見なくても分かる。
「ティターンズの今の戦力では共和国には敵わんよ。アルバータのようにはいかないね。分かったらさっさと帰れ、ガディ・キンゼー。」
それを聞き、上官のバスクの顔が見る見る紅潮していくのが、ガディにも分かった。
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