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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(8)ヒマラー山脈の決闘

あらすじ

 ヒマラー山脈の山中に巨大要塞を建造するアルデバロン。潜入による破壊工作を目論むブルーフィクサーはマリンを要塞に送り込むが、彼はそこで傷ついた一人の少女に出会う。

Aパート:ヒマラー山脈要塞攻略作戦、要塞周辺での虐殺、マリン潜入
Bパート:少女との出会いと約束、亜空間装置爆破、フォーメーションZ発動

 敵の侵略を察知するために打ち上げた衛星のほとんどが破壊される、という事態が発生。月影長官はブルー・フィクサー隊員たちに、その状況を説明していた。そこへクインシュタイン博士がやってきて一枚の写真を見せる。そこには傷ついて倒れた男が写っていた。ヒマラー山脈に住む山岳民で、死ぬ前に「要塞」とつぶやいたという。

 敵がヒマラー山脈山中に要塞を築き、そこを進行の拠点にするのでは?と雷太は推測。それを受けてオリバーも「よし、出動だ」と意気込むが、ここで珍しく月影長官が待ったをかけた。「敵が秘密裏に建造している以上、とてつもない要塞に違いない」というのだ。マリンも「それに正面からぶつかっても、亜空間に逃げられたらそれまでだ」と、冷静に分析する。亜空間を利用する、という発想が、Sー1星人のマリンならではである。

 そのため、まず敵の亜空間装置を破壊すること、そのために敵の規模を知る必要がある、ということになり、マリンが潜入作戦に名乗りを上げる。

 第6話で、数百万人の地球人の命を守るために、オリバーを犠牲にする、という世界連盟代表に真っ向から立ち向かい、「俺はいく」立ち上がったマリン。これがマリンにとって、一つの転機になったに違いない。それ以降、仲間に受け入れられ、彼自身も積極的に前線に飛び込んでいくようになる。

 危険な任務である、として、躊躇する月影を説得し、マリンは出動する。亜空間装置を破壊し敵を釘付けにして総攻撃をかける、というのがその作戦である。そんなマリンに、クインシュタイン博士は試作段階だというアタッシェケース型の秘密装置を手渡す。そして彼らが出動すると、今回は早くも合体するのだった。

 第8話は、これまでとやや趣の異なる作風である。ここまで終盤に合体して瞬時に敵をやっつけるという登場の仕方だった主役メカを、前に押してきたことが一つ。そして、隊に馴染んできたマリンにコミカルな場面や表情が加えられたことが一つ。また、これまで一人も出てこなかった「子どもキャラ」が登場することである。ある意味、本作の路線とはやや外れた、フツーの「ロボットもの」といえるだろう。

 さて、一方の敵側であるが、雷太の推測どおり、ガットラーはヒマラー山脈の山中に巨大要塞を建造していた。しかも現地人らが捕らえられ、強制労働させられている様子である。最高指揮官のアフロディアは地球侵略の足がかりとなるこの要塞に「アジア地帯は狙い撃ちだ」と意気軒高の様子。そこへ、現場を指揮監督しているらしいガロという将校がやってきて、地球人らが脱走したことを報告する。しかしアフロディアは「ここまで完成すれば、奴らにはもう用はない」と言い放ち、すべて始末せよ、と命じるのだった。

 その一言で容赦なく虐殺される山岳民、いつも大勢の犠牲者が出てから動き出すのが本作だが、その夜、ようやくバルディオスは現地にたどり着き、いよいよマリンの要塞潜入作戦が動き出す。マリンは「夜明けまでに帰ってこなければ、俺が死んだときだ」と決意を口にし、夜明けになったら構わず攻撃をかけてくれ、といって要塞の方へと向かって行った。

 警備兵を、クインシュタイン博士から手渡された秘密の装置で撃退すると、マリンは要塞のある街へと入っていく。村人らが殺害され、廃墟となった街を巡回する兵士の隊列をやりすごすため廃屋に身を隠した。そのとき、殺害を免れ生き延びていた一人の少女と出会う。マリンは動けないでいた彼女を助け出し傷の手当てをすると、「いいかい、ここにおとなしく、じっとしているんだ、お兄ちゃんが必ず助けにきてやるから」と約束を交わした。

 異星人であるマリンが、顔も知らず出会うこともない大勢の地球人のために命をかける、という大きな戦いの構図の中に、廃墟で出会った一人の少女を助けようとするという構図が入れ込まれており、全体的には重い話の多い本作の中で、「大勢を助けるために、一人を犠牲にしたくはない」という、ここまで描かれてきたマリンの信念をわかりやすい物語に落とし込んでいるともいえよう。

 少女の待つ廃墟をあとに、敵の要塞に乗り込んだマリンは、難なく亜空間装置を破壊する。ここではやり、アフロディアとの衝撃の再会を期待してしまうのであるが、それはまだ、先のことのようである。それよりも後半のクライマックスは、アフロディアが命じた「フォーメーションZ」で、のちに人気シリーズとなる「超時空要塞マクロス」を彷彿させる驚きのアイデアがここにあるのだが、バルディオスの大活躍であっけない最期を迎えるのだった。

 本作にはめずらしく、コメカルな場面を配した明るくわかりやすい話だが、特筆すべきは絵の美しさで、マリン、アフロディアという主役キャラの美男美女ぶりが堪能できる。毎回このクオリティであればよかったのに…と、悔やまれる。

キャラクター紹介

ガロ

 アフロディアの指揮下で、巨大要塞の建造を指揮する将校。現地民を集めて強制労働させるなどしていた。アフロディアに対しては上官なのでやむなく従っている感があり、どこか不穏な空気を漂わせていた。

メカ紹介

巨大要塞

 亜空間装置を備え付け、いざというときは亜空間に脱出できる機能を備えた巨大要塞。ヒマラー山脈山中に建造され、アジア地帯侵攻の拠点とする予定だった。フォーメーションZを発動すると、巨大ロボットに変形するという驚きの機能も有していた。

今回のポンコツ指揮官:アフロディア

 冒頭の説明から「今回も見切り出動でひどい目にあうパターンか?」と思いきや、意外に冷静に状況を分析し、マリンも同調するなど、ポンコツぶりから一転、だんだん有能かも?と思えてきた月影長官。組織としてのまとまりも出てきたようで、彼らのやりとりは安心して見ていられるようになった感がある。
 それに対して、相変わらずのポンコツぶりを発揮してくれるのが、アフロディアである。地球側の衛星を次々撃ち落とすなど、地球侵略への足がかりとなる活躍を見せるアルデバロンの巨大要塞だが、あっという間に大量動員で要塞を建造してしまう彼女の指揮能力はさすがガットラーが見込んだだけのことはある、とはいうものの、これは現場監督的立場にあるらしいガロという将校の力あってのことかもしれない。
 それも含めて、決してポンコツとは言い難い指揮官の彼女が、どうしようもなくポンコツになってしまうときがある。その発動のきっかけとなるのが「マリン」であることは疑いようがない。
 今回は、要塞に潜入したマリンと直接対面はしなかったものの、ニアミスといっていいほど近づいた。それで激情にスイッチの入ってしまった彼女は、ガロにフォーメーションZの発動を命じて、こう言うのだ。

今だ、マリンを殺せ! バルディオスごと、叩きつぶすのだ!。

 確かに、マリンに弟を殺された、という恨みが彼女の戦闘意欲を掻き立てていることは事実である。だが、軍のトップに立つ最高戦闘指揮官が、そうした個人的な恨みを晴らすために戦っている、と部下に思われたとしたら、どうだろうか。
 現に、彼女の、その叫びを耳にしたガロは、こうつぶやいた。「何がマリンだ、これでは地球征服はいつになるやら」。そう、彼女のその姿勢は、士気の低下を招いているのである。変形して巨大ロボットになる要塞、という斬新なアイデアも、もろくも、その彼女の私情を隠さない姿勢のために、バルディオスの前に崩れ去ってしまう。これをポンコツと言わずして、何をポンコツというのだろうか。
 このままでは、地球征服の前に部下に寝首をかかれないか、心配になってしまう、そんな指揮官アフロディアであった。

評点

★★★
コミカルな表情のマリンが楽しめる貴重な回。敵が弱すぎてハラハラ感が乏しい。

 


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