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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (10)我が友 亜空間に散る

あらすじ

 敵から火星への攻撃地点の情報が事前にリークされる。それを信じてブルーフィクサーが出動。一方アルデバロンでは、マリンの旧友キャリン・フリックが地球側に情報を流していると疑われ、アフロディアが罠を仕掛ける。

Aパート:怪電波受信、火星攻撃隊全滅、アフロディアの作戦、フリック亡命
Bパート:バルディオス合体、亜空間突入、アフロディアの罠、裏切るフリック

コメント

 ここ数回アバンタイトルがなかったが、今回はアリ、番組の形式にバラつきがある本作である。太陽系の惑星は土星、水星、木星の各基地がアルデバロンに占領され、残る火星で死闘が続いていた。

 そんなある日、ブルーフィクサー基地は敵から発信された怪電波をキャッチする。敵が攻撃目標をを知らせている、というのだ。その情報はウソではなく、宇宙時間72時、情報どおりに攻撃が行われる。次の情報もアルデバロンの攻撃を言い当てた。3度目の受信で、情報の信憑性を疑う月影長官は、はキャッチした怪電波を解読機にかけさせた。これまで、情報を信じなかったことで犠牲を出したことを悔やんだ月影は、ブルーフィクサーに出動を命じる。

 当初は思慮に欠ける判断が目立った月影だが、徐々に慎重さを身につけているようだ。だが、なお物足りないのは、敵の意図を推し量るに最適な、マリン・レイガンという人物を味方につけているのを失念していることだろうか。
 案の定、火星の指定視点で待機する間、そこに思い至った北条雷太がマリンに尋ねた。「アルデバロンに情報を流す人物の心当たりはないか?」マリンの答えは曖昧だった、待機時間の49時になればいずれ分かる、と。やがて情報通りに敵が現れるが、待ち伏せをしていた彼らにとって、敵の殲滅はたやすいことだった。

 火星攻撃隊全滅の報告は、ガットラーにすぐさま伝わった。待ち伏せされた、とアフロディアは弁明し、キャリン・フリックという迎撃メカの操縦士に情報漏洩の疑いありと言及する。証拠はないが、かつてマリンと同じ学校の学生だったというのだ。
 激怒するガットラーに対し、アフロディアは「私に少し考えがございます」と応じ、フリックを呼び出して任務を言い渡した。
 亜空間GH107に地球壊滅兵器の工場が完成した。ここを地球の亜空間メカに攻撃されると致命的な痛手を被ることになる、そのため地球がもつ唯一の亜空間メカ、バルディオスを倒せ、というのがその命令だった。

 火星で待機していたブルーフィクサーの3人の前に、やがて敵の新型シルバーシャークが現れる。そこから降りてきたフリックの姿にマリンは驚く。彼はかつて、S-1星の学校ムセイオンで学業トップを争った親友だった。マリンの回想では、ただ一人しか認められない学士の試験でマリンに敗れ、その理由が試験の点数ではなく家柄だったことが、二人の間にわだかまりを残しているようにも受け取れる。
 マリンに対して、敵の情報を流していたのは自分であることを明かし、地球側に亡命したいと申し出る。


 彼を信じてともに戦うのか、それともこれは敵の罠なのか。見ている私たちは、アフロディアに命じられてここへ来たという経緯を知るだけに、過去の因縁もありそうなフリックを、マリンほどには信じられないのだが、意外なことに、ここで月影長官がゴーサインを出す。ブリックを亡命者として受け入れ、彼とともに亜空間攻撃を命じたのだ。
 最初の2度の情報リークを信じなかった慎重さを見せた月影が、あっさりフリックを信じたことにイヤーな予感がするが、やがてそれは的中、バルディオスとシルバーシャークはアフロディアの罠にかかり、亜空間の歪みに閉じ込められてしまうのだった。

 これは本作全体の惜しいところだと思うのだが、唐突に登場したゲストキャラが、重要な役割を果たして消えてゆく、というパターンがちらほら見られる。5話のアランがそうだったが、今回のフリックも、その運命はタイトルコールでバレバレである。
 だが、マリンの親友だといっても、彼自身がどんな人間なのかの描写はわずかで、ドラマの中で思い入れを持つにまで至らないまま、クライマックスを迎えてしまう。そこがもったいない、と思わずにはいられない。例えば「機動戦士ガンダム」のスレッガー・ロウのように、数話分ぐらい絡みがあれば、ラストのマリンの悲しみが、もっと胸に迫ってくるものになったのではななろうか。

 一つ言えば、9話のバード国王と、この話のフリックの立ち位置がよく似ており、どちらも本心が明らかでないままマリンらと相対することになる。バード国王とはジェミーとの関係にしっかりと時間を割いており(おかげでバルディオスの出番がなかった)心を打つ話となったが、今回はその分バルディオスが合体、しかも様々な必殺技のオンパレードと、前回を補完するような活躍ぶりなため、フリックとマリンがどれほどの親友だったのか、その思いの深さが十分に表現されたとはいえず、ラストはマリンの悲しみを共有するというよりも、雷太に同調してポカーンとしてしまったのが本当である。
 その意味で、重い話なのに物足りなく感じる、惜しい回となった。

キャラクター紹介

キャリン・フリック

 アルデバロンの迎撃メカ操縦士。実はムセイオンという学校のマリンの同級生で、成績トップを争った親友だった。年に一人選ばれる学士の試験でマリンに敗れたが、それは点数ではなく彼は孤児、マリンは大学者の息子という家柄の違いだったという。それが原因で彼はマリンの前から姿を消したのだったが…。

今回の謎用語:ムセイオン

 もとは、古代ギリシャの学問研究所をあらわすギリシャ語で、Sー1星の最高学府の一つ(らしい)。アフロディアによれば平和主義者の巣、侵略反対の最大勢力で、ガットラー親衛隊が反対者を殺害したため、ここの卒業生であるフリックもアルデバロンを憎んでいるに違いない、と推測していた。

今回のスポットライト:裏切りの真相

 亡命して地球側でアルデバロンと戦う、とマリンに申し出たフリックだったが、バルディオスとともに秘密工場があるという亜空間ポイントへ攻撃向かったところで亜空間の歪みに巻き込まれ、全てがアフロディアの罠だったことを悟る。マリンは最終兵器と思しき「バルビーム」まで使って空間を破り脱出を図ろうとするが、フリックのシルバーシャークのレーザーとの合わせ技でもエネルギーがまだ足りず、脱出不能に陥ってしまう。
 そのときの雷太の「もっと大きなエネルギーじゃないと無理だ」という言葉に表情を変えたフリックは、突如としてバルディオスへ攻撃の矛先を向けていうのだった。
「マリン、おれがなぜ軍隊に入ったか教えてやろう、軍隊には家柄は関係ない、バルディオスを倒せば隊長にだってなれる!」
 フリックの言葉を信じようとしないマリンだったが、彼はますます激しくバルディオスを攻撃し、ついにシルバーシャークと相討ちとなって大爆発を引き起こすのだった。

 その爆発で亜空間の歪みからの脱出を果たしたバルディオスの3人は、海辺で意識を取り戻す。「フリックのやつ、バルディオスを倒そうとして逆に自滅して俺たちを助けちまったぜ」と、起こったことを雷太は彼なりに解釈して話すのだが、そんな彼にマリンの拳が飛んだ。

フリックは、シルバーシャークとバルディオスが正面からぶつかれば、
どちらが爆発するかぐらい知っていたはずだ!

 アフロディアの罠にかけられたことを悟った彼は、マリンを生かすために、わざと敵対するふりをしてみせた、というのだ。こうして親友を失ったマリンは「また一つおれに復讐のタネを植えつけた」と、ガットラーへの怒りをあらわにした。大切な人を失う悲しみは、こうして人の心を黒く覆っていくのだ。

評点

★★★
 フリックとマリンとの過去の交友関係の掘り下げがもう少しあれば良かったのだが。

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