ちょっと言えない

思えば私は、何かと、「ちょっと、言えない」人生を送ってきたようだ。
日頃は、案外思ったことは言えるほうで、良いことも悪いことも、きちんと伝えていきたいな、と思っている。けれど、振り返ると、ここぞというとき、しかも大事なことが「ちょっと、言えてない」。

それは、結婚指輪を決めるときのこと。結婚指輪なんて、一度着けたら一生モノ、いつでもどこでも身につけておく大切な存在。特に私は普段アクセサリーをつけることが少なく、アクセサリー選びもあまり慣れてない。だからこそ、結婚指輪を選ぶのはとても重大なことに感じた。
アクセサリーには疎いので、いざ結婚指輪を選ぼうと思ってもどこから探していいかわからない。私は、信頼のおける友人に聞いたりして、いくつかのブランドをチョイスした。なかでも、一番気になったブランドは東京と大阪で取り扱いがあるという。
私たちは、休みを利用して大阪まで出かけることにした。目的はただひとつ、結婚指輪の購入だ。本当はいろいろとお店をチェックして臨みたかったけれど、「ちょっと、言えず」、まあでも、今回は大きなミッションがあるしな、と。
迷いながら、お目当てのお店に辿りついた。いつもなら入ることを躊躇してしまいそうな、洗練され、ちょっぴり厳かな雰囲気さえ漂よう店だった。しかし今回は、入らなくては始まらない。こここそが目的の場所だからだ。
店内の商品をゆっくり眺めつつ、指輪のあるショーケースへと足を向ける。お目当ての指輪はあった。
あきらかに緊張している私たち。店内の雰囲気に居心地の悪いような気持ちと、結婚指輪を選ぶという重大さと照れくささ、そしてこういうときにあまり頼りにならないオット、、いろんなものを抱えながら、お店の人に声をかけた。
「結婚指輪を見に来たのですが、、」
すると、お店の方は、慣れた様子でたくさんの輪っかがついたキーホルダーみたいなのを取り出した。指輪のサイズをはかるのだ。私たちは婚約指輪がなかったので(これも実は「ちょっと、言えなかった」)、お互いの指のサイズを知らなかったのだ。そうか、そうだよな。店頭にあるものが自分たちに合うとは限らない。ひとまず、それぞれ指のサイズを見てもらいつつ、お店にある指輪をはめてみる。それぞれの手に合うか、確認、確認。これがとても、照れくさかった。私の手は決して華奢な手ではなく、よって繊細な指輪はあまり似合わないからだ。いいな、と思った指輪が自分の指や手に合うとは限らない。ふと、隣のオットを見ると、特に恥ずかしい様子もなく、左手の薬指に指輪をはめて自分の手を眺めている。そして、とてもサマになっていた。思わず、「指輪したことあるの?」と聞いてしまった。(もちろん、オットは初めてだ。) 私たちは、あれこれ言いながら、いつまでに指輪が必要か、もし刻印をするならば結婚式には合わないね、などお店の方に教わりながら手に指輪が馴染む(それから気持ちもリラックスする)時間を待った。
ようやく、お互い、決まりかけたかな
と思ったとき、ふと、隣に全く違うブランドでデザインの指輪が並んであった。どちらかと言うと、お目当てのものよりは太く、無骨な雰囲気だった。
「これも見せてもらっていいですか?」
お店の雰囲気に慣れてきた頃だったからか、自然と聞くことができた。
私たちはまた互いに、その無骨な指輪を試してみた。着けてみると、最初に着けたものと全く雰囲気がちがった。まるで自分の手まで変わったみたいだった。
隣のオットの左手を見ると、同じように別人の手になっていた。そして、すっごく似合っていたのだ!!
私たちは目を合わせ、「こっちがいいかもね!!」すぐに意見は揃った。
私たちの結婚指輪は、お目当ての隣にあったノーチェックの指輪に決定したのです!!

なんとも、、私たちらしい。と言えば、私たちらしい結論だ。計画性はないけれど、結果オーライになる、というか、あまりこだわらない、というか、あまり執着しないというか。
家族からはトホホな様子で、まわりからはいいじゃん!な様子で、「ふたりらしいね」と言われるこの顛末。
オットはすんなり受け入れているスタイルのようだけど、じ、じ、実は私は、「いろいろと、もっと、こだわりたい!」「とことんリサーチして、とことんやりたい!」のです!!!

でもこれがいつも「ちょっと、言えない。」

毎回毎回「ちょっと、言えない」が重なって、いつしか私たちのスタイルが確立されてしまったのだ。

でも。この「ちょっと、言う」ことが意外に簡単ではない。この、言いたいことを言えるはずの私にも、だ。

だって、だって。
私たちは夫婦ですから。

夫婦になって一番変わったことかもしれない。「自分の納得いくまでとことんする」を諦めたこと。

全部、自分の思い通りやっていたら、オットを置いてきぼりにして好き勝手することになる。私の意見は、私だけの意見であり、夫婦の意見ではない。

もしかしたら、私の「ちょっと、言いたい」をオットにぶつけてみて、ふたりでとことん決めればいいのかもしれない。それで言い合いになったりしながら、極めつけの結論を出すべきなのかもしれない。それがいい夫婦なのかもしれない。

けれど、私は今のところ、「ちょっと、言えない」が続いている。

ときどき、「if...もしも、、」と頭をよぎる。もしあのとき「ちょっと、言えてたら」どうなっていただろうか。
私たち夫婦の、家族の選択や関係性も変わってただろうか。。。

これでいいのか、このままでいいのか、まだ分からない。

もうすこしこのままでやってみようと思う。
「if...もしも」を想像しながら。

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