東京から通うフリーライター

とんがりハウスで一緒に暮らしていたもう一人に、彼女がいる。東京在住のフリーライターだ。彼女は、世の中の動きに敏感で、物事の処理能力や行動力に優れ、おそらく“ネタ”を見つける嗅覚も高い。そんなわけだから、あの町に興味を持ち、気に入るのもおかしいことではなかった。町のキーパーソンを見つけ、言葉に耳を傾けることで何かを見いだそうとしているのが彼女の好奇心旺盛な目から伝わってきた。私は、町に暮らしていながらもまだ半分は浮き足立つような所在ない気持ちで日々を送っていたものだから、すごく冷静に、町に関わる人を眺めていたのだと思う。

彼女はいつも、よく喋った。話すというより、喋るというほうが合っている、うまくは言えないがそんな感じだ。私はいつも、相槌をうつのに精一杯で、気づけば文字通り、目がまわってしまっていた。彼女はいつも計画的で、そして完璧主義であった。とんがりハウスにいても、まるで働くように暮らしているように感じた。

あるとき、彼女は町でひそかに人気の餃子屋へ行った。餃子の味はたしかだ。ひそかに人気なのは、餃子、ではなく、お母さんのしてくれる占いだ。彼女は、これまでの人生と、これからの人生についてみてもらい、「あなたは変わらず一生懸命働きつづける」と言われたと、すこしがっかりし、またすこし安心した様子で帰宅した。

人には「運命」があるという。この町には、さまざまな人が集う。ある者はとどまり、ある者は通い、ある者は去って行く。集うという「運命」は同じながらも、それぞれ、やってくる目的やきっかけは人の数ほどにちがうのだ。

その後、彼女は、東京からほど近い、海の見える町へ引っ越したそうだ。東京から距離を保ちつつ、きっと彼女は、一生懸命働きつづけているのだろう。


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