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ショートショートnote杯の作品

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ショートショートnote杯で投稿した作品です。 https://note.com/simpeiidea/n/n494a3af60f97
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#プロ

しゃべるピアノ

その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。 彼の演奏はそれは素晴らしく、ピアノでの演奏の限界を超えているようにさえ感じさせるその音色は人々を魅了し、多くの投げ銭による収入を得ていた。 しかし、ある日のこといつものように彼が演奏していると急に演奏が止まってしまい、それと同時に咳き込んだような音が聞こえてきた。 彼の演奏を見ていた観客たちが何事かとピアノに駆け寄る。彼は日頃からピアノに近寄ることを禁止していたが、一度起きてしまった流れは止められない。

プロのマッチ

「マッチいりませんかぁ?」 その少女は凍えるような寒さの中でマッチを売り続けていた。今は裸足で帽子すら被っていない……おそらく凍死するのは時間の問題だろう。 マッチである俺はそんな様子をただ見守っていた。 ただのしがないマッチでしかない俺が出来るのは、自身をしっかりと燃え上がらせることだけだった。 少女はあまりの寒さに絶えられなくなったのか、ついに1本のマッチを取り出して火をつける。 俺は全力で自身を炎上させる。 俺を見つめる少女の目は、そのわずかな暖かさと明かり